追補A‐2


追補Aのつづきです。ファイルサイズを考慮して、分割しました。追補Aシリーズのコンセプトについては追補Aを参照して下さい。

目次


没データとフラグファイルの謎

偽典・女神転生の攻略」で、偽典のファイルにXORをかけるソフトが公開された。これを使うと、メッセージファイル等の大部分を解析することができる。言い換えれば、残された謎の核心に鋭く切り込むことができるのだ。

まず、変換されたファイルの拡張子をすべてTXTに変換しよう。それをテキストエディタに読み込ませてみると、ゴミデータの中に文字データを発見できるだろう。まったくゴミデータばかりのものもあるが、そういうのはサクッとゴミ箱行きである。

ファイル名の先頭がETで始まるものは、ゲーム中の各種設定のデータファイルのようだ。たとえば、ET0000.BINではすべての神族・大種族・種族・覚醒段階が挙げられている。ET0001.BINとET0004.BINにはアイテム・特殊能力の説明が書かれている。これら情報は、テンポラリファイルを解析することによっても得られるが、ゴミデータが少ない分、こちらの方が見やすいだろう。また、ET000D.BINとET0010.BINには地名がずらっと並んでいる。そして、ET0018.BINとET0040.BINはフラグの設定に対応しているようだ。これについては後述する。

ファイル名の先頭がIDで始まるものは、悪魔との会話データの中でも、特殊なもののようだ。ゴミデータが多くてたいへん読みにくい。悪魔との会話データで通常のものは、ファイル名の先頭がMS6またはMS7で始まる。MS0で始まるものは、悪魔以外との会話データ、つまり、通常のメッセージデータである。

さて、これらの膨大なファイル群の中から、筆者にとって気になったものをピックアップしてみよう。まず、MS0007.BINにある看護婦のセリフ。

「あら、×に×××子×、カレシを生き返ら×、どっか行っちゃ×わ。確か×渋谷の方に行く×言×たわ。」

×の箇所は、判読不能部分である。なお、×の数ひとつはゴミデータ1バイト分に対応している。だからといって、×の数ひとつが1文字に対応しているとは限らない。

このセリフは、伝説の「早坂復活」イベントを意味しているのだろう。だが、渋谷の会話が収められたファイルを丹念に閲覧していっても、英美と早坂が渋谷に現れた、といった内容のものはない。しかし、上に挙げたフラグ設定データ(ET0018.BINとET0040.BIN)には、『早坂蘇生』なる記述が見られる。とすると、やはり直前で没になったという線がもっとも可能性がありそうだ。それにしても、このセリフだけ、なぜ残っているのか。案外削除し忘れただけなのかも。

次は、MS000F.BIN。黄泉での会話を収めたファイルである。これは不思議なところがたくさんあるので、そのまま全部引用するというわけにはいかないのだが、まず、オセと取り引きするシーンがある。神剣を葛城に渡すかわりに、自分を地上に連れていってくれとオセが言う。そしてどうやら、本当に地上に連れていけるようなのだ。大国主との会話に、それらしきものがある。

オセとともに大国主のもとへ行くと、オセが大国主と一戦交えようとする。

「貴様の息の根を止めてく××‥ まず××黄泉を我が物にし×ぞ!!」

これに対し、葛城は『戦う』か『去る』かを選ぶことになる。だが、結局どちらを選んでも戦闘にはならないようだ。

「オセ×口惜しそうにしながらも、大人しくついて×。」

それを見て大国主は驚き、警告する。

「何と!! オセを×に引き込むとは×!!」

「お主×何と言う事を×‥ 知らぬぞ×現世にとん××災いが降りかかる×。」

さらに、黄泉醜女の謎のメッセージもある。黄泉醜女を怒らせると、「魂の一欠けも残さずに喰うて」やるといって飛びかかろうと身構える。すると、「×××の意識に呼びか×声があ×」。これ以降、断片的にしか判読できない。「だめ!!」と言ったあとにこんなセリフが。

「×××君××死んで×け×わ×‥」

「‥×‥×勤めを果×××‥」

「現世に戻××そ××‥私を!!!」

「優しい女性の声が響き、そ×一陣の豪風が巻き起こ×」

すると、「×××はたまらず、×風に吹き飛ば×、間一髪で、黄泉醜女の×をかわす×が出来た」

まるで考古学者のような気分だ(笑)。どうやら由宇香に助けられたということらしい。むろん、ヴィジョンとして現れる由宇香の方だ。筆者の記憶には、こんなシーンはない。属性によってこんなメッセージが出ることがあるのだろうか? むしろこれも没会話の可能性が高いように思える。

オセのイベントのつづきらしきものが、MS0061.BINにある。このファイルは、建物等の入口のところで起こるイベントのメッセージを集めたものらしい。その中に、オセのセリフがある。

「フフフ××で、私は晴れて自由の身×」

「人の子よ×感謝×××」

「私が黄泉に×間に、他の×が台頭××だな。奴を何とか××にはな×!」

「まあよい。×は大人しく×事とし×。」

「×、お前が×を倒しに行くあかつきに×私も協力×頂こうか。」

「で××時×さらばだ!!」

そして、池袋方面に飛び去ってしまう。

これらのセリフは、まだ何となく意味が通る。「奴」とはバールのことだろう。葛城がバールを斃しに行く際には、オセが協力してくれるらしい。が、ほかのファイルを探しても、これに該当するセリフは見あたらない。ということはやはり没イベントなのだろう。とはいえ、もし実現していたらけっこう面白かったかも、と思わせるところがある。が、よーく考えてみると、もしオセが対バール戦に参加するとたいへんなことになる。なぜなら、オセが手にする風塵剣は、バールに跳ね返されてしまうからだ。バールを攻撃したとたん、オセの方が即死してしまうだろう(笑)。

謎はまだまだ続く。MS0031.BINは、ファイル1個まるごと没会話である。最初の方にいきなり「暫定」と出てくるのでそれとわかる。欠けているところも多いが、それでもほかよりはましである。だが、だからといって解読がやさしいかといえば、そうではない。いくつかのイベントの会話らしきものが、脈絡なく放り込まれているからだ。

まず、「冥界をクリアして、蘇ったものとします」というト書きのあとの会話。泪と葛城の間で交わされているのだが、泪の性格が全然違う。

「突然倒れたから、あわてて診てみたら、ぐーぐー寝×んだもんね、あなた。この年で脳卒中かっ! とか、思っちゃった。」

「バカバカバカ! いきなり消えたりして‥‥」

これらのセリフから受けるイメージは、「影のある妖艶な女性」という泪のイメージからはほど遠い。どうやらかなり初期の段階のもののようである。

ここでは、葛城は魂だけが黄泉に行くということになっていたようだ。そして、その黄泉では、ふたりの人物に会っていた。が、このふたりが誰なのか、わからない。ひとりは男性で、もうひとりは女性である。女性のセリフ。

「あの時は、ごめんね。ああするしか×と思ったんだ。結局、あたし、自分自身が怖くて逃げだしただけだったんだね。あれから、みんなはどう×の?」

男性のセリフ。

「きみと別れた後、オレは強制労働キャンプで、奴隷として酷使された。メシを食うと洗脳さ×という話は、あらかじめ聞いていたから、与えられたものは、何も食べ×よ。ところが‥‥×××それがまず×。×どもにはぶん殴ら×し、労働はきつい。ほんの数日で、衰弱死さ。」

さーて、一体誰だ? 男性の方は、相馬三四郎のようにも思える。が、女性の方はさっぱりだ。まったく違う展開が想定されていたのだろうから、推測しようにも限度がある。男性の方は、さらに、「彼女」の消息を聞いてくる。ここで、『自分の彼女にした』とか『バエルに寝返った』とかいう選択肢があるので、おそらく泪のことを指しているのだろう。泪と恋愛関係にあった男性? そうなると相馬三四郎より園田の方が近いような気もするが、それだと「きみと別れた後、強制労働キャンプで、奴隷として酷使された」というセリフはどうなるのか。ひょっとして葛城は代々木労働キャンプに連れていかれない、という展開が考えられていたのかもしれない。

さらに、ファイルの最後の方には、泪とのラブシーンらしきものもある。以下のような会話が並ぶ。

「‥‥アタシ、ほんとはすごく不安なの。ずっとバエルに捕まってて、外のことなんか、何にもわかん×んだもん。アナタが×と、アタシ、どうしていいのかわかん×」

「アタシ、今、アナタと一緒にいたいだけだもん。だから‥‥アナタと、ひとつになりたいの。それは、いけ×こと?」

さすがに、「アナタと、ひとつになりたいの」はまずいだろうな。それじゃエヴァンゲリオンだもんな(笑)。

泪を拒絶する展開もあるようだ。「‥‥アナタ、そのひとのこと、よっぽど好きなのね。もう、死んじゃったひとなのに」と言われてしまうが。さらに、泪が悪魔のようなものに襲われる、という展開も、アイデアだけは用意されている(「#暫定:泪を襲っ××と、戦闘になる。ここでは勝ったことにする」)。

……長くなってきたな。まあ、もう少しおつきあい下さい。で、MS00C0.BINにも暫定情報がある。こちらはまったく意味不明。

「2月 1日 晴 今日は耳がかゆ×。朝ご飯にあさりの味噌汁が出た。」

「2月 2日 曇り 今日は鼻がかゆ×。昼食に月見そばを食べた。」

「2月 3日 雪 今日は目がかゆ×。朝ご飯はコンビニ弁当で済ませた。」

「2月 4日 晴 今日は足の裏がかゆ×。晩ご飯は食べ×。」

……ってなんじゃこりゃ?

残る謎は、ようやくここにたどり着いたのだが、フラグデータについて。ET0018.BINとET0040.BINは、中身はよく似ているが、微妙に違う。そして、ここには驚くべき情報が。先に挙げた「早坂蘇生」のほかに、「主人公救世主」「イナンナ復活」という文字が見えるのだ。葛城がもうひとりのメシアだ、というのは筆者の説だが、「主人公救世主」とはまさにその通りではないか。やはり、制作者側もメシアであることを意識していたのだ。そして、「イシュタル復活」ではなくて「イナンナ復活」であるのも興味深い。しかも、ファイル中では「由宇香」はすべて「笙子」になっている。これらもまた開発初期段階の名残なのだろうが、どうも内部的には「笙子」で通しているようだ。つまり、ユーザーが目にするメッセージだけ、「由宇香」に変更したということだ。

ET0018.BINの最後の方には、悪魔との会話で参照されるらしいパラメータが挙げられている。「猜疑心」「好戦度」「泣き虫」「短気」「物欲度」「冷酷」とあるが、悪魔全部につき、それぞれこれらのパラメータが設定されているのだろうか。だとしたら、恐るべき緻密さだ。だからあれほど開発に時間がかかったのか。

最後に、ET0040.BINにある、BGMのタイトルらしきものを挙げておこう。偽典の全曲数と合致しないが、理由は不明。あるタイトルが曲ファイルのどれに当たるのかは、今後の研究に待つとしよう。曲名はそれぞれ、『壊れた街を行く』『ヴァーチャル3D』『イシュタルの下僕』『サイバーパンク』『シェルターの日常』『墜ちたる者』『ダークサイド』『邪教の館』『レジスタンス』『ちょっとボサノバ』『チャレンジ』『てぇへんだ』『ティンパン』『バトルヘビメタ』『グリスべっとり』『暗い道』『ミスティ』『長き道のり』。

没イベントの研究に関しては、これらのデータが決定打となるだろう。が、すべてが解明されたというわけではないようだし、これからも新発見があるかもしれない。すでに見つかったデータについても、何か見落としがあるかもしれない。というわけで、研究はまだまだ続く。Windows版には新イベントがあるかもしれないし。これからも、そうした情報を採り入れて定期的にアップデートしていく所存なのでどうぞごひいきに。

(追記)

生体エナジー協会」主宰よりメールを頂き、「早坂復活」イベントは確実に存在するとのご指摘を受けた。ふーむ。しかし、復活したはずの早坂と英美について、彼らの会話らしきものはやはり見つかっていない。つまり、復活したあと、一言もセリフを喋らないということだから、姿を見せることもないのだろう。

ここから推測できることは、「復活した」というセリフだけが残っているということだ。あるとき市ヶ谷シェルターに行ってみると、突然英美がいなくなっていて、看護婦さんに話を聞くと、早坂は復活したと教えられる。でも、それ以上は本当に何も起きないのだろう。相馬三四郎も、別れたまま最後まで姿を見せなかったが、少しそれに似た状況だ。となると、半分はボツになった、といってもあながち間違いではなかろう。筆者は、やっぱり消し忘れたんじゃないかと考えている。もしくは、作りかけで放置したかのどちらかだ。

ほかの点についてももうちょっと補足を。まず、フラグデータを収めたET0018.BINとET0040.BINに、「東大病院クリア後」という文字を発見した。奇妙なことに、ET0040.BINには「ミレニアム病院クリア前」という文字もあるが、ET0018.BINにはない。ひょっとして、ミレニアム総合病院という名称になるまでは、東大病院だったのかも。だが、もしそうだとすると、その位置がミレニアム総合病院とはかなりずれる。東大病院は文京区本郷だし、分院は目白台にある(護国寺の近くである)。まさか、マップの東側にも施設がほしいという理由で名称変更して移されたんじゃ……。

というのは、ミレニアム総合病院というところは、いまいちイベント上の位置づけが曖昧だからだ。早坂が運び込まれたところであり、山本医師が不正を働いてもいたわけだが、はっきり言ってそれだけである。ミレニアム総本山とつながりがあるようなメッセージがどこかで出てきたと思うが、全然つながらない。第一、ミレニアム総本山が潰滅したあとも、何喰わぬ顔で営業を続けているのだ。ミレニアム総本山から資金援助を受けていたんじゃないのか? というわけで、これも未消化のまま見切り発車された可能性が高いと思う。ミレニアム総本山とくっつけようと思ったが、時間がなくてやめちゃった、と。

もう一つは、BGMのタイトルについて。あとから気づいたのだが、どうも、本文中で挙げたタイトルは、SM000からSM011までの曲に順番に符合しているようなのだ。たとえば、7つ目の『邪教の館』だが、SM007はちゃんと邪教の館の曲である。また、13番目の曲名は『バトルヘビメタ』だが、SM00Dは戦闘シーンの曲である。というわけで、検討の結果順番に符合していると結論づけた。となると、問題はほかの曲はどこに行ったんだ、ということなのだが……。

ここでヒントになりそうなのが、SM011までは'95年に制作された曲で、それ以降は'96年に制作された曲だということ。すると、次のような推測も成り立つ。増子司氏に'95年に制作を依頼した曲については、あらかじめタイトルを決めて注文したのだが、'96年に依頼したときはそれをしなかったのではないか。つまり、SM012以降の曲には、そもそもタイトルが付いていないんじゃないかと思うのだが、どんなものだろうか。

(追記の追記)

なんだか、どんどん記述が膨張しているが、まあ、モノがモノだけに仕方ない。重要な情報は、きっちり補足しておかないと。というわけで、また追記である。ほかの研究者の研究データを参照したところ、オセのイベントは実在するということがわかった。属性がDARK/CHAOSの場合、すぐにオセとの戦闘にはならず、会話ができるようだ。そして、会話が成功すると、黄泉にいる間はオセが仲魔になる。そのまま大国主の部屋に行くと、本文に書いたとおり、葛城は『戦う』か『去る』かを選ぶわけだが、どうやらここで大国主と戦闘になる展開もあるらしい。「お主×何と言う事を×‥ 知らぬぞ×現世にとん××災いが降りかかる×」という大国主のセリフは、彼が斃されたときのものだったようだ。

で、黄泉を出たあとは、オセは池袋方面に飛び去るのだが、なんと、オセは本当にシャンシャンシティに向かったのである。そして、ちゃっかりアバドンがいた部屋に居座ってしまう。葛城たちが訪れると、「時は満ちておらぬ×‥ お前が、奴を倒すのに十分な時がな」と言う。この場面は、復興後のシャンシャンシティを扱った会話データの、末尾にあったのだが、見落としてしまっていた。さらに、由宇香を復活させたあとにまた訪れると、「いよいよバールとの決戦か×‥ 約束通り力を貸すとし×。 いざ、バールめを倒さん!!」と今度はパーティーに参加してくれる。

まさか、このイベントが本当にあったとは。たいへんな驚きである。しかし、そうなると本文で書いたジョークもジョークでなくなってしまうな。くれぐれも、オセを初期装備のまま対バール戦に投入しないように。風塵剣を振り回すのは、自殺行為である。

まだ補足がある。暫定情報のところで、黄泉らしき場所で葛城と話す男女。これがいまいちよくわからなかったのだが、これも英美と早坂ではないかという。筆者も、この見解に賛成である(本文から改説)。そう考えると、意味が通りやすくなる。が、英美の方は、どういうイベントの絡みであんなセリフを喋っているのか、皆目見当がつかない。それに比べると、早坂の方は、まだ推測がしやすい。「きみと別れた後、オレは強制労働キャンプで、奴隷として酷使された」というあたりは、都庁襲撃後早坂だけが代々木労働キャンプに連れて行かれたという設定を想像させる。だが、このセリフの前に、本文では取りあげなかった、こんなセリフがあるのだ。

「きみたちと別れたあと‥‥ オレは、×に襲われたんだ。ただでさえ、毒にやられたこの身体じゃ、ひとたまりも×よ。」

「きみたち」と「毒にやられた」がポイントである。毒にやられるといえば、初台シェルターだろう。ということは、早坂が対科学戦スーツを着ないで犠牲になる、という展開もあったということになる。が、そうだとするとこの「きみたち」は葛城と英美を指すことになってしまう。しかし、葛城と英美が黄泉に行くというのは……。それに、英美がそばにいれば早坂も話しかけるだろうし(あと、早坂は「きみたち」って呼び方しなかったな)。

うーん。だんだんこんがらがってきた。あちらを立てればこちらが立たず。どうも一貫したストーリーにはなりそうもないなあ。根本的に違うストーリー展開が想定されていたんだろう、としか言えない。とりあえず、今のところ分析できているのはここまでだ。ひょっとすると、さらに追記を書くことになるかもしれない。どうなることやら。

(さらに追記)

ソフトがアップデートされたことにより、デコードルーチンが修正されたそうなので、ファイルを再デコードしてみた。ほとんどのファイルについては、先頭部分のバイナリデータが多少変わっている程度の変化でしかなかったのだが、筆者が確認した限り新たに2つのファイルが読めるようになったようである。

ひとつはMS6F00.BINで、基本的に悪魔との会話データである。「マグネタイトを吸っ×!」とか、「泣くのを止めた」とか、「跳びはねた」などの記述があるので、悪魔のアクション・リアクションに関するものであることはほぼ間違いない。

しかし、後半には通常のメッセージデータも含まれており、それぞれ初台でのオンラインフォーラム・母なる金星の巫女・渡邊と出会う場面である。すべて断片であり、各場面を扱った別のファイルにも同様の会話が収められている。なぜなんの脈絡もない、重複するメッセージデータが紛れ込んでいるのか、謎である。

もう一つは、MS7F06.BINで、こちらも悪魔との会話データである。珍しいことに、余計なバイナリがほとんど付着していないため、非常に読みやすい。「ウィットに富んだジョークを言った!」「ニヤリと笑った!」「憑依された!」など、悪魔との会話時に目にするさまざまなメッセージが収められている。

どうやら、これらのデータはパーツ化され、プログラムのルーチンの中で組み合わされる仕組みになっているようだ。多くのパターンが生じうることを考えれば、合理的なやり方だと言えよう。しかし、このやり方を通常のメッセージデータでも一部取り入れているらしい。頻繁に登場するデータをひとくくりにした辞書ファイルと組み合わせてメッセージを表示させているため、単純にファイルをデコードしただけではすべての内容を読むことができないのである。いったい、そんな複雑なことをする意味があったのか、強く疑問に思うのは筆者だけだろうか。


説明書にない呪文・特技一覧

偽典の説明書には、プレイヤーキャラクターが使う魔界魔法(呪文)だけでなく、仲魔や敵悪魔が使う特殊能力(特技)にまで短い解説が付いている。こういうのは、たぶん、ほかのゲームには見られないことなんだと思う。が、さすがにゲーム中に登場するすべてを網羅しているわけではない。とくに、ボスキャラが使う特技は、伏せられたままだ。そこで、ここではそうした説明書に載っていない呪文・特技をピックアップしてみよう。

呪文・特技一覧
呪文・特技名 解説 使用する悪魔の例
マグラ ブラックホールを出現させ、飛び道具や魔法を無効化する 魔王ベルフェゴール
サマパトラ 凍結,炎上,感電,窒息,石化,毒,麻痺の回復 不明(相馬三四郎)
味方二人の防御力を上げる 不明
カウンタアタック 剣攻撃に対して、反撃体勢を取る 兵士リュテナント
六破羅 張り手の連続攻撃 鬼神タヂカラオ
瞬間移動 瞬時に逃げ出すことが出来る 不明
ノスフェラン 味方をゾンビ化させて、不死身の軍団で戦う 堕天使ガミジン
エレキチャージ 攻撃を仕掛けられると、電撃で反撃 マシンビット・ボール
うすら笑い 特に無し 堕天使ムールムール_
あくび 特に無し 堕天使ムールムール_
高笑い 特に無し 不明
トルネード 竜巻 降天使ヴェパル
目をつぶる 特に無し 堕天使ムールムール_
行動予知 回避が高まる 不明
分身 分身を作る 不明
蛇走り 蛇のように走る鞭 妖樹ダークウィロー
蛇の舞 蛇のように舞う鞭 魔王バールゼフォン
フロッグタン バエルの舌攻撃 魔王バエル
サイコブラスト MPにダメージ 降天使☆デカラビア
バッドドライヴ 精神攻撃で、幻覚を見る状態にさせる 降天使☆デカラビア
モルト召喚 凶鳥モルトを召喚 不明
腐乱の矢 猛毒で腐乱矢 降天使レラジエ
不治呪縛 回復系魔法をダメージに変える 不明
貫く矢 2体にダメージ 降天使レラジエ
五月雨矢 全体にダメージ 降天使レラジエ
火炎牙 炎の咬みつき 堕天使アイム
バーニング 自ら燃え、相手全員にダメージ 邪神クトゥグアー
女神の微笑み 男性をすべて魅了する微笑み 地母神アシラト
煉獄刃 炎の剣 魔王バルベリス
ヴェノムブロー 毒の尾による一撃 魔獣タムズ
槍雷 雷の槍の一撃 魔王ベルフェゴール
断頭剣 一撃必殺剣 魔王バルベリス
一の槍 必殺の槍攻撃 魔人アドニス
天鎚 天からの落雷攻撃 破壊神カルキ
十言神咒 天照大御神の力 女神アマテラス
シザーハンド 巨大なはさみによる切り裂き攻撃 魔獣タムズ
白犬の舌 白い犬の攻撃 聖獣満月の犬
黒犬の舌 黒い犬の攻撃 聖獣新月の犬
茨の鞭 棘のある鞭 鬼女ラマシュトウ
黄金の手 触れる物を金に変える黄金の手 降天使ハアゲンティ
超羽ばたき 想像を絶する魔力をはらんだ翼の風 降天使ハアゲンティ
テンペスト 瞬間的に嵐を引き起こす 魔王バール
サクリファイアー 炎に焼き、HPを奪う 魔王バール
聖王剣 MPを奪う、聖王剣 魔王バール
アクアピラー 水圧で押し潰し、窒息させる 魔王バール

「不明」とあるのは、悪魔の基本データには見られないものである。したがって、レベルアップしたら覚える可能性はある(相馬三四郎はレベルアップすると「サマパトラ」を覚える)。ボツということもあり得るが、そのあたりのことはよくわからない。情報をもっている方がいたら、ぜひ教えていただきたい。ちなみに「瞬間移動」と「行動予知」は、「マグラ」と同じく『真・女神転生RPG基本システム』が元ネタのようだが。

以下、小ネタをいくつか。ひとつの項目を割くほどでもないので。まず、破魔系攻撃魔法に「ハリハラ」というのがあるが、どうやらこれの元ネタは、『レメゲトンもしくはソロモンの小さき鍵』であるようだ。正式には「Hallii. Hra.」と綴り、意味は、『我らが尋ねる問いに直ちに正しき答えをなすべし』であるというのだが、かのアレイスター・クロウリーは否定している。

次に、マニュアルがらみのお話。まず、マニュアルの「デムドエル」の説明はおかしい。『自らを犠牲にして敵全体に攻撃』と書いてある。が、ゲーム中の解説は、『聖相性の魔法を無効にする暗黒結界』である。それと、リカームドラだが、『自らを犠牲にして敵全体を呪殺する』(マニュアル)とか、『術者の魂を以て敵を呪殺する』(ゲーム中解説)というふうになっているが、ゲーム中の効果を考えると、これもどうもおかしい。大ダメージを与えるのも呪殺って言うんだろうか。しかも、初期版ではHPを128失うだけで唱えることができる、という有名なバグがあった。

このように、呪文・特技のデータを眺めるだけでも、まだまだ研究の余地が残されていることがわかる。偽典は本当に奥が深い、と今回あらためて感じた。


第2版あとがき

初版あとがきの追記で予告したとおり、第2版のあとがきをここに記す。といっても、実のところ現在公開しているものが本当に第2版の名に値するかと問われれば、非常に心許ない。第8章以降にはほとんど手を入れておらず、初版あとがきで述べた構想も実現できていない部分が少なくないからだ。

たとえば、終章から補章を独立させるはずが、まったくできていない。追補Bでアイテムの解説をすると言っておきながら、これもやっていない。序章を付けるのと参考書籍の公開は実現できたものの、まだまだ道半ばと言わざるを得ない。

じゃあなぜ第2版にしたんだって話になるわけだが、理由は簡単。このままダラダラ続けるわけにはいかないと思ったからだ。なにしろ初版完成からほぼ1年経っている。途中やむを得ない事情で2ヶ月ほど公開が中断したり、ほかのことにかまけて3ヶ月ほど本編を更新しなかったり(笑)もしたので、実際にまるまる1年かかったわけではないが、それでも1年という時間が経過したことに変わりはない。そろそろ一区切り付ける必要がある。

そういうわけで、全編がスタイルシート対応になった現時点をもって、第2版完成ということに相成った。一応書いておくと、序章から第11章までトータルした場合、原稿用紙換算で約430枚。追補まで含めると、490枚くらいになる。初版完成時点で300枚そこそこだったから、50%くらい分量が増えた計算だ。

その大部分は、記述を詳細にしたことによって稼ぎ出した。初版は、すでにプレイしたことのあるユーザーを対象にしていたため、イベントの流れを追う程度の記述しかしていなかった。しかし、中には本書を見て偽典をプレイしたくなったという方もおられるようなので、そういう方でも何となくゲームのイメージが湧くような形にしたいと思った。それでイベントに関する記述を厚くしてみたわけだが、しょせんは素人の拙い文章である。偽典の妖しさというかおどろおどろしさというか、そういった雰囲気までも伝えることは到底不可能な仕事だった。これはやはり、実際にプレイして体験していただくほかない。幸いWindows版がこれから出る予定なので、PC-98x1ユーザーでなくても大丈夫だ。PentiumIIだかIIIだかでスピーディーな悪魔合体を楽しむことができるだろう(笑)。

ほかにも、最新の研究成果を取り込んである。とくに、会話データを解析できるようになってからは、不正確な記述を極力減らせるようになった。また、属性の変化や各場所に出現する悪魔のデータなども盛り込んだ。初版完成後もこれだけ新しいデータが出てくるとは、はっきり言って予想していなかった。研究者の方々の努力には、頭の下がる思いである。

そして、筆者としてはこの部分に一番愛着があるのだが、独自の分析を増やしたのも大きなポイントだ。序章では「真・女神転生I」とのつながりに触れた。第2章ではアドニスの神話的意味について詳説したし、第4章ではミュータントの意義について考察した。ほかにもいろいろあるが、個人的に気に入っているのは、第5章でイシュタルの二面性を解説した部分と、第7章で都庁上空にバエル城を建設した理由を推測した部分だ。

前者はテーマが深い。これを突き詰めていくと、「一神教と多神教の本質的違いは何か」というような宗教学的な話まで行ってしまう。しかし、残念なのは偽典がこの問いかけを避けている点だ。偽典では唯一神は不気味なくらいおとなしい。バビロニア系の悪魔が活躍する物語なので仕方ないといえば仕方ないのだが、せっかくガブリエルまで登場させているのだから、唯一神対バール・イシュタルという図式がもっと全面に出てきてほしかった。絶対その方がディープな話になって面白くなったと思う。

後者は、およそ誰も疑問に思わないようなことを取り上げて疑問視し、さらにそこにもっともらしい理由を付けて悦に入るという、解釈論の典型を示せたのではないだろうか(笑)。筆者としては、偽典をよりディープに味わえるなら、何だってアリなのである。問題はそれを読者の人に楽しんでもらえるかだが、中途半端にやるよりは徹底して突き抜けた方がまだ救いがあるだろう。

おまけとして文章も多少はうまくなった……かな? 筆者としてはそう信じたい。読む際の余計な引っかかりをなくすため、いろいろと工夫したつもりである。むろん改善の余地は多々あるだろうが。上にも述べたように、ゲームの雰囲気まで伝えるのは至難である。

さて、これから先、第2版をさらに改訂していかなければならない。とはいえ、第3版と呼べるくらいまで情報量を増やすのはちょっと無理かもしれない。でもWindows版が出たときは……これをどう扱うべきかは正直なところまだ決めていない。ストーリーが変更されている場合はサポートしたいのだが、本編に含めると混乱するおそれがあるから、追補にもってくるか。そのあたりのことは状況を見て決めるしかない。

確実なのは、第8章以降を更新するということ。今度こそ終章から補章を独立させるつもりだ。第7章以前の見直しもやる。最初の方はもう一度チェックする必要があるだろう。アイテムの解説は、どうなるかわからない。解説が必要なものを絞り込むのはけっこう大変な作業なので、うーん、ボツかも。実はもう一つ別の企画を考えていたりもするんだが、これは書かないでおこう。実現できるかどうかわからないし、できたとしてもダメダメなものになっている可能性もある。

今のところ言えるのはこれぐらいか。そのときの思いつきで予定外のことをするかもしれないし、はっきりしたことはあまり言えないのだ。こんな適当な本書であるが、今後も見捨てることなく読み続けてくださればこれ以上うれしいことはない。どうぞよろしく。

(追記)

諸般の事情により、急遽第2版補訂版を上梓する運びとなった。第2版からそれほど進歩していないので心苦しいのだけれど、最終更新日が変わっていなくてもあちらこちら手を加えている場合もあり、必要最小限の補足は行ったつもりである。

この次は、第2版改訂版ではなく、いきなり第3版になることだろう。そこでは今までやるやると言っておきながらできていなかったいろいろな企画を実現させられると思う。もちろん、Windows版偽典にも完全準拠する予定である。


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