追補A


本編とはひと味違った角度から「偽典・女神転生」について、時にはラフに、時にはまじめに書いてみよう、というのがこの追補Aシリーズのコンセプトです。最新のトピックを幅広く、思いつくままに書き連ねていきたいと思います。

目次


初版あとがき

今さらあとがきもないもんだが、いちおう一区切りついた、ということで書いておきたい。

まったく、これほど長いものになるとは、予想外だった。始めたのが5月初頭で、終わったのが11月末である。この間まるまる7ヶ月。しかも、3月末に一度パイロット版を出しているし、構想段階から含めると、1年近い。よくもまあ、これだけ書いたものである。原稿用紙換算で300枚。小説並だ。

おかげさまで、読者の方もいてくださるようで、ここまでやってこれた。しかし、これから先が問題である。初版、と銘打ったのは、第2版という形で、今まで書いたものを修正していかなければならないと思うからだ。さて、どうするか。

すでに、後半部分については、かなり手を入れている。あとから見直してみて、いろいろ気づいたことを盛り込んでいったのだが、どんどんページ数が増えていくのが困りものである。これって、ディスプレイで読めるぎりぎりの量なのかも。しかし、プリントアウトして見てください、というのも気が引ける。そこで、第8章からはスタイルシートを使って、少しは見やすくなるように配慮したつもりである。

問題は前半部分だ。こちらはまだまだ書き足りないところがある。実は、第1章と最終章を比べてもらえればわかるが、最初はできる限り簡潔に書こうと思っていた。そのかわり、あっちこっちに何か気の利いたコメントでもつけていこうかと考えていた。だが、そのうちに考えが変わってきた。ストーリーを書くのがメインならば、ただのネタバレに終わってしまう。一定の視点から、余分な情報を付け加えながら書くこと。こちらの方がいいのではないかと思うようになってきた。つまり、コメントがメインで、ストーリーをサブに回すわけだ。

そこで、脱線しまくってあれこれ余計なことを書くようになった。脱線しようと思えば、かなりのところまで脱線できる。というのは、偽典はよく練り込んであるゲームなので、神話的な背景に触れていくだけで枚数を稼げるからだ。ひとえに、製作陣がマニアックな人々だったおかげである。書き進めるうちに、感心することしきりであった。

ただ、そのおかげで苦労することにもなったのである。最初、結構軽い気持ちで書き始めたときは、『幻想世界の住人たち』などの"Truth In Fantasy"シリーズ(新紀元社刊)ほか数冊を参考にして、4回くらいで終わるだろうと思っていた。が、自分の見通しの甘さを思い知らされるハメになった。結局、全11回までかかり、本も大幅に買い足した。

今までの女神転生シリーズは、ロウvsカオスの対立軸を鮮明に打ち出し、ロウの代表に唯一神を置いていたので、ユダヤ/キリスト教系の悪魔が多く出ていたのだが、偽典は対バールという大きな背景設定があったので、ロウvsカオスの対立はあまり全面には出てこなかったし、出現する悪魔もオリエントや日本ローカルなものが多かった。ロウvsカオスでいかなかったのは、あとにカテドラルでの大決戦が控えているためなのかもしれない。

しかし、ディープなオリエントネタを次々と繰り出されたせいで、調べるのが大変だった。「バールハダド」と言われて「ああ、あれか」とすぐにうなずけるひとは、そんなにいないはずだ。というか、ほとんどゼロだろう。で、こいつは誰なんだ、という話になるわけだ。生体エナジー協会主宰から貴重なアドバイスを頂き、それが突破口になったが、ハツセオノミコトのように、いまだによくわからないNPCもいる。

アドニスの扱いも最初は困った。「アドニスはバール神の分霊だ」と渋谷で聞かされたとき、「ああそうなの」とさらっと流してしまえば(たいていの人はそうするだろうが)話は早いのだが、「それはなぜか」を考えると、ドツボにハマるのである。このテの話は、挙げるとキリがない。ヒルコが「日子ひるこ」だって気づきましたか?

あと、制作者がはっきりと理由付けをしないまま話を展開している部分がある。例えば、東郷神社から高天原へ通じる通路のところ。神話的な背景はわかっても、誰があそこに岩を置いたんだ、という疑問に答えてくれるようなヒントはどこにもない。「単にここにこういうイベント置いた方がおもしろいから……」と制作者のひとは考えたのかもしれない。でも、解釈するときにそれじゃあおもしろくないでしょ?

というわけで、ストーリーの本筋とはあまり関係ない推理をくどくど書いてしまったのだ。だが、こういう素人っぽい推理を、まだ前半ではたいしてやっていない。そこで、第2版に改訂しよう、と思うのである。まだどこを書き直すべきか検討中なので、着手までもうちょっとかかりそうだ。

最後に、今考えているその他のネタについて。まず、第1章の前に序章をつけよう。バック・グラウンド・ストーリーにもコメントをつけることで、「真・女神転生I」と偽典とのつながりがよりはっきりするだろう。次に、終章で全体を振り返ったところを、補章という形で独立させよう。書き足りなかったからである。そして、追補をつけよう。今あなたが読まれているこれが、追補Aであるが、追補Bでは、アイテムの解説をやろう。偽典ではそれぞれのアイテムに短い解説が付いているのだが、神話的背景のあるものについては、この短い解説では全然足りない。そこで、チャレンジしてみよう、というわけである。追補Cでは、(紙の)参考書籍の公開でもやってみようか。より多くのひとに、偽典の奥深さを味わってもらえたら、と思う。

それでは、これからもみなさんにこの「偽典・女神転生」秘密の書を読んでいただけることを祈りつつ。

(追記)

このあとがきは、初版完成直後に書かれたものなので、いまでは読んでも意味が通らないところがあることを、お断りしておく。すでに序章がもうけられ、第1章は大幅に更新された。また、追補Cで行う予定だった参考書籍の公開は、現在『参考・関連文献』において実現されている。

今回、見直してみて変なところをあらためた。わかりにくい箇所で、言葉を補ったものもある。が、書き換えたわけではない。初版完成以降どのように変化したかについては、第2版完成後、『第2版あとがき』として語られる予定である。


ボツグラフィックについて

偽典の裏技で、開発者用のバグチェックモードに入れる、というものがある。詳細は「偽典・女神転生の攻略」のWebページを参照していただきたいが、このモードでは、偽典中のあらゆるフォントを見ることができる。その中には、ゲーム中には登場しない、いわゆるボツグラフィックも含まれている。今回は少しばかりこれに触れてみたい。

ボツグラフィックの中に、謎の時計台がある。おそらくとっくの昔に動くことを諦めたのだろう、針は止まったまま8時15分(と筆者には見えるのだが)を指している。この正体についてWeb上で一時話題になったことがあった。結局結論は出たのだろうか? よくわからないが、筆者はこれは御田急ハルクだろうと思っている。メイとカズミがいた時計台を外から見ると、というわけだ。

ここには謎が2つある。ひとつは、8時15分が意味するものは何か、ということ。もうひとつは、なぜこれが削られたのか、ということだ。

ひとつ目の謎は、わりと簡単に解けそうである。といっても、推測の域を出ないことは確かだが。つまり、大破壊があった時刻が8時15分だと言いたいのだろう。爆発の衝撃で止まってしまったのである。では、これは午前だろうか、それとも午後だろうか。筆者は午後8時15分だと思っている。新宿爆心地に突き刺さったICBMは、アメリカ本土から飛来したものだが(ご存じのことと思うが、ICBMとは大陸間弾道弾のことである)、ニューヨークと東京の時差は14時間ある。すると、向こうの時刻で午前6時15分。日本の情勢をにらみながら夜を明かした米軍司令部を想像した方が、おもしろいではないか。

それに、偽典では、ICBMが落ちることを予期していた人々が結構いたことになっている。すると、彼らが逃げる時間が必要だ。その日の昼間のうちに、彼らはシェルターに避難したのではないだろうか。さらに、偽典に登場するたくさんのミュータントは、言うまでもなくICBMが炸裂したときに、母胎が放射能を浴びたために生まれたのだが、たくさんのミュータントが生まれた、ということは、たくさんのひとが放射能を浴びているということである。ならば人々がたくさん外を出歩いている時間を想定した方が理屈に合うことになる。

しかし、午前8時15分でもラッシュアワーにかかっているので、十分に人出はあるわけだ。いくら戒厳令が出ているといっても、駅のホームにはたくさんの通勤・通学客が並んでいるだろう。ただ、これはもう本当にイメージの問題だが、そういう人々の頭上にミサイルが飛んできても、いまいち気分が出ないのである。それよりも、仕事や学校が終わって、みんなが開放感に浸りながら何も知らずに街を歩いているときに、ミサイルが落ちてくれた方が話がおもしろくなる。そういうわけで、午後8時15分説を採りたい。

まあ、これは筆者の勝手な見解だが、もうひとつの、この時計台のグラフィックが削られた理由については、まじめな推測ができるのである。

実は、偽典には他にもいくつかボツグラフィックらしきものが見受けられるのだが、わざわざデータを残してあるということは、直前で削ったということなのだろう。その中のひとつに、倒壊した高速道路のグラフィックがある。本当のところちょっと自信がないのだが、これもたぶんゲーム中には登場しなかったと思う。この倒れた高速道路と、針が止まった時計台の2つから、何が連想されるだろうか。関西出身のひとなら、ピンときたかもしれない。

そう、阪神・淡路大震災である。テレビの特集などでかの震災を振り返るとき、燃える神戸の街と並んで象徴的に取り上げられるのが、まるで沈まないと言われていたタイタニックが沈んだように、倒れない倒れないと言われながら倒れてしまった高速道路と、(筆者の記憶に間違いがなければ)午前5時46分で止まってしまった時計台である。ここで思い出してほしいのは、黄泉で大国主が「魔震災」と言っていたことである。制作者は明らかに、阪神・淡路大震災とICBMによる大破壊をオーバーラップさせていたのである。

すると、ボツになった理由がそこから見えてこないだろうか。偽典は、もちろん全国で販売される。当然関西方面でも少なくないひとが買うだろう。それに、筆者のように関西出身でも、東京に出てきている場合もある。その中に震災によって大きな被害を被った人がどれほどいるのかはわからない。が、そうした人にとって見れば、震災の記憶が愉快なものであろうはずがない。そして、ゲーム業界もいわば客商売、売れてなんぼの世界である。真偽のほどは定かではないが、『FF VI』から天野喜孝氏を外したのは、パッケージイラストを「子どもが怖がるから」という理由だったという(本当はお金の話が絡んでいたのかもしれないが)。スーファミ・プレステのFFとPCの偽典の話をそのまま比較することはできないが、ユーザーに不快な思いをさせるかもしれない表現を削った、という可能性はあると思う。

以上のような、いわば純粋にマーケティング上の理由で、時計台のグラフィックはボツになったのだと筆者は考えている。もっと穿った見方をすれば、制作者サイドはそのままやろうとしたのを、直前になってマーケティングサイドから待ったがかかってやむなくボツにした……なんていうあたりが真相なのかもしれない。

この推測が正しいとして、アスキーがとった態度が間違っていた、と言うつもりはない。だが、女神転生シリーズのおもしろさは、ディープな神話的背景を持ったマニアックさだけでなく、適度な毒気(人間ばかりか神様のエゴまで描いてしまうような人物描写など)にもあるのだから、できる限りマーケティング的な発想で表現を自粛することがないよう願いたいものだ。

(追記)

「ICBMは、アメリカ本土から飛来した」などというデタラメを書いているが、信用してはいけない。『トールマンは、今際の際に原子力潜水艦の核ミサイル発射命令を出す』とバックグラウンドストーリーにちゃんと書いてある(潜水艦は日本近海にいた可能性が高い)。だから、8時15分が午前か午後かという話は、議論の前提を欠いている。ちゃんと調べてから書きましょう( > 自分)。


開発段階での主人公の名前

「偽典・女神転生」の主人公、葛城史人とヒロイン、橘由宇香は、開発段階ではそれぞれ相馬雪彦そうまゆきひこ内海笙子うつみしょうこという名前だったという。相馬雪彦という名前からもわかるように、相馬小次郎の血縁者という設定になっていたようである。すると、小次郎の弟相馬三四郎とも親戚というわけだ。

なぜこれを取り上げるかというと、途中でストーリーの方向性を大転換した痕跡が見られるからだ。相馬小次郎はコミック版に登場するという平将門の転生体である。すると、その血縁者である相馬雪彦もおそらく将門の分霊を受け継いでいるのだろう。これは相馬三四郎も同じである。ということは、当初の予定では、相馬三四郎とラストで合流し、将門の分霊を内に秘める者同士手を組んで、バールを斃すという展開になっていたと考えてもおかしくない。

だが、結局相馬雪彦は葛城史人へと名前を変え、将門公ではなくバール神の分霊という設定になった。しかも、バプテスマのヨハネと絡めて、話により深みが出た。筆者は、葛城は「もうひとりのメシア」だという説を採っているが、この説はいうまでもなく変更後の設定に依存している。ただ、前身が相馬雪彦だったという沿革から考えると、葛城を「もうひとりのメシア」とまで言ってしまうのはちょっと……とも思える。だが、「もうひとりのメシア」と言い切ってしまった方が絶対におもしろい。まだ見ぬWindows版では、「実はもうひとりのメシアだった」とあからさまに出してしまってほしいものである。


Win版はいつ出るのか?

なんか、Windows95/98版「偽典・女神転生」の発売日が、どんどん先送りされているらしい。最初は'98年11月27日発売だったはずだ。それが'99年1月末に延期になり、いまや2月になるかもしれない、ということになっているようだ。いったいアスキーはやる気があるのか。

Windows版に望むことについては、別のところで書いたのでここでは書かないが、あえて強調しておくと、「ただの完全移植ではダメ」だということだ。必ずプラスαを入れてもらわないと。情報を追いかけているわけではないので詳しくはわからないが、グラフィックは格段によくなっているらしい。だが、ストーリーの方はどうなのだろう。少しは変わっているのだろうか。MS-DOS版ユーザーに「Windows版も買いたい」と思わせなければ、売り上げは期待できないぞ > アスキーさん。

ところで、同時期にWindows95/98版ペルソナも発売されるとか。今さらという感が強いが、おもしろいなら許す。メガテンをWindowsで出しても損益分岐点を超える見通しがようやくついた、ということか。PCユーザーが増えてきた証だろう。これ以後も移植が続くのだろうか。できれば続いてほしい。

本音を言うと、「真・女神転生III」をWindowsで出してほしい。いまだにIIIが出ないのは、開発が遅れているからではなく、そもそも作っていないからだということは間違いない。じゃあ、なぜ作っていないのか。『ボツグラフィックについて』で取り上げた話と同じく、これまたマーケティング的な理由なんじゃないかという疑いがあるのだ。

『真・女神転生II 悪魔大辞典』(宝島社刊)に「創造主たちかく語りき」という企画がある。アトラスの開発スタッフに、著者の成沢大輔氏がインタビューするというものだ。このはじめに、「真・女神転生II」プロジェクトチームのリーダーである岡田耕治氏が、こんなコメントを述べている。

「今回『II』に関してはユーザーの方に迷惑をかけてしまった部分も多いので、その辺の謝罪をさせていただきます。」

これは単に、発売の遅れやバグがあったことを詫びたものなのだろうか。それならそれと言ってもよさそうなものだが、「ユーザーの方に迷惑をかけてしまった」と曖昧な言い方をしている。これはなぜか?

もし真相をご存じの方がいたら、ぜひ教えていただきたいのだが、筆者は、『II』のラストでY.H.V.H.を斃させたのがまずかったのではないかと推測している。そもそも神も悪魔も一緒くたにして、殺したり合体させたりするゲームというのは、無神論に近い文化を持つ日本だからこそ成り立つのである(この無神論というのは本当の無神論ではなく、神にも仏にも手を合わせたりする。筆者もそうだ。神を意識しない、と言うべきか)。だが、日本人の中にも熱心に特定の宗教を信仰する人々はいるわけで、そういう宗教の中にはキリスト教系のものもたくさんあるだろう。それらの人々が、自分たちの信仰する神様をブチ殺してしまうようなゲームをプレイできるだろうか。自分でプレイしなくても、そういうゲームがあるというだけでも不快に思うかもしれない。

すると、マーケティング的には、そうしたゲームはなるべく出さない方が賢い。不買運動でも起こされて、それがテレビか新聞に取り上げられでもしたら大変である。アトラスがメガテンと心中するつもりなら別だが、プリクラが成功して株式の店頭公開も果たしたことだし、もう一段上を狙うならば、潜在的なユーザーを減らすような真似はしたくないだろう。というわけで当たり障りのない外伝(サマナーやペルソナ)は出ても肝心の『III』は待てど暮らせど出ない、ということになるわけである。

だが、ひょっとしたらWindowsでなら出せるのではないだろうか。PCユーザーはコンシューマー機ユーザーよりも年齢層が高い。モノの善し悪しは自分で判断できるはずである。一方に信教の自由があるなら、ゲームの制作者にも表現の自由があるはずで、あとはユーザーの判断に任せる、と言い逃れがきくんじゃないか。制作:アトラス、販売:アスキーにして責任を分散させるって手もある。かなり微妙な問題が絡んでいるので、本当に詳細に論じていけば、それこそ論文が一本書けてしまいそうだが。まあ、そういう風に考えているわけです。

(追記)

Windows95/98版「偽典・女神転生」の発売は'99年秋まで延期されてしまった(苦笑)。今回は鈴木大司教がタッチしていないそうなので、ストーリーが変わっている可能性はあまり高くない。

ペルソナの方が先に出た。こちらはかなり忠実に移植したようで、グラフィックスの書き換えさえしていないという、けっこうhackなシロモノらしい。CPUやグラフィックスカードによっては、重くてゲームにならないとかいう話もあって、ソフトメーカーはまだまだPCゲーム市場に対して本気で取り組んではいないようだ。

ところで、上で書いた「真・女神転生III」の話でちょっと補足しておくと、まず「無神論」というのは、アニミズムと言うべきだった。八百万の神様がいるとされているんだから。言霊とか、ケガレとか、あまりに自然すぎて意識されなくなってるくらいだ。こういう曖昧だけれどもしっかりとした文化の基盤があるので、外来の宗教は何でも受け入れるにもかかわらず、本当に根付くということがないのだ。「造り変へる力」(©芥川龍之介)が働いているんだそうな。

あと、「論文が一本書ける」というのはちょっとオーバーかもしれない。でも実際、ゲームは日本の文化になってしまっているからね。「ゲームにおける表現の自由と信教の自由との軋轢」なんていう論文が存在しても、おかしくはないんじゃないかな。

(追記の追記)

偽典・女神転生の攻略」の掲示板に何と鈴木大司教が出没し、WIN版偽典の裏情報を語るという事件があった。それによれば、WIN版の開発担当者が引継をせずに辞めてしまったせいで、開発が難航しているという。

以前から掲示板でも、噂の形でほぼ同様の情報が流れていたのだが、今回それが裏付けられる形になった。現在WIN版偽典の発売予定は、追記の時点よりもさらに延期されて'99年冬となっているが、いったいこれが確定したスケジュールなのかどうかは、もはや誰にもわからない。

それでも、多少希望はある。鈴木大司教の発言から、WIN版偽典はグラフィックを改善しただけでなく、戦闘時のゲームバランスも調整されていることが確認されたからだ。偽典は一部の例外を除いてボスがやたら弱いので有名だったが、どうやらこれがまともなものになることはほぼ間違いないようだ。

ただ、肝心のストーリーについては、大司教は何も語らなかった。それとなく匂わせるような言葉もないところから見ると、やはりストーリーの改変は無いように思われる。しかし、実際リリースされるまではわからないことだから、一応かすかな期待は残しておこう。「ディープじゃなきゃメガテンじゃない」と考える筆者のようなワガママなユーザーがいて大変だろうとは思うが、制作スタッフの方には、ぜひクオリティの高いゲームを提供してもらいたい。


MIDIファイルについて

以下の内容は、基本的に更新前の第3章から移転してきたトピックである。実は、このトピックについては、すでに「偽典・女神転生の攻略」サイト中の「実験室 I」で触れられているのだが、もったいないので残すことにした。ホントのところ、「ウチの方が早かった」って気持ちもちょっぴりあったりする。第3章を掲載した'98/7/1の段階では、他にこの情報を載せているところはなかったはずなのだ。ただ、誤解のないように言っておくが、「偽典・女神転生の攻略」は、ちゃんと掲示板から得た情報に基づいて掲載しているので、どちらがオリジナルか、なんて話にはならない。

さて、偽典では本来MIDIで音楽が聴けるはずだが、シリアルポート接続ではだめ、S-MPUを用意しなさい、と要求される環境は結構厳しい。仮想ドライバでシリアルポートを無理矢理S-MPUとして認識させる、という強引な方法もあるようだが、ほかのドライバとの相性の問題か、ゲームが頻繁に落ちてしまう。そこで、プレイ中は無理でもせめて音楽だけは聴こう、と考えたのが以下の技である。

偽典がインストールされているDDS98ディレクトリにある、SM000.BINからSM017.BINまでのファイル。BINという拡張子だが、実はスタンダードMIDIファイルなのである。そこで、拡張子をMIDに変更しよう。ただ、これだけでは不十分。一部のファイル(ヘッダに1996のクレジットがあるもののほとんど)はWindows上で聴けるようになるが、それ以外はダメである。たとえば、"TMIDI Player Version 3.4.1 (release)"だと、『ERROR:ファイルが途切れています/チャンクの構造が不正です』と表示される。

この原因は、どうやらヘッダにMacバイナリなるものが付着していることにあるようだ。つまり、作曲者の増子司氏は、Macintoshで作曲した可能性が高い。で、このMacバイナリに対応したソフトや、これを無視できるソフトなら残りのファイルも聴けるようになる。

たとえば、DOSで動くフリーウェアの再生ソフト"MIMPI"(Windows 95のDOSプロンプトでも動く)。これだとなんの問題もなく全ファイル再生可能である。あと、Windows 95用シェアウェアの、"Music Studio Standard"。これはそのままではダメなのだが、『エラーを無視して読み込む』に設定すると大丈夫だ。ヘッダがふつうとちょっと違うだけなので、音がおかしくなったりすることはない。市販のソフトになると、ほとんどがOKだと思う。筆者の知っている範囲だと、『Singer Song Writer 4.0 for Windows 95』のV4.02.dでは問題は発生しない。

これらの曲を聴いてみるとわかるが、すべてGM規格のファイルである。つまり、S-MPUをわざわざ要求するほどの特別なものではないのだ。なんでシリアルポートじゃダメなのか理解に苦しむ。せっかくいい曲なのに。FM音源用の曲もFM音源にしてはかなり頑張っているが、さすがにMIDIにはかなわない。GMオンリーとは思えない、出色の出来だ。Windows 95/98版では間違いなくMIDI専用になっていることだろう。

最後に、どんな曲があるのか紹介しておく。これも本当は「偽典・女神転生の攻略」にデータがあるんだけど、なぜか一部抜けているので。

曲紹介
ファイル名 曲が流れる場面 タイトル
SM000 2Dフィールド、会話チェック 『壊れた街を行く』
SM001 バーチャダンジョンなど 『ヴァーチャル3D』
SM002 母なる金星、イシュタルの槌、エンディングなど 『イシュタルの下僕』
SM003 原宿シェルターなど 『サイバーパンク』
SM004 お茶の水シェルター、市ヶ谷シェルターなど 『シェルターの日常』
SM005 オープニング、ターミナル、鬼子母神など 『墜ちたる者』
SM006 やっぱり???(1999/6/14) 『ダークサイド』
SM007 邪教の館 『邪教の館』
SM008 銀座・マイシテーほか多数 『レジスタンス』
SM009 戸山シェルターの平沢研究所、六本木 『ちょっとボサノバ』
SM00A 悪魔出現直後の初台シェルター 『チャレンジ』
SM00B 初台シェルターなど緊急時 『てぇへんだ』
SM00C 地下鉄の駅多数、御田急ハルクなど 『ティンパン』
SM00D 戦闘シーン 『バトルヘビメタ』
SM00E ペンタグランマ基地、秋葉原など 『グリスべっとり』
SM00F 壊滅後の初台シェルター、上野神殿など 『暗い道』
SM010 精神世界、渋谷など 『ミスティ』
SM011 地下鉄線路移動中 『長き道のり』
SM012 ミレニアム潰滅後など ???
SM013 魔法の宝箱、泉、由宇香のヴィジョン ???
SM014 対ボス戦 ???
SM015 大歓楽街など ???
SM016 バエル城最上階 ???
SM017 レベルアップ時 ???

(追記)

偽典・女神転生の攻略」のはデータが抜けているからここで紹介してしまう、などと大きなことを言った割には、肝心の内容が間違っていたことが判明。どうもSM006は由宇香の首を取りに行ったときの音楽ではないようだ。

こりゃマズいと思っていろいろ調べてみたのだが、どうもよくわからない。どっかで聴いたことがあるのは間違いないのに、思い当たる節をセーブデータの書き換えでチェックして当たってみても、どれもこれもことごとくハズレなのである。

やはりこうなると、何かのイベントの最中に出てきて、フラグが立ってしまうともう聴くことができないとか、そういう風になっていると考えるしかない。とすると、セーブデータを書き換えるだけではダメで、そのイベントの手前でセーブしたデータを使って、しらみ潰しに探すしか手がない。しかし、さすがにちょっとそれはきついなあ……。結局、誰かが偶然発見してくれるのを待つしかないのか(T_T)

もう一つ。上に書いたMacバイナリ云々だが、これもちょっと違うようだ。たまたまSinger Song Writer 4.0を再インストールすることになったので、手元にあった古いバージョン(4.01.a)で偽典のMIDIファイルを聴いてみた。すると、聴けるのである。このバージョンではMacバイナリには対応していないのに、である。

ただ、少なくともヘッダの問題であることだけは確か。エラーを無視できれば曲自体は聴けるんだから。MacとかOSの問題ではなくて、なにか有名なソフトが特殊なヘッダを吐き出すのかも。だから、MIMPIや市販のソフトではサポートされている、と。

だんだんわけのわからないことになるという、情けない結末になってしまった。

(追記の追記)

一部の曲について、どうやらタイトルらしきものが見つかったので、それを掲載しておく。詳しくは追補A‐2の該当部分を参照のこと。


初台の端末ネタ

あまり知られていないようだが、初台の自室の端末からは、実にたくさんの情報を引き出すことができる。特に、【通常情報】や【DB専用情報】は、面白い情報の宝庫と言っていい。なので、その情報が本編とどう絡んでくるのかについては、各章のそれぞれの箇所で触れていくことにしている。だが、本編にとってはイマイチ重要でない、いわば小ネタに関しては、本編中で扱うスペースがない。で、ここで書く。

まず、ネットワークを立ち上げたときのメッセージに注目。「Shelter Server "ADAM-23" Copyright(c) 2012 by University Network System」とある。ここからわかることは、まず、2012年に作られたソフトだということ。ところで偽典の設定は、大破壊後、「シェルター生まれの世代が戦えるぐらいの年齢になる頃」であった。なかなか曖昧な表現だが、大破壊が起きるのが199X年なので、だいたいそれから20年後として、201X年ということになる。すると、2012年というのはなかなかうまい設定だ。

個人的には、199X年というのは'90年代後半だと思っているので、偽典は2010年代後半あたりが舞台になりそうである。この仮定が正しいとすると、2012年から数年間はサーバソフトが更新されていないことになる。第1章で、端末がテキストベースなのは回線を簡単に増設できないからだろうと述べたが、サーバソフトすら更新していないとすると、やっぱり端末の増設はやってなさそうである。

ソフト名の"ADAM-23"というのはよくわからないが、シェルターで最初に使われたサーバソフトを「アダム」と呼んだのかもしれない。もちろん"ADAM"は、何らかの英語の頭文字をつないだのだ。そうすると、"ADAM-23"は「アダム」を23回マイナーバージョンアップしたものという意味なのかも。この分だと最初のメールサーバソフトはきっと「イブ」か「エヴァ」だろうな(笑)。

あと、つまらないことだが、"University Network System"というのは明らかにインターネットを意識している。インターネットはもともと軍事目的で開発されたが、最初につながったのはアメリカの大学どうしだったのだ。おそらく"University Network System"は、非営利の研究機関なのだろう。ならサーバソフトもApacheみたいにフリーで流通しているはず。

ところで、不思議なのはDDMを悪用した悪魔たちは、サーバをハックしたりすることはなぜか考えなかった。リアルに考えれば、メールの添付ファイルをチェックしないような脆弱なセキュリティシステムだと、一発でハッカーに侵入されてサーバをダウンさせられそうだが。ひょっとして外部からのハックに対してだけは堅牢にできてるのかな?

さて、次のネタにいこう。【DB専用情報】のなかに「プログラム情報」というのがある。アームターミナルにインストールされる基本的なソフトを解説したものなのだが、実はこれ、ヘンなのである。

たとえば、いきなりD.D.C.〈デジタル・デビル・コミュニケーター〉なんてのが出てくる。だが、ゲーム中で使うのは、D.D.C.じゃなくてD.C.S.だ。さらに、『オートマッピングシステム最新情報』の項目では、あきらかにANSとAMSを取り違えている。ANSは自分の行動経路を記録するシステムになってしまっている。AMSは周囲の壁をスキャンし、マッパーと呼ばれるんだそうだ。まったく逆である。しかも、AMSは〈オート・マップ・スキャナー〉の略らしい。

こんなにメチャクチャになってしまった原因は、たぶん、制作初期の頃に入力したままほっといたからだろう。本当は最後にきちんとチェックしないといけないのだが、詰めの甘さを露呈してしまった。Windows版ではちゃんと直っていると信じているが。

ヘンと言えば、端末情報からは離れてしまうのだが、プレイ開始直後、ナビゲーションがはたらくのも実はヘンである。アームターミナルはまだ支給されていないからだ。ANSがはたらかない場合、代々木労働キャンプや原宿シェルターのときのように、ナビゲーションの画面は真っ暗になるはず。だが、初台ではそうならない。初台シェルター内だけではたらく簡易ナビゲーションシステムがあるとでも考えない限り、これは説明がつかないと思うのだが。

ま、単にゲームバランスの都合なんだろうけどね。お粗末でした。


追補A‐2へ進む

巻頭へ戻る