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しばらく更新していなかった間に、他の研究者による研究が進み、フォローする必要が出てきた。しかも、私たちを待たせ続けたWIN版「偽典・女神転生」の発売日が、'99年12月22日に決定したという。得られた情報を総合すると、残念ながらやはりストーリーに変化はないようだが、それでも、グラフィックスや戦闘シーン、それに悪魔との会話などが洗練されていると聞く。なにより、愛すべき「偽典・女神転生」がより多くの人々にプレイされることになるのだ。それだけでも悦ばしいことには違いない。そして、新規ユーザーにとって、本書を含め、Webのあちこちに蓄積された攻略情報は、大いに役立つことだろう。
さて、最近の研究成果で大きいのは、XOR解析されたファイルからエッセンスを抽出してくれるソフトの開発と、真・デバッグモードの発見である。とくに後者は画期的なことであるが、実は、メインプログラムのバージョンによって動作が違うので、初期バージョンしかもっていない筆者は、すべてを確認することができない。これについては後述する。
まずは新しいソフトの話から始めよう。例によって「偽典・女神転生の攻略」で公開されているこのソフトには、解析データが添付されている。このデータは、多くの有益な示唆を与えてくれるとともに、いくつかの疑問点も浮き彫りにした。
解析データで重要なのは、悪魔の初期データとフラグ名称データである。悪魔の初期データについては、主に「生体エナジー協会」で『悪魔全書』という形ですでに公開されているし、「偽典・女神転生の攻略」では攻撃に対する相性も掲載されている。また、「MinorGameLaboratory」は悪魔が落とすアイテムを詳細に調べ上げている。しかし、大種族、装備相性、修得する特技の系統のデータは筆者の知る限り今まで無かったように思う。仮にあったとしても、すべてがまとまった形で提供されることはなかったのだから、やはりこの解析データは重要である。
悪魔の初期データを見てまず驚かされるのは、樹海のみならずバーバラのデータも用意されているという点だ。バーバラは、新宿労働キャンプでちょっとだけ道筋を教えてくれる悪魔人の女性である(猫娘とは別)。しかし、バーバラのキャラクタデータがあるということは、当初は作戦に随行してくれる展開が想定されていたのかもしれない。
そしてもう一つ。葛城と由宇香は、データ上相馬雪彦と内海笙子なっている。これについてはすでに指摘済みだが、今回、相馬雪彦と内海笙子のデータが2つあることが判明した。最初にこれを見たときは、格闘系と魔法系に分かれているのかも、とも思ったのだが、どうもそうではないようだ。レベルも初期パラメータも違うからである。
実は、レベルの高い方は名称がそれぞれ「相馬雪彦_」・「内海笙子_」となっている。これは「ムールムール」と「ムールムール_」の2通りあるのと同じだ。両者が別物である証拠と言える。あくまで推測だが、「相馬雪彦_」と「内海笙子_」は、テストプレイ用のキャラクターではないかと思われる。
この解析データには、『悪魔全書』には記載されている属性データが欠けている。また、相馬三四郎が使うサマパトラや、バール・アスタルテが使うマハデサマンのデータがない。修得する特技のところを見ても、これらの魔法を覚える予定はないようだ。つまり、こうした特殊な魔法が使えるかどうかは、別のところでチェックされているはずなのだ。が、これがまだわからない。
また、悪魔が落とすアイテムは判明したものの、交渉で得られるアイテムは未だ不明である。これも同じファイルを解析すれば出てくるのだろうか。それとも、別のファイルに一括して登録されているのだろうか。
フラグ名称データの話に移る前に、一言触れておかないといけないのは、ET0010.BINの解析データだ。これは、3Dマップが「イベント上の」どこの場所に対応するかを示したものだ。3Dマップそのものの名称ではないことに注意してもらいたい。で、この対応表を見ると、「靖国神社」という表記がある。これは、3Dマップでは「来てはいけない所」に該当する。無数の端末が並び、多くの悪魔データをダウンロードできる隠しマップだ。結局は開発状況をチェックするためのマップになってしまったものの、当初は靖国神社になるはずだったわけだ。
ほかに知られたボツマップとして、「築地本願寺」があるが、これも開発初期段階のイベント候補地だったのだろう。だが、これらまで含めるといかにも神社仏閣が多すぎる。明治神宮に東郷神社、護国寺に鬼子母神(真源寺)。それに、各地に不動尊もある。そうした理由から靖国神社と築地本願寺は候補から外されたのだと推測できる。
次に、フラグ名称データを検討してみよう。たとえば、ここには「主人公地獄の使者」という項目がある。これまた指摘済みだが、ここでわかることは、会話データばかりでなく、フラグも用意されていたのだということ。黄泉には、本当ならもっとイベントが詰まっていたはずなのだ。
データを眺めると、御茶ノ水シェルターのフラグがやけに多い。壊滅した場合と復興した場合で展開が異なるためだとも考えられるが、それにしても不自然なくらい多い。部屋ごとにイベントフラグが立てられているというのは、やはりそこにイベントが用意されている、または用意されていたと考えるのが自然だ。すると、これもボツイベントがらみであるようだ。大手町のミレニアムと同じように、それぞれの部屋から逃げ遅れた住人を救い出すイベントが、用意されていたのではないだろうか。
フラグデータでは御花屋敷が「お化け屋敷」という身も蓋もない名前になっているが、それに関連して「天逆神一度目」という項目も謎である。一度目もなにも、天逆神は攻略途中で出現する固定悪魔のひとりにすぎないはず。ひょっとすると、最初に警告してくる鬼火のことを指しているのかもしれない。それとも、これも別のイベントが想定されていたのか。
ほかにも、「固形ダイナマイト入手」という項目があるが、これは前後関係から見て、初台シェルターを脱出するときのもののようだ。使う場所は、たぶん1Fの出口だろうが、核爆発に耐えられるはずのシェルターの扉が、ダイナマイトごときでどうこうなるとも思えない。それでボツになったのだろう。
しかし、ダイナマイトという発想もわからないではない。シェルターの機能はほとんど停止しているのだから、壊されでもしない限り扉は開かないのではないか、ということだろう。だが、シェルターは完全に「死んだ」わけではない。もしそうだとすると、中の酸素もなくなってしまうはずだ(原宿シェルター前のイベントを思い出してほしい)。したがって、少なくとも内側から扉を開けることぐらいはできるはずで、それならダイナマイトも不要になるのである。
フラグ解析データには、イベントフラグのほか、木箱(アイテムボックス)や宝箱の開閉の有無、会話時の悪魔の態度、それにインストールされているプログラムの有無に関するフラグが見える。中でも、インストール済みプログラムのフラグには、未知のプログラムの名も見える。「ARS Ver1.0」は、「オート・リカバー・システム」であり、こちらは以前から知られていたけれども、「DDD」なんてのもあるのだ。これはいったい何の略なのだろう。そして、どのような効果を持つ予定だったのだろうか。
解析データの話はこれくらいにしておこう。次は、真・デバッグモードについてだ。従来から知られていたのは、セーブデータを操作して「会話チェック」というマップを引き出す技だった。また、その会話チェックで悪魔データを閲覧する際、バイナリをいじって予定ファイルサイズを変更すると、実際のサイズと食い違うのでエラーが出て、そのとき同時にイベントフラグ一覧が出現することも知られていた。
だが、今回の技はもっと簡単で、もっと本格的である。やり方は「偽典・女神転生の攻略」を見てほしい――と言いたいところだが、前述の通り、プログラムのバージョンによってやり方が違うのだ。「DDS98.EXE_英数字_英数字_英数字」で起動するはずが、初期バージョンだと「DDS98.EXE_奇数の数字」になる。
しかも、修正版では「SYSTEMのメニュー内に“デバッグ”と表示され、殆どリアルタイムにフラグや出現位置、ミュージック再生、所持金等を操作することが可能に」
なるというのだが、初期版ではそうならない。たしかにリアルタイムにフラグを操作することはできる。会話中の分岐も選択できる。しかし、SYSTEMメニューは変化しないし、ミュージックの再生や所持金の操作などはまったくできないのである。
とはいえ、フラグの操作と会話の分岐だけでも有用には違いない。筆者が確認した限りでは、フラグを適当に埋めると伝説の「早坂復活イベント」が発生したし、会話の分岐でオセを仲魔にすることができた。ちなみに、早坂復活イベントは非常にあっけないもので、英美がいた部屋と早坂の遺体が保存されていた部屋のそれぞれに看護婦が現れ、2人は「渋谷の方へ」向かったと告げられるだけである。これが準ボツイベントであることは、やはり指摘済みではあるのだが。
オセの方は、あっさりと仲魔になってくれた(ちなみに、なぜか風塵剣は装備していない)。会話の分岐を選択できるとはいっても、すべてをチェックできるわけではなく、属性等によってはそもそも選択肢が出てこない場合もあるようなのだが(バールを斃したあとのエンディングがその例)、にもかかわらずオセは仲魔になった。本来このイベントはDARK属性専用のはずだが……。
フラグを操作できても、どのフラグがどのイベントに対応しているのかがわからないので、自由度はあまり高くない。既出のフラグ解析データと一致しているわけでもない。最悪の場合、ひとつひとつ試していくほかない。なお、ふつうフラグが立っている場合を1、立っていない場合を0にするのだが、偽典では逆になっている。わかりにくいだけだと思うのだが、どうだろう。
というわけで、悪魔データのさらなる解析と、フラグの調査が今後の課題となりそうである。しかし、これは相当根気のいる作業である。WIN版が出ればそちらのチェックが優先されるだろうから、こうした地道な作業はなかなか進まないだろう。気長に待つしかない。思いがけず一気に進展を見せる可能性も皆無とはいえないのだから。それにしても、新規ユーザーの人たちがこんなマニアックな研究を見たら、何と思うのだろうね(笑)。
本文執筆以降、新しいソフトの開発がさらに進められている。研究者たちの熱意には頭が下がる思いである。ここでは、フォントローダと悪魔データ解析ソフトについて少し触れておこう。
まず、フォントローダだが、これは、その名の通りDOS版偽典のグラフィックスフォントを読み込み、表示するソフトウェアである。従来フォントはデバッグモードで閲覧していたわけだが、残念ながら一部に制約があった。魔法・特技を使用したときのエフェクトや、悪魔合体時のさまざまな変化などは、見ることができなかったのである。だが、フォントローダにはそのような制約はなく、まさに全フォントを閲覧することができる。これにより、残念ながら(デバッグモードでも見られないような)隠しフォントも存在しないということが判明した。
このソフトには、メニュープログラムも用意されている。したがっていちいち自分でファイル名を指定する必要はなく、メニュー画面からフォントファイルを選択するだけでよい。そのファイルの内容についても簡単な説明があるので、大変わかりやすい。作業効率を高めてくれるうれしい工夫である。
ただ、少々気になる点もあった。起動時にEMM386のチェックが入るうえ、空きコンベンショナルメモリの要求がけっこうシビアなのである。また、SmartDriveが効いていないと劇的にパフォーマンスが下がってしまうことも確認された。これらのことによって、このソフトは誰もがすぐに使用できるというわけではなくなっている。
たとえば、WindowsのDOSプロンプトから起動した場合、アンチウィルスソフトを組み込んでいるとEMM386が働かないため、チェックで弾かれる。また、DOS版の起動ディスクを使用した場合だと、空きメモリが足りなくなる。したがって、使用にあたってはAUTOEXEC.BATとCONFIG.SYSを自力で編集できるだけの知識が必要となる。その際は、EMM386を設定してEMSメモリを有効にし、さらにSmartDriveも働くようにしなければならない。
昔は誰でも当たり前のようにできたこの作業。だが今ではどうだろうか。DOS版ユーザーなら最低限のことはできると期待はできるが……。
次に、悪魔データ解析ソフトについてだが、こちらは現在開発途上の試用版なので、まさに必要最小限の閲覧しかできない。しかし、将来的にはきわめて有用なソフトとなる可能性を秘めている。
何と言っても、全悪魔の全データを閲覧できる点は圧巻である。もちろん、すでに解析データはテキストファイルの形で公開されていたわけだが、それでもやっぱりビジュアライズされるとインパクトが違う。『悪魔全書』と比較した場合、大種族、経験値、マッカ、マグネタイト、所持アイテム、命運、会話対応、月齢対応、装備相性、特技修得系統、敵出現時特技という多くの点について、未知のデータを提示してくれる。
この中でも、敵出現時特技というのは、対ボス戦でボスが使用してくる特技のことであり、従来から謎とされてきたデータであった。対アスタルテ戦でアスタルテがマハデサマンを唱えてくるのは、この隠し特技が設定されていたからなのである。そのほかにも、所持アイテムを知ることができるのは素晴らしいことだ。また、大種族は悪魔合体に影響を与えるそうだが、ひょっとすると会話時に入手できるアイテムや宝石にも関係があるかもしれない。この点では会話対応も要注意だ。
なお、Windows版のファイルに関しては、悪魔のグラフィックも表示可能である。理由は、ファイルがただのBMPだからなのだが、商業用のゲームソフトでBMPを使うという点には驚かされる。ふつうなら圧縮をかけ、複数のファイルをひとつにまとめるものなのだが。それをやらなかったのは、単に手を抜いた気配が濃厚だが、深読みをすれば、GIFのライセンス問題があるかもしれない。圧縮アルゴリズムは特許が絡んでいる場合が多く、下手に利用するとあとになってライセンス料を要求されてしまうのだ。PNGですらどうなるかわからないと言われているほど。JPEGは大丈夫なようだが、不可逆圧縮というところが敬遠される要因かも。
それはさておき、この解析ソフトにはさらなる改善を期待したい。今のところ大種族等の表示されていないデータもあるわけだし。また、16進数表示されているところを、ちゃんと特技名やアイテム名で表示してもらえるとありがたい。いや、ぜひ期待したい(笑)。そして、『悪魔全書』では、解析によって得られたデータを反映してほしい(笑)。(笑)は、それぞれの作者へのメッセージである。キツイ作業だとわかったうえでの、ね。