天津神と国津神の和解は成った。次は由宇香が精神世界でメッセージを伝えた、五色不動の復活を目指したいところだ。が、各地に散らばる不動尊は4つしかない。残りのひとつをどうやって探すかが問題だ。一方、東京タワーに閃光が走るのが見えた、といった情報があり、何か隠されていそうである。まずはこちらを追うことにしよう。
といっても、ふつうに東京タワーを上っても、なにも変わらない。妖精エルフや地霊ドワーフがうじゃうじゃいる展望台から、闘鬼ヤクシニー、降天使エリゴール、悪霊レギオンらを斃して最上階へ。しかし、部屋の中央のドアを開けても、空が広がるばかり。イベントが起きそうなのは何となくわかるのだが……。
「イベントの鍵は月齢にあり」、これが偽典を解く上での鉄則である。そういえば、閃光が走ったのも満月だと言っていたような……。やはり今回も月齢に関係ありそうだ。満月のとき、東京タワーに再挑戦する。
満月だと悪魔と会話できないので、途中の戦闘は避けられない。すべて斃しながら上っていくしかない。最上階で、再び中央のドアのところへ向かおうとすると、そこに半人半獣、サソリのような姿をした悪魔が現れて行く手を阻んだ。悪魔は、中有には行かせない、と言って有無を言わせず戦闘を仕掛けてくる。
悪魔の名は、タムズという。別名をタンムズともいい、牧神・植物神でフェニキアの神話ではイシュタルの夫である。狩猟中に野猪に殺され、その血で河が赤くなったという。タムズが死んだのち、イシュタルが夫を取り戻すべく冥界へ降りた有名な伝説がある。このこと意味は、地母神の夫たる「王」は、みずから死に、妻によって再生するという行為を繰り返すことで季節の推移、つまりは豊穣を保証する存在となる、ということである。これは、豊穣神バールと共通する要素であり、実際、バールとタムズは同一視されている。ちなみに、バールという言葉には“犠牲”という意味がある。また、バールが天候神であり、みずから育てるところの植物をも司ると考えられたことも、バールとタムズが混同されるようになった一因だ。
さらに重要なことに、タムズが殺されるくだりは、ギリシャ神話のアドニスのエピソードと同じである。そして、やはりタムズとアドニスは同一視されている。これによって、バール・タムズ・アドニスというひとつのラインが形成されることになる。バールもアドニスも、同じルーツをもつ存在だったのだ。
補足情報。タムズがサソリの姿をしていることについて、生体エナジー協会主宰より情報提供があった。バビロニアの穀物神タムズが蠍(ギルタブ:死と冥界の象徴)に殺されるというストーリーを前提に、1492年のレコンキスタ(失地回復)が関係しているという。すなわち、イスラム勢力下にあったイベリア半島がカトリック勢力によって解放された際、スペイン全土にユダヤ人追放令が出されたため、当地のユダヤ人が崇拝していたタムズは貶められ、ギルタブと融合したのではないかというのだ。スペインの異端狩りは苛烈を極め、多くのユダヤ人は隠れユダヤ教徒(マラネン)となったこと、後代の悪魔学では地獄のスペイン大使となったことも考え合わせるならば、非常に有力な見解だと言えよう。
さて、タムズの実力はというと、ダムドーラをのぞけば基本的に力押しである。ただし、デサマンには注意。体力は高い。並のボス敵といったところか。たぶん、あまり苦戦することはないだろう。斃すとエメラルドを落とす。
タムズを斃すと、期待はずれだった、みたいなことを言いながら、あのデカラビアが出現。どうしても葛城たちを中有なる場所に行かせたくないらしい。連戦となる。
デカラビアは、悪魔学ではソロモン王によって封印された72柱の魔神の一人で、魔術師によって召喚されると、魔法円内の五芒星形に、光り輝く星のような姿でとどまっているという。植物と鉱物に関する秘められた知識を有し、鳥の形をした精霊を使い魔とする。ここでも、サイコブラスト、サバトマ、マカラカーンなどの多彩な魔法を操る、油断のできない相手だ。斃すとオニキスを落とし、由宇香の左脚を取り戻すことができる。帰って保存したいところだが、まずは中有へ向かう方を優先すべきだろう。
ここで、有明で爆弾に飛びつかず、消え去ろうとするデカラビアを追いかけた場合の展開についても触れておこう。テレポートした先はなぜか銀座のバール教団支部。そこで戦闘になる。斃して由宇香の左脚を手に入れ、レインボーブリッジに戻ると、ミュータントの女性が待っていて、ヒルコが死んだことを告げる。その後の展開はしばらく変わらないが、東京タワー最上階でタムズを斃したあとが違う。邪神イトハカが出現し、言葉を発するのに適さない声帯で無理矢理しゃべっているような、かすれた耳障りな声をあげる。よくよく聞いてみると、タムズの仇を討つつもりらしい。戦闘になる。が、弱い。斃すとオニキスを落とす。
ちなみに、イトハカは、イタカとも呼ばれ、クトゥルー神話では太古の地球を支配していた古い神々の一人とされている。そのルーツは、カナダの原住民の間で恐れられた、骸骨のような顔をした巨人ウェンディゴである。ウェンディゴは吹雪の晩などに現れ、人をさらって食べるとされた。冬の恐怖を象徴する存在だ。
本筋へ戻ろう。ドアを開けて天を仰ぐと、ハリティーからもらったカーラヴァジュラが反応する。カーラヴァジュラの光は葛城たちを包み、振動が全身を伝わり、葛城たちの体は細かな光の粒子に分解されていく。そして、雲の裂け目へと吸い込まれていった……。
着いたところは、光り輝く壁や床に囲まれた世界だった。高天原に似ているが、様子は少し違う。それほど清浄な世界でもなさそうだ。なぜなら、歩き回ってみるとわかるが、闘鬼ヤクシャ、邪鬼ラクシャーサ、鬼女ダーキニなどが徘徊している。要するに夜叉羅刹の棲むところというわけだ。当然、人の姿はない。
テレポートやターンテーブルなどのトラップをかいくぐりながら、中央の部屋を目指す。これはいつもの通りだ。気づくのは、途中に泉がたくさんあること。必ず番人の精霊がいて、泉を汚すものには容赦なく襲いかかってくる。汚す気がないことを示せば、マッカを払えば使わせてくれる。番人を殺してしまうと、泉は血で真っ赤に染まり、二度と使えなくなる。だが、噂ではここで遭遇して斃しておかないと合体で作ることができない悪魔もいるとか。蛇足だが、青い泉では天叢雲剣レプリカを雷迅剣と交換してもらえる。番人の質問に答えなければならないが、「金の斧・銀の斧」の話の要領だから、迷うことはないだろう。
あと、隠し通路があるのに注意しなければならない。ダメージゾーンを乗り越えた先には宝箱があり、中にはマイトレーヤの剣が入っている。この剣は、持ち主の力を剣の威力に転化するという珍しいもので、威力も火龍剣を超える。ただ、「呪殺」の相性が設定されているので、ボスには通用しないという欠点がある(これは致命的か)。また、3つのうちからひとつだけを選べる宝箱がある。貴人の香、反魂香6個、ソーマのどれかが当たる。
さて、中央の部屋近くまで来ると、戦いの喧噪が聞こえてくる。相当派手な戦闘が行われているらしい。急いで部屋へ。すると、そこには悪魔の軍勢が。真ん中に一人の僧侶がいて、その軍勢と闘っている。ただ、孤軍奮闘というわけではなく、少数ではあるが彼に従う悪魔もいるようだ。だが、多勢に無勢である。このままではいつか殺されてしまうのは目に見えている。葛城たちが助太刀しようとすると、また悪魔が行く手を阻む。それは、渡邊を殺して本人になりすまし、ペンタグランマを壊滅させた張本人、あのバールハダドであった。精神世界でそのヴィジョンを見ることがあったが、いまこのときのあることを予言するものだったのかもしれない。
バールハダドも葛城たちの顔には見覚えがあるようだ。そして、バエルの配下を斃しまくっていることも承知しているらしい。どちらにとっても、いつかは斃さねばならない相手だったのだ。ここで勝負をつけようではないか。
はっきり言って、バールハダドはメチャクチャ強い。ジオンダイン、マハジオンガといった魔法の威力もさることながら、攻撃力が半端ではない。豊穣の剣、豊穣の鎧などの強力な武具に身を包み、体力も抜群に高い。全力でかからないと、全滅のおそれがある。しかも、マハデサマンでこちらの仲魔すべてをコンピューターに還してしまう。かなり剣呑である。
ここで、バールハダドの出自について述べておこう。生体エナジー協会主宰(ご本人の希望により名前は伏せる)のご指摘を参考にした。
バールハダドは、カナアンの神で、ハダドとも呼ばれる。というのは、「バール(Baal)は『主』の意であり、この近辺の神々にはよく冠せられる称号である」からである。このハダドはセム系のバビロニア・アッシリアではアダドにあたり、シュメールの神話に登場するエンリルにその起源をもつ。エンリルは最高神アヌから王権を授けられた天の行政官であり、天候を司っていた。こうしたつながりをもつハダドも、やはり嵐や稲妻を自在に操る神である。実は、神話上はこのバールハダドこそ、バアル神そのものなのだ。だが、偽典ではあくまで別の存在として扱われている。おそらく、のちに旧約聖書で認識され、さらに時代が下って魔王のひとりと見なされるようになったバアル神(すなわちバエル)と、カナアンで信仰されたバールハダドを区別しているのだろう。
ついでにアダドとバールハダドのエピソードも挙げておこう。アダドについては、『ギルガメシュ叙事詩』第十一の石版に次のような記述がある。
光り輝くころになると
空の果てから黒雲が起ち上った
アダドはそのまんなかで神鳴を鳴らした
(中略)
アダドに対する怖れは天にまで達した
彼こそ輝きを闇へもどした者
広い国土は壺のように打ちこわせ
一日のあいだ台風が吹いた
このようにして、アダドは大洪水を引き起こし、多くの都市と人間を水の底に沈めた。その結果、ウトナピシュティムら少数の人間しか生き残ることはできなかった。このエピソードは、旧約聖書の有名なノアの箱船のストーリーに取り入れられている。
また、バールハダドはカナアンの神話で、“海の王子”を名乗る「混沌」と戦い、“追放する者”という名の稲妻を放って撃ち破る、「秩序」を象徴する存在になっている。この神話と同一のエピソードかどうかは不明だが、「原初の蛇」の称号を持つ七頭龍ロタンをうち砕いたとも言われている。これはレヴィアタンをうち砕いたY.H.V.H.という形で、旧約聖書にも反映されている。
インドの神話では暴風神はサイクロンを神格化したルドラであり、記紀神話ではスサノオである。どちらも荒ぶる神、破壊神だ。サイクロンはインド洋からやってくるし、スサノオはイザナギから海を支配するよう言われた。どちらも海に関係している。しかし、海という「混沌」に対する「秩序」というイメージとは逆に、「海からやってくる混沌」を現していると見るべきだろう。バールハダドらと共通性があるようで、微妙に違うのだ。
閑話休題。バールハダドを撃破すると、大将を失った悪魔の軍勢はちりぢりになって退却を始める。戦闘が終わったのち、僧侶が話しかけてくる。高位の霊能者とはいえ、あれだけの悪魔の軍勢にも臆せず互角以上の戦いを見せた腕前は見事というほかない。しかも、疲弊した様子もないのだ。
僧侶は、樹海と名乗った。葛城に礼を言う。ここ中有は天国でも地獄でもない、その中間に有るところだという。キリスト教には煉獄という概念があるが、それに近いのだろう。転生を待つ死者の魂がひとときとどまる場所なのだ。それが悪魔に蹂躙されそうになり、中有を守るべく遣わされたのが樹海だった。しかし、数の差に押され、悪魔の顎にかからんとしたそのとき、葛城たちが現れ、悪魔を撃退することができた。まさに葛城とは因縁浅からぬ関係だったというわけ。
遣わされた、というのが気になるところだ。バエルに敵対するのは、天津神・国津神や天使だけではないということだ。大破壊前の東京にもロウサイドに与する魔神トールがいたが、中有に樹海を遣わしたのは、アスラ族の頂点に立つとされる魔神ヴィローシャナ、すなわち大日如来なのではないだろうか。ロウサイドの神々は団結しているわけではないにせよ、それぞれが目標とする秩序のため、独自の動きを見せているのだと理解できよう。
ちなみに、樹海はコミック版女神転生で登場するらしい。真言宗系の僧侶で、ストーリーの途中で行方不明になったとか(生体エナジー協会主宰某氏からの情報)。真言宗系なら、最高神ヴィローシャナの命を受けていた可能性も大いにあるというわけだ。
樹海を伴って地上へ戻ることに。だが、帰りに泉へ立ち寄るのを忘れてはいけない。たくさんある泉の中で、ただひとつだけ、アイテムを変化させる力を秘めた泉がある。その泉に、草薙剣を投げ入れ、番人である精霊の質問にうまく答えると、代わりに
天叢雲剣は、草薙剣よりも威力が格段に向上している。攻撃回数が多いのもポイント。戦闘中に使用すれば、マハジオラの効果がある。雷雲のイメージということだろう。敵の属性を選ばない点もいい。レプリカとは大違いだ。
泉には、もうひとつの力がある。泉にマイトレーヤの剣を投げ入れ、やはり精霊の質問にうまく答えると、豊穣の剣を入手できる。バール神の祝福を受けたという武器で、実は最強の武器のひとつ。その威力もさることながら、攻撃回数がすごく多いのだ。大地の霊力を発しており、瀕死の淵にある者をすくい上げるリカームの効果もある。ただし、使いこなすにはかなりの体力が必要。
さて、もと来た道を引き返し、地上へ。東京タワーに着くと、樹海は別れを告げる。彼は護国寺に居を構えるとのこと。訪れればいつでも会ってくれるそうだ。
ようやく五色不動の攻略に着手できる、と言いたいところだが、その前に御花屋敷へ。2つある泉のうちの一方が重要だ。泉の前に立つと、どこからともなく声が。葛城が手にする天叢雲剣をもっと良く見せてくれという。見せてやると、今度は剣をくれという。厚かましい奴である。当然断る。すると、声の主が姿を現す。それは、ハアゲンティなる悪魔だった。剣を力ずくで奪おうとしてくる。渡すわけにはいかない。戦闘となる。
ハアゲンティは、別名をハゲンティともいい、悪魔学ではソロモン王に封印された72柱の魔神の一人。有翼総統の称号を持つ。グリフィンの翼のある雄牛の姿をしていて、角の先端が金になっている。錬金術に優れ、触れるだけで非金属を金に、水を酒に変えることができるという。ここでは、ジオンガやハウリングなどを繰り出してくるが、バールハダドに比べれば、楽勝といってもいいくらいだろう。
ハアゲンティを撃破したあと、泉に天叢雲剣を投げ入れる。すると、精霊が現れるので、いままでと同じ要領で答えると、
布津御霊剣は、“布都御魂剣”とも書く。
さて、剣がパワーアップしたところで、仕事に取りかかろう。目をくりぬかれた不動尊の話は恵比寿ガーデンの老人が語ったのだったが、東京中に、4つの不動尊のほこらがある。それぞれ、目黒不動、目赤不動、目白不動、目黄不動である。くりぬかれたそれぞれの目には、宝石がはまる。目黒不動はオニキス、目赤不動はルビー、目白不動はダイヤモンド、目黄不動はトパーズである。護国寺にいる樹海に話を聞くとわかるが、五色不動の結界は、その中にあるほかの結界を無効にしてしまう力を持つ。バエル城は結界の障壁のために近寄ることさえできないが、五色不動の結界を復活させれば、対抗できるはずだ。
宝石がない場合はどうするか。悪魔を斃したり、魔法の宝箱を探したりして、自力で集めるしかない。2つずつ必要なことを忘れずに。オニキスは代々木オリンピックプールにある。ルビーは恵比寿ガーデンに、ダイヤモンドは以前触れたように御茶ノ水シェルターに。あと、トパーズは邪教の殿堂にある。4つの不動尊に目を入れたら、護国寺の樹海のところへ。すると、最後の青不動で必要な貴石を持っているか、と聞いてくる。ここでサファイアを持っていればOK。なければ、浅草地下駅ビルで手に入れよう。
樹海に青不動に案内される。それは、誰も知らない場所。ANSでも、外の様子はわからない。歩いてやってきたのだろうか。それとも樹海の術で瞬間移動か?
実は、五色不動は実在する(生体エナジー協会主宰某氏からの情報)。偽典のものと必ずしも場所が一致するわけではないが、少なくとも実在の位置を考慮して配置されていることは間違いないようだ。青不動は世田谷区にあるので、初台付近までしかない偽典のマップでは、西にはみ出してしまう。それで樹海に案内してもらうという形になったというわけ。五色不動について、詳しくは、「生体エナジー協会」Webページ内にある『女神転生元ネタ辞典』を参照のこと。
ところで、実在の五色不動の配置にも何らかの風水的、霊的な作用は考慮されていなかったのだろうか。地図を広げるとわかるが、五色不動は皇居すなわち旧江戸城をかなめとして、扇状(もしくは半円形)に配置されているように見える。もし扇の縁の部分が霊的な障壁になると考えれば、五色不動の目的が、外敵の侵入を防ぎ、内部特に江戸城を守ることにあったとの推測も成り立つのではないか。最初からそういう設計になっていたのでは、と思うのである。
いま不動尊の目にサファイアをはめる。そして、樹海が前に進み出て、一心不乱に真言を唱え始めた。すると、空中に不動尊のアストラル体が現れ、真言の最後の一言が終わると同時に、中に吸い込まれ、像と同化する。これで不動尊の復活だ。像は、いままでとは比べものにならない力強さで、葛城たちを見下ろしている。樹海は、葛城たちに先を急がせる。ほかの不動尊もすべて復活させねばならない。
青不動を出ると、そこはなぜか目白不動の中。やはり樹海の瞬間移動の術なのか。ここでも同じように樹海が真言を唱え、アストラル体が戻ったら、不動尊の復活である。そして、次の不動尊を目指さなければならないわけだが、いちいちフィールドに出る必要はない。目白不動の場合、不動尊の安置されている本堂を正面に見て、向かって右の部屋が目黄不動に、左の部屋が目赤不動に続いている。いままではなにも起こらなかったのに、だ。五色不動復活の兆しなのか。同様に、目赤不動では、右が目黒不動へ、左が目白不動へ。目黄不動では、右が目白不動へ、左が目黒不動へ。目黒不動では、右が目赤不動へ、左が目黄不動へ、それぞれつながっている。言葉で書くとややこしいが、実際にはすぐにわかる。図を書くともっとわかりやすい。復活させる順番はどのようにしてもいいのだが、目黒不動を最後にするのが便利である。
最後の不動尊にアストラル体が入ると、気の流れが変わったことが感じられる。葛城たちの体にも、力が漲ってくるようだ。これで、五色不動内のすべての結界は無効化された。「これがせめてものご恩返し……」。もう二度とお会いすることはないでしょう、と言って樹海は去っていく。あとを追ったときには、もう姿は見えなくなっていた。
泪が語りかけてくる。結界がなくなったいまがチャンスだという。バエル城に侵入し、由宇香の身体を取り戻せるかもしれない、と。しかも、抜け道を知っているらしい。泪とはいったい何者なのか?
ここで余談を少し。五色不動は、誰によってその目をくりぬかれたのか。犯人は、五色不動の結界の力を知り、それを邪魔に思っていた存在だ。ここは、素直にバエル配下の犯行だと解釈しておこう。都庁を影武者に守らせていたくらいだから、バエルは最初から都庁上空にバエル城を建設するつもりだったはず。すると、その邪魔になる五色不動は無力化せねばならない。ただ、誤算だったのは再び目を入れ、しかも不動尊を復活させる力を持った者がいたことだ。像を破壊しておかなかったのは、油断というものだろう。それにしても、樹海は謎の人物だった。葛城や相馬三四郎と同じく、前世の因縁ある存在なのかもしれない。
最後の不動尊を出ると、若者がふたり、葛城たちを待ち受けていた。かなり切迫した様子だ。なんと、渋谷に悪魔が侵入を始めたという。「何者かが異教の像を復活させた」のが原因らしい。ふたりは葛城に助けを求める。渋谷には天使たちがいるが、侵入してくる悪魔たちが強くて、彼らの力をもってしても守りきれそうにないらしい。葛城が返事をするまもなく、ふたりは去っていく。助けないわけにもいかないだろう。葛城にも責任があるのだから。
渋谷方面へ向かう。目黒不動を最後にすると便利だといったのは、このイベントが控えているからだ。渋谷近辺では、確かに結界は消えていて、いままで通れなかったところが通れるようになっている。宇田川にある渋谷の入り口から、中へ。エルセイラムという教団の本拠地だ(もちろん、聖地エルサレムを意識しているわけだ)。居住区へ行くには通路を進んでいかなければならないのだが、そこには堕天使ベリスと降天使オリアスが。このラインでの防衛は諦めたのか。
居住区には、すでに妖鬼酒呑童子や、降天使エリゴールなどがいて、侵攻はかなり進んでいる。陥落は時間の問題だろう。住民たちはというと、部屋の中に避難している。悪魔どももまだ中までは入ってこれないようだ。天使たちが結界で守っているのだろう。人々は、みな嘆き悲しみ、祈りを捧げるだけ。選ばれた存在とはいえ、生身の人間であることに変わりはない。やはり無力なのだ。天使たちは、下級の悪魔をくい止めるので精一杯。だが、最上階には大物悪魔がリーダーである岳克美を狙っているという。大天使が降臨すれば撃退できるが、それまでもたないかもしれない、とも。葛城が闘うしかない。
最上階、といっても3階だが、エレベーターは破壊されていて使えないので、階段を上らなければならない。3階に上ってすぐのところに、その大物悪魔とやらがいる。モラクスという悪魔だ。渋谷を潰せば邪魔者がひとつ消え、貴様を斃せば邪魔者がもうひとつ消える、と言って襲いかかってくる。
モラクスもまた、ソロモン王に封印された72柱の魔神の一人である。博識伯の称号を持つ。雄牛の頭をした人間の姿をしており、魔法の宝石や薬草に関する知識、あるいは天文学、占星術およびそのほかの科学的方法を教授してくれるという。無論ここではその知識を殺戮に向けてくるのだが。テトラで身を守り、ダムドーラやブレイズブレスで攻撃してくるが、攻撃は迫力に欠ける。体力は高いが、防御はそれほどではないので、タルカジャの連続がけで楽勝である。斃すと、エメラルドを落とす。
いまわの際に、「我々を倒しても無駄だ。最後に笑うのは……」と意味ありげなセリフを吐く。単なる負け惜しみだろうか。中央の聖堂へ。そこには、岳克美がいる(注:小説版に登場する岳玲子の未来の姿だという説があるが、不明)。危ういところを間にあってよかった、と言う。そして、大天使様の降臨が間近だと語る。克美が興奮した様子で天井を指さすと、いままさにまばゆい光が天から降りてこようとするところだった。克美はひざまずき、祈りを捧げる。光は次第に強くなっていく。あまりのまぶしさに葛城は目を閉じる。再び目を開けると……そこには一人の天使が。全身からオーラが放たれ、霊格の高さをうかがわせる。克美は微動だにしない。彼(彼女?)こそは高名なる大天使、ガブリエルである。地上に降り立つのは、おそらくイエスの受胎告知以来であろう。ガブリエルは手をかざして克美に楽な姿勢をとるように促すと、葛城に語りかけてきた。
ガブリエルは、葛城が知りたいことのいくつかを教えてくれるという。自分自身のこと、由宇香のこと、バエルのことの3つがあり、それぞれさらに3つの問いが設定されている。したがって問いは全部で9つあるが、実際に聞けるのは1つから3つまで。バエル、由宇香、自分自身、の順に聞いていくと、3つ聞ける。
葛城とバエルの前世は、ともにバビロニアの女神イシュタルに捧げられた魂だという。そして、葛城の前世はイシュタルに愛された狩人神であり、数度の転生を経た。ヤマタノオロチを斃したスサノオも、その転生体であるという。現世の葛城は、バエルの分霊をその身に秘めている。もし葛城が斃れれば、分霊はバエルに吸収され、バエルの力はより強大なものとなる。由宇香こそは女神イシュタルの転生体である。バエルは、転生するたびに死ななければならない聖王としての運命を断ち切るべく、由宇香を八つ裂きにし、その身に汚れた血を浴びせ、生きながらえさせているのだ。逆に言えば、まだ由宇香は死んでいない。失われたパーツをすべて集めれば、蘇生は可能ということである。
また、イシュタルはバビロニアの時代、その淫乱で享楽的、自堕落な行いゆえに唯一神との戦いを招き、破れ、唯一神によってその淫乱なる部分が引き裂かれて、アスタルテとして地獄に堕とされた。残ったイシュタルは女神の愛を象徴する存在となった。その愛は、すべての女性の心に宿っているという。かの聖母マリアでさえ、例外ではないというのだ。
すべてが、驚くべき事実である。そして、ガブリエルは言う。あなたは、メシアではない、と。メシアが出現する前に生まれ、メシアが世界を救うための地ならしをする存在、それが葛城なのだ。だが、これはあくまで唯一神側からの見解だ。その真の使命はガブリエルにさえ明かではない。葛城自身が己の運命に向かい合ったときにこそ、それは見えてくる、という。大天使にも、そこまでしか見えないのだ。つまり、運命はあくまで未知数だということ。これから先、葛城が選択する道によっては、唯一神の計画をも超えてしまうかもしれない。いまは、唯一神も、天使たちも、見守ることしかできないのだという。そして、ガブリエルは持てる力のすべてを使って、渋谷の結界の維持に専念することになる。五色不動の力は、それほどまでに強大なのだ。
渋谷を出る。復興までにはしばらく時間がかかるだろう。その間に、泪の言葉に従い、バエル城への侵入を試みることにする。由宇香のパーツで保存していないものがあれば、先に保存しておくことをお勧めする。
泪やガブリエルの言葉通り、都庁周辺の結界も消滅している。バエル城は、都庁の最上階から行くことができる。進むコースによっても違うが、途中でいろいろと悪魔を斃していかなければならない。堕天使アロケン、邪龍バジリスク、鬼女ランダ、向かって左の棟の最上階に妖鬼悪路王など。その悪路王を斃して奥の部屋に入ると、光のエレベーターがあり、葛城たちはバエル城へと吸い込まれていく。
バエル城内では、泪の指示に従って動くこととになる。わざと指示を無視すると、怒られる。すべてのマップを頭にたたき込んでいるとしか思えない、完璧に正確な指示だ。エレベーターから一気に最上階へ。一番奥の部屋は、この城の支配者バエルの部屋だ。さすがに正面突破、というわけにもいかず、扉の外から部屋の中の気配をうかがう。だが、気配はない。思い切って中に飛び込んでみると、バエルは不在であった。感じられるのは自分たちの気配だけ。
部屋の中央には台座があり、そこには大皿が置かれている。その皿の上に、血塗られた由宇香の頭部が。天井から血が滴ってくる仕掛けになっている。ぞっとしない光景だ。由宇香の頭部を奪う。血を浴びているせいか、まだなま温かい。ぬるぬるした感触も気持ち悪い。こわごわ頭部を布でくるんで抱きかかえると、泪が葛城をせかす。悪魔に気づかれないうちに、とっとと退散しなければ。
バエルの部屋を出て、エレベーターに戻ろうとすると、一体の悪魔が出現する。ダンタリオンである。やってくるだろうと思っていた、と悪魔は言う。いままで傷つけられてきた恨みを晴らし、葛城を血祭りに上げようとする。
以前よりも実力は格段に上がっている。しかし、魔法がザンマやアギラオ程度では、しょせん葛城たちの敵ではない。今度こそダンタリオンを斃してしまおう。
もと来た道を引き返すが、今度はさらに近道をして、落とし穴を使って進む。あっという間に1階の最初の部屋へ。都庁に戻り、脱出。案外あっけなく思える。これは幸運によるものなのか、それとも……。なお、頭部は市ヶ谷シェルターで保存することはできない。しかし、ほかのパーツと違ってなぜか干からびることもない。何とも生々しい生首のまま、持ち歩くことになるのだ。
今回はこの辺で。ストーリーはますます佳境へ。