第8章 魂の記憶


妖怪群舞

上野神殿を去ってアメ屋プラザに戻ってくると、人々の表情に明るさが戻っている。バール教徒たちはおとなしくなり、生贄に供される恐怖からも解放されたからだ。喉元過ぎれば熱さを忘れるのか、住民たちが束になってかかっていたらなんとかなっていたのかも、なんて言葉まで飛び出す始末。

とはいえ、すでに幹部クラスの配下を多く失っているにもかかわらず、バエルの支配力は衰えを見せていない。街から一歩でも出れば、悪魔は腐るほどいる。そのため、子供たちはやっぱり外で遊ばせてもらえず、残念がっている。

なお、バール教総本山でもメッセージが少し変化している。さすがに、葛城がバルベリスを斃したことには驚きを隠せない様子。それでも、襲いかかってくることはない。バールの勅命は依然有効なのだ。捨てぜりふを吐くバール兵たち。バルベリスを斃したことで、むしろ自分の首を締めているなどと言う奴もいるが……。

バール教総本山から東へ進み、浅草へ。このあたりに出現する凶鳥モルトは、経験値が非常に高いので狙い目だ。道なりに行けば、浅草地下鉄ビルが見つかるだろう。ここは秋葉原と同じく居住区になっているのだが、悪魔と人間が共存しているため、中へ入れば安心というわけにはいかない。地霊レーシー、妖精トロールといったニュートラル系だけでなく、堕天使ボティスや鬼女ラミアといった連中も出現する。上層には幽鬼ノスフェラトゥや妖魔ペリなども。

1F。武器屋でおすすめなのが、オクトパイク。ニュートンにとって最高クラスの装備となるはずだ。追加効果こそないものの、抜群の攻撃回数を誇り、ラストまで使える。また、神弓もいい。高い器用さを要求されるが、並の銃よりもはるかに威力がある。天津矢や金剛矢といった強力な矢とセットで購入すべし。デビルバッシャーを使っている場合は、SS劣化ウラン弾を買っておきたい。ちなみに、このフロアには道具屋や薬屋もあるが、見るべきものはない。

2F。防具屋では、ヴァルキリーメイルや青竜の籠手などが購入候補に挙げられよう。エルメスのサンダルも悪くない。アメ屋プラザと併せて利用し、装備を強化しておこう。3Fにはセーブ可能な端末がある。4Fの道具屋では、反魂香や道返玉ちがえしのたまなどが売られており、立ち寄る価値はある。このフロアの端末からはDASデータ(トロール、タム・リン、クーフーリン)を、6Fの端末からは外道ブラックウーズのDDSデータをダウンロードできるが、いずれも重要性は低い。ブラックウーズは合体に使えないので、売り飛ばすしかないのだ。

1Fの南端にある隠し通路から階段を上ってひたすら進んでいくと、最上階の8Fでターコイズを収めた箱が見つかる。逆に地下へ降り、地下鉄浅草駅の構内をどんどん進んでいくと、B2Fの奥で浅草銘菓の雷おこし×10を入手。戦闘中に使うと雷が発生し、敵味方の別なくダメージを与えるという、とんでもないシロモノ。制作者のジョークだろう。

街は、やはり御花屋敷の話題でもちきりだ(第6章5節参照)。昔の遊園地跡にあるその屋敷は、このビルの少し先で、瓦礫の中から忽然と姿を現すのだという。周辺では通行人が何者かにいたずらされる事件が頻発しているのだが、そのいたずらというのが、水をかけられたり、顔に落書きをされたりといった、本当に古典的なものなのである。

不気味な笑い声こそ聞こえるものの、犯人の姿を見たものはなく、お化け屋敷に棲んでいる妖怪の仕業だというのが、もっぱらの噂。別の話では、屋敷に入った連中が怖い目に遭わされ、ほうほうの体で逃げ出して来るそうだ。実害こそないが、そのうち凶暴化するのではないかと懸念されている。

浅草地下鉄ビルを出て、北西の方角に少し進むと、豪壮なお屋敷が見えてきた。背後には鬱蒼と茂った森があり、周囲は自然の地形を利用したお堀のようになっている。建物自体は和風のがっしりとした作りだが、何かしら妖気のようなものを感じさせる。

御花屋敷の中へ。すると、たちまち地霊ツチグモたちがお出迎え。ツチグモの九十九針つくもばり攻撃は、至近距離で浴びるとかなりのダメージを受ける。部屋は狭いので、前から後ろから針を飛ばされると、大変なことになる。会話で戦闘を避けたほうが賢明かも。なお、すぐとなりの小部屋にはなぜか、ターミナル回線とリンクした端末が設置されているので、セーブしておこう。

別の扉から奥に向かって歩いていくと、突然火の玉が現れる。まるで、お化け屋敷に出てくる人魂のようだ。そいつが、帰るなら今のうちだ、帰らなかったらどうなっても知らないぞ、と警告してくる。当然無視。ただ、葛城が行動不能のときは、ここから先へは進めないようだ。

ダークゾーンを抜けると、目の前に一匹の狐が現れる。驚いたことに人の言葉を話し、我らの忠告を無視して来たからには容赦しない、という。一本だった尾が二本に分かれ、魔獣オサキ狐は襲いかかってきた。が、弱小の悪魔である。それとも、相手が悪すぎたというべきか。仲魔の力を借りるまでもなく、葛城の敵ではない。

斃すと、オサキ狐は火の玉に変じ、仲間に知らせねば、といって去っていく。以後、このような展開の連続になる。あるところまで進むと、その場所の霊気が突然強まって、妖怪が出現。斃さないと先へ進めないのだ。

次なる妖怪変化は、邪鬼・天逆神あまのさくがみ。「吉野姫は二度と人間の手になど渡さんわ!」といって襲いかかってくる。その後は、妖獣ヌエ。こいつも、吉野姫は渡さない、と雄叫びをあげ、躍りかかって来る。ここにやってくる人間は、吉野姫を奪いにくるものだと決めつけてしまっているようだ。

その先にあるのは、見えない壁が張り巡らされたエリアである。妖鬼ぬりかべや妖魔ケウケゲンが徘徊しているが、面倒なら相手をしなくてもいい。さらに奥へ行くと、魔獣ネコマタが出現する。ネコマタいわく、吉野姫は富を得たいと望む人間に何百年もの間利用され、踏みにじられてきた。「妖怪だからって、ナメるんじゃないわよ!」ということで、やはり戦闘に。

妖怪のオンパレードはまだまだ続く。通路で魔獣クダギツネと邪龍イカヅチを屠って行くと、今度は妖鬼ぬりかべの兄弟が待ち構えている。先に兄が現れ、それを斃してちょっと進むと今度は弟。いずれにせよ相手にならない。

通路にいる魔獣ネコマタどもを片づけ、さらに奥へと踏み込んでいく。途中、泉があるが、武器を金塊?に変えてしまうトラップである。そして、邪鬼・牛鬼が通路を塞ぐようにして現れる。奴は、無言のまま葛城に襲いかかってきた。少しずつ妖怪の強さが上がってきているようだが、まだまだ身の危険を感じるほどではない。

ところで、これらの妖怪たちは、葛城個人に敵意を持っているのではないようだ。ひたすら吉野姫なる人物を守りたい一心で、人間を追い払い、場合によっては殺めようとするのである。いま人物といったが、妖怪に守られるくらいだから、人間ではないのだろう。だからといって、悪しき存在だとはかぎらないわけだが。

そういえば、屋敷に漂う妖気、それは瘴気とは少し性質が違っている。また、泉の中には、傷を癒す効果のある水が湧き出しているものも。禍々しい場所には似つかわしくない。それに、固定悪魔も謎だ。これまで踏破してきた迷宮とは異なり、神獣・白影、聖獣・白蛇、聖獣・白狐といった、名前に白のつく神獣、聖獣ばかり。邪悪さとはほど遠い。

話を攻略に戻そう。悪霊たくろうびどもを吹き飛ばして、どんどん先へ。悪魔じゃらし×3や、聖酒鬼殺しを入手できる。ちなみに、宝箱には妖魔ケウケゲンが潜んでいる。

これまでよりも、格段に強い妖気を感じる。「牛鬼を倒して来たか……」。妖刀を手にした巨大な鬼が、口を開いた。「貴様の力、とくと見せてもらおうぞ!」。妖鬼・酒呑童子と戦闘に。武者車による猛攻は侮りがたいが、それでも役不足である。葛城の力は、いまや並みの人間の力をはるかに凌駕してしまっているのだ。斃された酒天童子は、「あの女に勝てば、貴様も本物だ」と呟く。そして、葛城は「欲に目が眩んだ愚か者」ではないので、吉野姫の力を見ることができるかもしれない、とも。

最後に葛城の前に立ちはだかるのが、魔獣・葛の葉。女狐の妖怪で、酒天童子が言っていた「あの女」とは、この悪魔のことである。魔法攻撃を得意とし、ザンマオン、マリンカリン、マシバーハなどを操る。それでも、こちらが隙を見せなければ簡単に撃破できるだろう。斃すと、吉野姫のことを気にかけながら、火の玉となって消える。

コラム:百鬼夜行

オサキ狐:関東地方に棲息する妖怪で、その名の通り尾が裂けている。はじめから裂けているのか、それとも年を経て霊力をもつようになった結果なのかはわからない。ネズミとイタチが混じった姿で、体色はさまざまである。この狐に憑かれると狂い死にしたり、内蔵を食い荒らされたりする。だが、うまく飼い慣らせば他人の家から金目のものを盗んできてくれるので、飼い主は金持ちになれるという。ちなみに、滝沢馬琴らが編集した珍談奇談集『兎園小説』によれば、身のこなしが速く、神出鬼没、いつも群をなすとされている。

天逆神天邪鬼あまのじゃくともいい、この眷属が四天王に踏みつけられていることでも有名。人の心を察して、その心とは反対のことを次々に行い、人を不愉快にさせて楽しむ。人の心を弄ぶのが大好きという妖怪だ。民話『瓜子姫』では姫の姿に化ける変身能力を見せた。それを踏まえ、『真・女神転生I』では、主人公の母親を喰い殺し、なりすましたのである。伝説によれば、母の天邪毎あまのざこが天の悪気を吸い込み、産んだ子だとされる。この天邪毎も邪神であり、スサノオが胸に満ちた猛気を吐いたときに生まれたとされ、頭は獣のようで鼻は天狗のように高く、長い耳をしているという。偽典の天逆神は、この母親の姿を受け継いでいるようだ。

:頭が猿で胴体は狸、手脚は虎で尾は大蛇、しかも声はトラツグミという妖怪で、ギリシャ神話のキマイラに匹敵する奇妙な姿といえよう。黒雲に乗って京の都に現れ、近衛天皇を襲ったとされるが、武勇の誉れ高かった源頼政によって射殺された。だが、鵺の死体はその後も祟りをなし、町中に疫病が流行したので、空舟うつぼぶねと呼ばれる丸木船(魂を封じ込める力があるとされた)に乗せ、鴨川に流された。謡曲『鵺』には後日談があり、その舟は淀川を経て、摂津国芦屋の里に流れ着いたという。鵺の死体は里人によって葬られ、その場所は鵺塚と呼ばれるようになった。この塚は現在も残っているそうだ。

猫股:年を経た猫が妖怪と化したもので、尾先が二股に分かれていることから、その名がある。二本足で歩き、人の言葉を話し、老婆などに変身することができる。また、ネコマタが死体を跳び越えると死体が蘇るともされているが、これはネクロマンシーの一種らしい。なお、福島県から岐阜県に至る山中にはネコマタの十倍ほどもある、大山猫と呼ばれる化け猫がいたとされている。ひょっとするとこれは宮沢賢治の『注文の多い料理店』のモチーフとなったかもしれない。

塗壁:福岡県に出没する妖怪で、人通りのない山道や寂しい海岸の通り道を夜分歩いていると、突然道を塞いで通れなくする。横にずれてもどこまでも壁が続いていて、前に進むことができない。叩いても蹴飛ばしても無駄だが、棒を使って下のほうを叩けばよいともされる。似た妖怪の伝説が、九州・四国地方に広がっているようだ。

牛鬼:頭は牛、胴体は蜘蛛の化け物である。海中に棲み、ときおり海岸に現れては浜を通る人を襲って喰うという。もの凄い怪力の持ち主。性格は残忍かつ獰猛、しかも執念深く、狙われた人間は絶対逃げられない。また、森の中に棲む種族もあり、その住処は牛鬼淵などと呼ばれる。ちなみに、『太平記』に登場する、大和国宇多郡の森に棲む牛鬼は、名刀鬼丸を振るう源頼光によって、首を打ち落とされた。

酒天童子:酒呑童子とも書く。童子の姿をしているが、それは仮の姿。日が沈むと正体を現し、「熊のような手足に、逆立つ髪、赤毛の間からは角が顔を出し、眉も髭も伸び放題」だったという。大江山に「鉄の御所」と呼ばれる宮殿を造って住んだ。夜になると、手下の鬼を連れて京の都に現れては人を殺し、金品を奪い、また貴族の娘をさらうなど、悪逆のかぎりを尽くした。しかし、ついには住吉明神・石清水八幡・熊野権現の神々の助力を得た源頼光、およびその配下の四天王らによって討たれた。

葛の葉:『信太妻しのだづま』伝説に登場する白狐の名である。安部保名と結婚し、中世最大の陰陽師・安部晴明を生んだとされる。しかし、後に正体を見破られたので信太の森に帰った。その後、葛の葉を捜して森にやってきた保名・晴明親子に、何事もかなうという竜宮の箱と、獣の声を聞き分ける宝玉を授けたという。

迷路を抜け、ようやく屋敷の一番奥の部屋に辿り着く。手前にまた端末があるので、セーブしておくといいだろう。部屋に入る。今度は、葛城が驚く番だった。そこに和服を着てちょこんと座っていたのは、少女、というにはあまりにも幼かったからだ。しかし、その目は子供のそれではない。黒曜石のように澄んだ瞳の奥には深い叡智をたたえ、気の遠くなるような長い歳月を生きてきたことを物語っていた。

突如侵入してきた葛城たちに対しても、まったく臆する様子はない。葛城が名乗ると、向こうは知っているふうだった。少女は、見かけからは想像もできない大人びた声で、人間たちからは座敷童子と呼ばれ、同志たちからは吉野姫と呼ばれていると話した。いまは人間との関わりを絶ち、同志たちに守られて静かに暮らしている、とも。

吉野姫によれば、葛城の心には大きな暗闇、そして哀しみが見えるという。「貴方は、自らの心と向き合ってみる必要がおありになるようですね」。吉野姫の言葉が終わったとたん、葛城の意識は途切れた。奈落の底に吸い寄せられるような感覚を味わいながら……。

サイコダイブ

葛城は、見たこともない空間に佇んでいた。すべてが映像のように感じられるが、不思議なことに、壁の表面をなでるとちゃんと手触りがある。しかし、ANSには反応がない。戻ろうとすると、どこからともなく吉野姫の声が聞こえてきた。ここは、葛城の精神という海の深淵の底、なのだそうだ。「恐れず前に進むのです。最も深い部分、イドの奥底へと」

女神転生シリーズお約束の精神世界である。複雑な精神構造を反映してか、四層にも及ぶ迷宮となっている。進むにつれて、葛城の記憶を垣間見ることができ、入って行きにくい、奥まったところには、触れたくない記憶が隠されているのだ。

第一層。いまは亡き父と母の記憶を見る。優しい母親の姿。葛城は、子供のころおとなしい性格だったらしい。それだけに、葛城が将来デビルバスターになりたいと言ったとき、父親はすごく喜んだのだった。また、由宇香が話しかけてくる。もっと昔に生まれていれば、ふたりは幸せになれたのに……。階段を下りて次の層へ。なお、以後はワープゾーンも増えていく。元の場所には二度と戻れないこともあるので、注意しよう。

第二層。初恋の思い出が蘇る。葛城が6歳ぐらいのころ、美香ちゃんという女の子から告白され、ふたりは将来結婚する約束をした。が、それを聞いた美香ちゃんの母親は激怒。葛城の母親に対して、性犯罪につながるとか管理部に訴えてやるとか言って脅し、結局ふたりは別れてしまった。

早坂から秘密を打ち明けられる。桐島英美と知り合い、好きになった。でも、ろくに話もできない。市民ランクに差があるから釣り合わないだろうと思って、諦めている……。また、渡邊の姿も。葛城が良くやってくれていることには感謝しているという。しかし、突然バールハダドに変じるや、人間は脆く、取るに足らぬ虫けらだといって嗤うのだった。

第三層。母親に甘えていたころの記憶を見る。それだけ、母親の存在が葛城にとって大きいということなのだろう。由宇香がふたたび現れるが、それは妹の美莉をファームで殺され、涙を流すシーンだった。また、あろうことか、血塗られた由宇香の頭部が、どうしてそんな顔で見るの、と話しかけてくる。泪もいる。「私を愛してるの? それとも、私は恋人の代わり?」

目にするのは、それだけではない。自分が経験したことのない出来事についての記憶で、しかも想像力の産物とも考えられないものが、そこにはある。

自室の端末で、原宿シェルターから、悪魔撃退プログラムの圧縮ファイルを受け取る。ファイル名はIST.BIN。サイズが1.5ギガバイトもある巨大なものだ。いずこからともなく悪魔の声が響いてくる。「我が息子よ……我に応えよ……我を崇めよ……」。ダウンロードし、ファイルを解凍する。膨大なデータがディスプレイに映し出された。それを見た瞬間、葛城の体の奥底から甘美な震えが湧き出し、全身を貫いた。悪魔の声は、途切れることなく続いている。目の前に、女神が現れ、告げる。「愛しい狩人よ、そなたが我がもとを去るというのなら、生かしてはおけぬ……」

第四層。飼い猫のゾウイ――実はロボットである――それが、巨大な爪によって引き裂かれたような姿で、床に転がっていた。葛城がその残骸を拾い上げようとした刹那、ゾウイはカッと目を見開き、葛城の腕を掻きむしるや、走り去った。「逃げるのよ、史人。走ってぇっ!」。母の絶叫、そして悲鳴。悪魔に無残にも引き裂かれ、血溜まりに倒れる母の姿が、そこにあった。まだシェルターの結界技術が、不十分だったころのことである。ゾウイに悪魔が憑依していたともとれるが、謎の多いシーンだ。父とともに、若き日の西野が現れる。葛城は西野に連れられ、医療施設へと向かった。

そして、父の死。悪魔と戦い、西野を庇って父は壮絶な最期を遂げた。そのことを、西野本人の口から告げられる。この事件をきっかけに、葛城は西野によって家族同然に育てられることになったのである。

デビルバスターの入隊試験を終えて、第2部隊の仲間が自己紹介をするシーンも思い出した。また、由宇香を手伝って荷物を詰所に運んだときの記憶も。英美は、早坂から指輪をプレゼントされ、すごく嬉しそうだ。その後もずっと、彼女はその指輪を肌身離さず持っていたのである。

「私は人間と同じだわ。なのに、どうして死ななきゃいけないの?」。そう問いかけるアリスの声は、愛くるしい少女のそれではなかった(第7章1節参照)。園田の叫びがこだまする。「俺を殺したのは……だ! 気をつけろ……気をつけろ!」。そして、倒れた葛城たちを嘲笑い、由宇香の頭部を持ち去ったムールムール。

相馬が言う。黄泉には、犠牲となった聖城学園の生徒たちとともに、オセがいる、と。絶大な妖気を発する謎の悪魔が現れ、息子よ……と呼びかけてくる。そして、マルドゥーク。彼から、ラビスシジルの封印を解いてくれるよう頼まれる。それは、メソポタミアの秘術をもって作られ、バエル自らが文字を刻んだ、呪縛の石版である。

最深部を目指してさらに進んでいくと、一番見たくない記憶と向かい合わなければならない。つまり、由宇香が悪魔たちに喰われた惨劇の記憶である。それを乗り越えた先で、外道ドッペルゲンガーが現れる。攻撃力は皆無といっていいが、物理反射の属性をもつ。魔法や魔法剣で攻撃しよう。ここは、ニュートンや仲魔の助けを借りず、葛城自らの手で斃すべきだろう。ちなみに、HPはいまの葛城と同じだけある。

第四層の最深部では、由宇香のヴィジョンを見る。五色不動をどうにかすれば、城へ行けるらしい。また、血が由宇香に何かしており、助けてほしいともいうのだが。例によってよく聞き取れない。そのうち、吉野姫の声が聞こえてきた。現実世界に呼び戻してくれるそうだ。

目が覚める。あいかわらず眼前には吉野姫が座っている。葛城が見たのは、己の魂に刻まれた記憶だった。この体験が葛城にどのように影響するのか、それは彼女にもわからない。しかし、東京の運命は葛城に委ねられたのだという。信じる道へお進みなさい、と吉野姫は言った。そして、何かの役に立つこともあるでしょう、と六芒星の刻まれた紋章を葛城に手渡した。加護目の紋章と呼ばれる品である。

部屋をあとにする。すると、屋敷の構造が変化しているではないか。ずいぶんすっきりとして、移動しやすい。いままで見ていたのは、吉野姫が作りだした幻だったわけだ。各部屋に、斃したはずの妖怪たちがいる。吉野姫の霊力によって蘇ったのだろう。

葛城は彼らに仲間として認められ、受け入れられた。彼らの話によると、日本の妖怪たちは外来の悪魔勢力に圧され、散り散りになってしまったそうだ。昔を懐かしむ者は多い。かつては、葛城と同じような瞳の輝きをもった若者たちが、たくさんいたらしい。酒天童子いわく、「葛の葉が人との間に産んだ子も、お前のような目をしていた」。その葛の葉は、人のことが憎いのではないという。人の命は短いがゆえに、その心は移ろいやすい。だから、私は人のことをすぐに信じることはできないのだ……。

余談だが、イベントクリア後も御花屋敷の泉は利用できる。ひとつは、水を飲むとHPが回復する。もうひとつは、精霊が棲んでいる。天叢雲剣レプリカを投げ入れると風塵剣に、銘刀肥後守を投げ入れると銘刀備前長船に、それぞれ交換してくれる。

コラム:吉野姫

吉野姫は高位の妖怪で、天狗たちも逆らわないという。ちなみに、天狗には大天狗と小天狗がおり、大天狗ともなれば強大な霊力を誇る(たとえば、鞍馬山の魔王尊)。その天狗が一目置くとなれば、相当な力の持ち主ということになる。

実際、御花屋敷を迷宮に変え、葛城に斃された妖怪たちを蘇らせるなど、圧倒的な力の片鱗を見せてくれる。葛城を精神世界に送り込むのも、並の悪魔にはとてもできない芸当だ。おまけに、吉野姫に初めて会った場面で、葛城が瀕死だと、鱗粉のような霧で生き返らせてくれるのだ。

しかし、伝承上の座敷童子が、ここまで凄いわけではない。その土地に古くからある家柄で豊かな家の奥座敷などに住み着き、いたずら者だが、家を繁栄させる、というのが本来の姿。吉野姫は、あくまで偽典独自のキャラクターと考えるべきだ。

彼女も、国津神系の末裔のひとりなのだろう。自然の調和を嘉する存在ではあるが、むしろそうであるがゆえに、人間たちや、ほかの悪魔には干渉しない。だから、葛城にすべてを委ねたのである。

かごめかごめ

屋敷を出たところで、各地の現在の状況を眺めてみよう。まず、品川ホテルは、銀座あたりからやって来た人々が勝手に住み着き、小さな居住区になっている。かつてのアリスやデミ・ヒューマンの面影は、もはやない。ここも人間と悪魔が共存しているが、出現する悪魔は低レベルの妖精系が中心なので心配はいらない。

1Fにはターミナルがあり、以後はこれを使って転移できるので楽だ。登録されているAMSデータをインストールし、建物内の構造を把握しよう。4Fでは心魂の香を入手。最上階の9Fにはなぜか邪教の館も。ちなみに、黄金の宝箱の中には、アクアマリンが入っている。

以前アリスがいた部屋は、幸いにしてまだ空いていた。自分の拠点にしてもいい。その役割は、御茶ノ水シェルターのそれと同じだ。無料でのMP回復、それにセーブ。それから、個人用の培養槽も設置できる。とはいえ、ターミナルもあることだし、由宇香のパーツを日下に預けているのなら、ほとんど利用価値はない。

わずかばかりの住人たちは、主に下層に居を構えている。上の階に行くと電気が通っていない部屋が多く、住むのには不便だからだ。彼らからは、ミレニアム総本山に関する情報を教えてもらえる。それによれば、ガーディアンたちは一般信者が格下げされたりしてなるのではないらしい。また、ヒーリングは取りやめになったそうだ。それから、もっともな疑問も聞ける。信者たちは優雅な暮らしをし、とくに修行しなくても階級が上がっていくそうだが、そんなおいしい話が、あるものだろうか?

ところで、カズミが持ち帰ったアリスはどうなったのだろう。戸山シェルターの研究所を訪れてみると、カズミもメイもいない。メイの発作がほぼ完治したので、ふたりは旅立ったという。その代わり、修繕されたアリスが復帰し、何もかも元通りになった。日下の目標が死を生に作り替えることなのに対し、平沢博士が目指しているのは、限りなく完璧に近い人形。彼の表現を借りれば、「時空に支配されることなく、くるくると踊り続ける幻想の永久機関」である。「アリスが戻って来てくれたおかげで、わしは十分幸せだ」と老人はいった。

となりの部屋に、例の燕尾服姿の兎とともにアリスはいる。しかしそれは、品川ホテルにいたアリス、精神世界で遭遇したアリスとは完全に別の存在だった。おとぎの世界の視点を忠実に守り、仮初めの生を営む人形にすぎない。永遠の少女を演じ続けるその姿は、それが精密なものであればあるほど、よりいっそう無機質さを際立たせた。もう、ここには何も用はないようだ。

新宿では、都庁の上に、悪魔たちの手でバエル城が建設されている。それもかなり急ピッチで進められているらしい。空中に浮かぶその巨大な要塞は、見上げる人々の間に不安を巻き起こしている。支配の象徴として、これほどわかりやすいものもないからだろう。噂によれば、周辺の空域は悪魔たちによってガードされているという。

上野にいたバール兵たちも大半が新宿に移ったようで、上野近辺では以前よりもバール教団の活動が沈静化しているという。逆に、新宿周辺の住人は戦々恐々としており、これまでしぶとく残っていた人々も、さすがに脱出を考えはじめている。

コラム:東京魔都化計画

バエル城を、わざわざ都庁の上に立てたのは、なぜなのだろうか。たとえば、皇居の上空という選択肢もあっただろう。にもかかわらず、わざわざ偽のバエルに都庁を守らせてでも、都庁の上を選んだ特別の理由。それをここで考えてみたい。

ひとつには、明治神宮に睨みをきかし(第9章3節のコラム参照)、また、天使が守る渋谷に対抗するという意味があるのだろう。しかし、もっと恐るべき意味、すなわち東京を風水的に支配する計画が、そこにあるのではないだろうか。

都庁(の第一本庁舎)は、実は風水的には2本の「木」を表していると考えることができる。もともと、高くて巨大な建物ほど強い気を持つものだが、都庁は2棟が連なっているため、パワーが倍増しているのだ。そして、新宿副都心はかつての淀橋浄水場を埋め立てた場所なので、「水」の気をもっている。もちろん、大地には「地」の気が満ちている。

五行説によれば、「水」と「木」は相生の関係にあり、両者ともに力を増す。それに比べ、「木」と「土」は相克の関係にあり、「木」が「土」のエネルギーを吸い尽くす。とすると、非常に強力な「木」の気をもつ都庁は、「水」の気を得てますます力を増し、大地のエネルギーを根こそぎ奪い取ってしまうということになる。新宿一帯のみならず、それこそ東京中のエネルギーを集めてくることも可能だろう。

さらに、都庁の45Fにある展望台は、天井の中央部が吹き抜け状になっていることにも注目しなければならない。この構造のため、都庁が吸い上げた気は、天にめがけて放出されることになる。その気が行き着く先は――そう、都庁上空に浮かぶバエル城である。もしこの仮説が正しいとすれば、バエルは東京中のエネルギーを自らの居城に送り込み、東京支配への足がかりとしているということになる。結論。バエル城の建設は、東京魔都化計画の一環である。

ターミナルを通じて各地へ飛び、新しい情報を収集しておこう。やはり、ミレニアムに関する情報に注目。信者たちはお布施を取られることもなく、マイトレーヤのヒーリングも無料である。いったい、維持費はどこから出ているのか。考えてみれば、大手町の救世主と渋谷の天使たちが力を合わせようとしないのも、ちょっと変だ。むしろミレニアムは、バール教徒たちを護衛に使っているとの噂もあるが……。

そのほか、黄泉の世界に続くゲートがどこかにあるという話や、鏡と榊の枝を合わせてひもろぎを作り、どこかに立てると、異次元への扉が開くという話も聞ける。このふたつの話は、ひとつのことを指しているようだ(第9章1節参照)。

さて、この先どう進むかも、なかなか悩むところだ。ここでは、吉野姫からもらった加護目の紋章を役立たせる方法を考えてみよう。加護目といえば、鬼子母神の僧侶が教えてくれた「カゴメのウタ」。何かつながりがありそうだ。鬼子母神へ。

裏庭の池には、ふたつのほこらがある。前にも述べたが(第4章6節参照)、池の中央に建つのが「ざくろのほこら」、正面の陸地に見えるのが「加護目のほこら」である。加護目のほこらの扉の上には、昔何かがはまっていたような窪みがある。そこに加護目の紋章をはめ込んでみると、ピッタリ合う。すると、それが鍵であったらしく、ほこらの扉が開いた。中には古代の鏡が安置されている。が、何も起きない。まだ何か足りないらしい。

ヒントはきっとあのウタにある。たしか、ウタにはこうあった。「月夜の晩に、ツルとカメが出会った」。月夜とは月の明るい夜、つまり満月の夜のことだろう。満月という条件が、足りない「何か」だと考えられる。

コラム:かごめの歌

筆者の記憶では、「かごめかごめ」の歌詞は、「夜明けの晩に、鶴と亀がすぅべった」だったようにおもう。しかし、調べてみると、「月夜の晩に、鶴と亀がつうべった」とある。地方によって微妙に歌詞が違うのかもしれない。いずれにせよ、意味のよくわからない歌詞である。また、締めくくりも、「うしろの正面だあれ」となっていて、変わっている。ちなみに、「かごめ」は「屈め」が転じたもので、古代の降霊儀式の名残だという説もあるようだ。不思議な言葉には言霊が宿る、ということか。

満月のときに裏庭へ。加護目のほこらに安置された鏡に満月の光が注がれると、それは増幅されて反射し、鶴石と亀石に向かって光の帯を作る。光を浴びたふたつの石も光を放ち出し、その光は、ざくろのほこらにあるザクロ型の鍵に集中する。鍵は消え失せ、祠の扉が開くと、そこに亜空間へのゲートが出現した! どこまでも続く不思議な闇が広がっている。

飛び込んでみると、そこは洞窟のようなところで、わざわざ空間を切り開いたような印象を受けた。通路は奥へと延びている。途中、堕天使ボティスと降天使マルコキアスがいるが、楽勝である。突き当たりの部屋に入ってみると、何も無いだだっ広い空間が広がっていた。そこに、女性の悪魔がひとり。なにやら嘆き悲しんでいる様子。

向こうもこちらに気づいた。悪魔は、ハリティーだと名乗る。すなわち、鬼子母神(カリテイモ)その人に他ならない。彼女は、人の子が亜空間を訪れたことには驚いたようだったが、親切にも葛城たちの傷を癒してくれた。

ハリティーは、彼女の力を恐れたバエルによって末子のピャンカラを隠され、この空間に幽閉されてしまったのである。ピャンカラさえ戻れば、ここから出られるらしい。ということは、さっき斃した悪魔たちはハリティーを護衛していたのではなく、彼女を幽閉したバエルの命により監視していたわけだ。

ハリティーから、ピャンカラを捜し出し、連れ戻して欲しいと頼まれる。相応の礼はするから、と。こんなところまでやってきた葛城の、尋常ではない力を理解したのだろう。実は、ここで選択の余地はない。バエルに敵対するハリティーが自由になれば、葛城にとって悪いことにはならないだろう、ということで、結局頼みを聞いてあげることになるからだ。

では、この広い東京で、どうやってピャンカラを捜せばいいのだろう。そう思っていると、ハリティーは、ざくろの土鈴を葛城に手渡す。その名の通りザクロの形をしていて、振ってみるとカラカラといい音が鳴る(追補B第2節参照)。彼女の話では、ピャンカラの前でこれを鳴らすと、普段と違う音が鳴るそうだ。それでも、捜すのはかなり大変そうだが。

ミレニアムの真実

ピャンカラ捜しの手がかりを求めて記憶の糸を手繰ってみると、ミレニアムの信者の話を思い出した。かのマイトレーヤはほかの宗教にも詳しく、訪ねてきた僧侶を相手に密教の教義を語り、感銘させたらしいのだ。ピャンカラがハリティー譲りの霊力で密教の呪術を操るとすれば、マイトレーヤとの接点があるかもしれない。それに、ミレニアム総本山は胡散臭い場所なので、真実を確かめる必要があったところだ。これで、次に向かうべき場所は決まった。

といっても、上位者エリアへの立ち入りは禁止されている。うまく潜り込む方法を見つけないと。そういえば、上野神殿の側でジャンク屋に、秋葉原で店を開いているからよろしく、と声をかけられていたのだった(第7章5節参照)。神出鬼没の奴なら……。

秋葉原の1Fに、ジャンク屋の店はあった。品揃えは少なく、天叢雲剣レプリカ(5,000マッカ)とガーディアンセット(6,800マッカ)、それにミレニアムベレー(在庫切れ)だけだ。商売心をくすぐるものがない、とかで買い取りも行っていない。注目すべき品は、言うまでもなくガーディアンセット。ミレニアムの警備兵、ガーディアンの制服を、人数分セットにしたものである。これがあれば、ガーディアンに変装して、上位者エリアにも入れるはず。使わない手はない。

ミレニアム総本山へ。最近ミレニアムの発展に伴って、不快な中傷や嫌がらせも増えつつある、という話を聞ける。先日もテンプルナイトの制服を着た一種の狂人が忍び込み、ひと騒動あったとかで、信者たちはミレニアムの理想を理解しない愚か者たちのことを嘆いている。また、近頃無断でミレニアムを去る人が続出しているという。食べ物に不自由せず、悪魔に怯えることもないのになぜ、とその信者は不思議そうだった。

ちなみに、マイトレーヤの治療が取りやめになったのは、千年王国の実現に向け、新たな構想を練っているからだ、と2Fにいる司祭が教えてくれる。この司祭、3Fにいる人物とは別人だ。何人も司祭がいるのは少し奇妙だが……。

移動中、ガーディアンセットを使う。すると、ミレニアム内で、ほかのガーディアンに話しかけたときのメッセージが変化し、「持ち場を離れてウロウロするな!」と叱られたりする。しかし、信者に話しかけたときは同じメッセージのままである。「番犬のような存在」と蔑まれているのなら、それにふさわしいメッセージに変えてほしかった。

問題の4F、上位者エリアに至る通路へ。以前は大司祭らしき声に呼び止められていたところだが、今度は大丈夫。電子音声が、コードの入力を促してくる。上野神殿で、上位者らしき男がいまわの際に喋った数字を覚えているだろうか。49702と入力。扉が開く。

そのとき、ガーディアンに呼び止められた。「貴様、見慣れない顔だな……いったい何者だ!」。ガーディアンが制服を脱ぎ捨てると、その正体はバエル信者クラレだった。戦闘になる。もちろん楽勝だ。しかし、この先何があるかわからなくなった。仲魔の召還はいまのうちに済ませておこう。

目指すは最上階。おそらくはそこにマイトレーヤがいるはずだ。そして、ミレニアムの実権を握っているという大司祭も。

上位者エリアは、左右対称の構造になっている。そこに、凶暴な悪魔がうじゃうじゃと群れている。5Fには、鬼女ラミアと堕天使ボティス。6Fには、幽鬼ノスフェラトゥと、邪龍コカトリス。7Fには、降天使ヴァピュラと堕天使ベリスが出現する。人間はひとりも見あたらない。ここが上位者の居住区だというのは、まったくのデタラメだった。なお、5Fではフィトストーン×4とフルムーンライト×3を、6Fではブルージル×5とイグナイター×5を、それぞれ入手できる。

護衛の悪魔を斃し、最上階の7Fへ。セーブ可能な端末がある。また、Windows版では、東側の端末が泉に変更されており、HPを回復できるようだ。

そのフロアで最大の部屋に入ると、マイトレーヤと大司祭が並んで立っている。マイトレーヤは、侵入者の出現に不快感を露わにした。ガーディアンたちの不甲斐なさを毒づく。ヒーリングを行っていた彼は、寛容な人物の仮面をかぶっていたにすぎなかった。それに比べて、大司祭はいたって冷静である。マイトレーヤに対し、ここは自分が対処するから心配せず奥の部屋で待っていてくれという。マイトレーヤもしぶしぶ納得し、立ち去る。かなり信頼を置かれているのが見て取れる。

大司祭は葛城のほうに向き直った。「貴方相手にこれ以上取り繕う必要もないでしょう。このような姿を保つのも案外窮屈でね」。大司祭は笑みを浮かべると、本性を現す。ベルフェゴールという悪魔である。悪魔は、バエル様の周囲を嗅ぎ回っている奴とも違うようだ、といい、しばらく考えた後、葛城史人であることに思い至った。悪魔は、誰のことを言おうとしていたのだろう?

また、葛城は「イシュタルの愛を得、アスタルテを惑わせた」などと言われるのだが、身に覚えがない。しかし、ゆっくり考えている暇もない。真実を知られてしまった以上、ベルフェゴールは葛城たちを生きて帰すつもりなどさらさらなかった。そのうえ、これまでアバドンやレラジエといった大悪魔を葬ってきた葛城と戦えるのが、嬉しいのだという。「願わくば、わしを落胆させないで欲しいものだ」。魔王ベルフェゴールと戦闘になる。

コラム:ベルフェゴール

ベルフェゴールは、発見と創意発明の魔神である。もとは権天使であった。『民数記』によれば、ヨルダン河東部で疫病を起こし、2万4000人の命を奪ったという。魔術書では7つの大罪のうち怠惰(Sloth)を司る魔神とされ、悪魔学者コラン・ド・プランシーは、寝室用の便器を王座とする、牛の角と尾を持つ男の姿にした。

そのルーツは、フェニキアとカナアンの豊饒神バアル・ペオルにある。「割れ目の主」という意味の名で、洞窟内で崇拝されていたことを窺わせる。動物を供物として受け取るとされるが、かつては人間が生贄として捧げられた、とも。また、汚らわしい排泄物が奉献されたらしく、それが男根の神プリアポスと同一視される一因となった。なお、プリアポスについては、第3章4節のコラムを参照のこと。

サクリファイアーや天鎚といった特殊攻撃を繰り出してくる。後者は落雷を起こすもので、電撃に弱いニュートンは大きなダメージを受けるかもしれない。また、テトラカーンやデカジャも操る。そして、異彩を放つのがマグラの魔法。小さなブラックホールを出現させ、射撃・攻撃魔法・特殊攻撃を敵味方ともに無効にしてしまう。だが、補助魔法は使えるので、かえって楽かもしれない。なお、これまでのボス悪魔と比較しても、体力はかなり高い。長期戦は必至。斃すと、エメラルドを落とす。

斃された後も、奴は笑っている。くだらぬ権力争いで滅ぶより、戦って滅ぶほうが本望だ、と。「地獄で会うことがあったら、声をかけてくれ……」といって息絶えた。

そこに、信じられないといった面持ちのマイトレーヤが現れる。激怒した悪魔は、見る見るうちに夜叉の姿へと変じた。「我は夜叉大菩薩鬼子母神ハリティーが末子、ピャンカラ王子なり!」。そう、マイトレーヤこそは、葛城たちが捜していたピャンカラだったのだ。

ピャンカラは、自分がこの地に王道楽土を築き、人々を救うために降った救世主だと信じ切っている。その救世主に歯向かい、賢臣ベルフェゴールをも手にかけたのが葛城である。「我が母にかけ、目にもの見せてくれようぞ!」。鬼神ピャンカラと戦闘になる。

戦って斃すのはそれほど難しくないが、ここはやはりざくろの土鈴を鳴らすべきだろう。それまでとは違う、高い音色が響く。すると、ピャンカラの動きが止まった。無論聞き覚えがあったのだ。そして、気付く。葛城こそは母ハリティーの使者であり、自分はバエルの手先に騙されていたのだ、と。

ピャンカラは目を覚まさせてくれた葛城に感謝し、奥の台座から持ってきた、光り輝く太古の鏡を差し出す。葛城ならば、正しい目的のために使ってくれるだろうと思ったのだ。それは、高名なる三種の神器のひとつ、八咫鏡やたのかがみだった。代々木労働キャンプで探していた古代の鏡とは、たぶんこれのことなのだろう(第3章6節参照)。ベルフェゴールは残りの草薙剣くさなぎのつるぎ八尺瓊勾玉やさかにのまがだまを探していたそうで、悪魔たちにとっても三種の神器は重要な意味をもっているようだ。

なお、八咫鏡を戦闘中に使えば、あらゆる攻撃を跳ね返す結界を張ることができる。もちろん使用回数は無制限。さすがは神器である。

コラム:大破壊と神器

偽典では、三種の神器がバラバラに登場する。すべて皇居に集められていたはず、という前提に立つと、この展開はやや不自然とも思える。そこで、大破壊に絡んで、以下のような事情があったのではないか、と推察してみた。

バックグラウンド・ストーリーによれば、ICBMが飛来して大破壊が起こる前に、一部の人々はその事態を予見し、あらかじめ地下の核シェルターに家族ごと避難していたという(序章参照)。五島指令がクーデターを起こした直後のことである。しかし、五島にはもくろみがあった。悪魔の力を借りて、唯一神が世界を浄化しようとするのを食い止めるだけでなく、神国日本を建設しようとしていたのだ。そのためには、誰か皇族を捕まえ、さらには三種の神器をそろえて、傀儡の天皇を即位させる必要があった。

草の根を分けてでも探し出せ――五島の厳命を受け、自衛隊の諜報機関が動き出した。それを察知した皇族たちは、シェルターに逃げ込むことを断念。東京を脱出し、京都に向かったのである。

また、三種の神器も、神器を護持する特命を帯びた人たちによって、別々に皇居から運び出された。神器がすべてそろわないかぎり、五島がいくら望んでも、正式な即位はできない。そこで、五島の野望を阻止すべく、あえて危険を冒したのである。別々に運び出したのは、一度に奪われるの防ぐためだ。ただ、すぐに東京の外まで持ち出すのは難しい。リレー方式で、次の人に受け渡すようになっていたのではないだろうか。とすれば、神器は一時的にどこかの小さな神社などに隠され、別の人が秘かに取りに来る手はずになっていたはずだ。

ところが、ICBMは予想外に早くやってきた。神器を護持していた人々は、大破壊や、その後の混乱の中で、命を落としてしまったのだろう。もはや、神器のありかを知る人はいなくなってしまった。こうして、神器は散逸したのである。しかし、強大な霊力を有する三種の神器は、決して破壊されることはない。その後も、神器は数奇な運命をたどったことだろう。このあたりの経緯は定かではないが、八咫鏡は、ひょっとすると、ピャンカラの霊力によって探知されたのかもしれない。

コラム:偽りの楽園

近頃無断でミレニアムを去る人が続出している、ある信者はそう話していた。しかし実態は、上位者たちが片っ端から上野神殿に送られ、生贄にされていたのである。つまり、自分から出ていったのではなく、拉致されたのだ。

そうすると、「テンプルナイトの制服を着た狂人が忍び込んだ」という話の真実も、見えてくるというものである。彼は決して狂人などではなく、上野神殿から命からがら逃げ帰ってきた上位者だったのだ(葛城が解放してあげた人かもしれない)。しかし、彼の話など誰も信じはしない。マイトレーヤに心酔しきっている人々に、何を言っても無駄だった。そのうち、ガーディアンが現れて、人目に付かない場所に連行され……。

要するに、ミレニアムという施設自体が、生贄を製造する工場のようなものなのだ。上質な生贄をつくるには、周囲の世界から隔離して純粋培養するほうが、都合がよかった。なぜなら、生に希望をもった魂が絶望したとき、その落差が、どす黒く、かつ強いエネルギーに転化するからである。悪魔たちは、そのためのコストを惜しまなかった。資金源は、おそらくバール教団だろう。

マイトレーヤは、ベルフェゴールにおだてられて教祖に祭り上げられていたにすぎない。真実を何も知らされていなかった。無償の治療行為も、「客寄せ」のパフォーマンスだったわけだが、もちろんマイトレーヤにそのことは隠されていた。そして、ヒーリングが取りやめになったのは、上野神殿が潰れ、客寄せの意味がなくなったからである。千年王国の実現に向けた新たな構想云々は、ベルフェゴールがマイトレーヤを納得させるためにでっち上げた、もっともらしい理由というわけだ。

蛇足だが、カリスマ教祖と実務能力に長けた補佐という構図は、日本の宗教にはよく見られるパターンだ。これを巧みに採り入れたことで、ストーリーに深みを出すことに成功している。高く評価したい。

ピャンカラを連れて部屋を出る。ちゃんとCOMPから召喚しておくこと。これ以後、3Fより下の階にも悪魔が出現する。おもしろいことに今度は上下対称になっていて、5Fに出現した悪魔が3Fに、6Fに出現した悪魔が4Fに、そして7Fに出現した悪魔が1Fに現れるのだ。

一般の信者たちは大半が逃げ出したようだが、逃げ遅れた人々もいる。彼らを助けてほしいとピャンカラに頼まれるので、部屋を回ってみよう。信者を発見すると、ピャンカラが思念の力でその人を安全な場所までテレポートさせる。これで救出したことになり、そのフロアに残っている人をすべて助けると、ピャンカラがその旨を教えてくれる。

信者たちに混じって司祭もおり、「この約束の地が、悪魔に支配された、ソドムのごとき場所だったとは!」と嘆く司祭をやはり転送させることになる。ピャンカラがテレパシーで司祭に呼びかけると、さすがに目の前にいる悪魔がマイトレーヤだとわかったようだ。

ちなみに、ピャンカラを召喚していない場合、展開が少し変わる。葛城たちが自発的に、逃げ遅れた信者たちを助けることになり、助けられた人々は葛城たちの後ろからついてくる。そして、全員助けてあげると、属性がLIGHT側に傾く。

さらに、出口付近までやって来て、みんながようやく胸をなで下ろしたところで、司祭が進み出てくる。司祭は、葛城の人の良さを嗤い、その姿は悪魔のそれへと変貌していく。正体は堕天使ベリス。周囲の信者はパニックに陥るが、葛城のほうは落ち着いたもの。悪魔は手にした槍で襲いかかってくる。ベルフェゴールを斃した葛城の首を取り、名を上げるつもりらしい。戦闘に。だが、いくら不意打ちでも実力の差がありすぎた。あえなくベリスは討たれる。

いずれの展開をたどっても、出口のところで、突然泪が入ってくる(このとき、葛城が瀕死だと、呪文で蘇生させてくれる)。泪は、「私のことなんて忘れてたでしょ?」と尋ねたあと、あの時はああするしかなかった、でもいまは貴方の側にいたい、といってくる。何も訊かないで、断らないで、とは虫のいいお願いだ。

躊躇していると哀願され、身勝手すぎると非難すると、葛城の胸にすがりついてくる。彼女に、以前垣間見たような影の部分はないようだ。それに、相馬がいなくなった戦力ダウンも補いたい。というわけで、泪をふたたびパーティーに迎え入れる。ちなみに、「君を離さない」と答えたときは、キスシーンに。ここでの選択はあとで効いてくるので、注意しよう(第12章参照)。

ミレニアムを出て、人々は思い思いのところへ帰っていく。おそらくは、まず近くの銀座地下街へ行くのだろうが。葛城たちはハリティーのところへ。

鬼子母神の亜空間は、開かれたままになっている。僧侶のメッセージが変わらないのが残念。ハリティーの部屋へ行くと、感動の親子再会となる。ふたりに感謝され、ハリティーに傷を癒してもらい、カーラヴァジュラを受け取る(追補B第2節参照)。

この法具を戦闘中に使用すれば、アンデッド系の不浄の魔物を浄化する霊力を発揮する。つまり、マハンマの効果がある。武器として装備することも可能で、ハリティーが「この上無き武具」というだけあって最高クラスの威力を誇るが、超人的な体力がなくては使いこなせない。そして、時空を越える力もあるというが……。

ピャンカラから、人々を救うため葛城と行動を共にしたい、との申し出を受ける。断ることもできるが、ムドを覚えていてそこそこ役に立つので、連れていってあげよう。ピャンカラと一緒にいると、ハリティーは無料でパーティーを全快させてくれる(瀕死状態からの回復もふくむ)ので、一石二鳥だ。

ちなみに、ピャンカラは悪魔合体にも使える。レベル34の鬼神だけに貴重な素材となるが、そんなことをすればハリティーをふたたび嘆き悲しませることになるだろう。ただ、適当にごまかすという手もあるが。

なお、ピャンカラが戻ったあとも、なぜかハリティーは亜空間に閉じこもったままである。ピャンカラの魔力でも結界を破れなかった、というわけではないのだろうが。

ところで、ミレニアムでピャンカラを斃してしまった場合は、どういう展開になるのだろうか。ピャンカラもなかなかの強さだが、ベルフェゴールよりは楽。経験値は稼げる。ハリティーから預かっていたざくろの土鈴は、戦闘後、真っ二つに割れてしまう。一方、八咫鏡はちゃんと入手できる。

その後ハリティーに会いに行くと、ピャンカラを斃したことがばれ、怒り狂った地母神ハリティーと戦闘に。ムドオンが怖いのと、メディアラマでダメージを回復してしまう点は少し厄介だが、わりとあっさり撃破できる。ハリティーは、「ピャンカラ……どこまでもふがいない、この母を許してたもれ……」などといって息絶える。属性がDARKに傾く。側に落ちているカーラヴァジュラを入手。ただ、強大な力を秘めた物だということはわかるのだが、何に使うのかの情報がまったく得られなくなってしまう。

余談だが、割れた土鈴を持っている場合はともかく、このとき初めてハリティーに会うパターンでは、なぜ葛城たちがピャンカラを殺したことまで見抜かれてしまったのか、説明が不十分だ。

ついでに述べておくと、ストーリー上、カーラヴァジュラがなくても無理矢理話はつながってしまう。これは、Windows版でも直らなかった設計ミスである。

それともうひとつ。ミレニアム総本山が潰れても、ミレニアム総合病院は何喰わぬ顔で営業を続けている。六本木居住区で聞いた話によれば、この病院はミレニアム教団の病院らしいのだが。いちおう、運営母体が違ったということで説明はつく。しかし実際は、制作者がストーリーを詰め切れていなかったのだろう。つまり、もともとミレニアム総本山とつなげる予定だったのだが、時間がないので見切り発車した、と。

ミレニアムのイベントをクリアした時点で、バエル城が完成する。これに関する噂はかまびすしい。悪魔の時代の到来を予感する人もいるようだ。ミレニアム崩壊の情報もすでに伝わっており、みんなの希望を挫く一因となっている。マイシテーからは、ついに人が逃げ出しはじめた。

今回はこのへんで。続きは次回。


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