第7章 幻想の狭間で


幻影の少女

恵比寿ガーデンから渋谷方面に進もうとすると、結界に阻まれてしまう(初台の端末情報によれば、LIGHT属性の結界だという)。それに、渋谷方面は比較的出現する悪魔が少ない、なんていう情報はまったくのデタラメ。しかも遭遇する悪魔はけっこう手強い。コンディションが悪いときにうろつき回るのは危険だ。ただ、経験値稼ぎや仲魔集めには悪くないのだが。

そこで、次に向かうところは、(Windows版のフローチャートとは異なるが)品川ホテル。かつてはいくつかのホテルが立ち並んでいたこの地も、いまや往事の面影をとどめているのはこのホテルただひとつとなっている。大破壊時の爆風によるダメージこそ免れなかったものの、下層部分はほとんど無傷のまま残っており、人が住めないこともないようだった。

とはいえ、かつての威容は見る影もなくなっている。悪魔の巣窟になっている可能性も高い。とくに霊体系悪魔の有無は、外からでは判別のしようがないのだ。慎重にホテルに足を踏み入れる。鬼が出るか蛇が出るか……いや、何も出ないようだ。悪魔が徘徊している様子は皆無。ANSにも反応はない。品川はアシラトの支配下にあると聞いていたが、ここはその圏外なのか。

レセプションに行ってみる。すると、そこにはタキシード姿のウサギがいた。というより、すらりと伸びた身体はほとんど人間そのもの。顔と手だけがウサギなのだ。そのウサギが、口を開いた。「いらっしゃいませ。アリス様は最上階にいらっしゃいます」

アリスといえば、カズミが探していた、平沢博士の娘の名前ではなかったか。そのアリスがこんなところに……? それに、このウサギも博士の研究所にいたはず(第4章6節第6章1節参照)。エレベータで一気に最上階を目指したいところだが、ここはゆっくりと階段をのぼっていこう。話を聞いて回りながら。なお、1Fには暗闇の部屋があって謎が深まる。また、セーブ可能な端末も。

あちこちの部屋にいるのは、トランプの兵士たち。彼らはアリスの護衛のようだ。誰もがアリスのことを愛していて、彼女の「ひまわりのような微笑み」を見るのが何よりの楽しみという連中である。最近、王子様が現れてアリスのお気に入りとなり、このホテルに滞在しているらしい。完全におとぎ話の世界だが、そんなものがなぜこんな場所にあるのか、ますますわからない。

最上階である9Fへ。通路沿いの部屋をあたってみると、なんとカズミがいる。向こうも驚いた様子。いきさつを話してくれる。それによると、修行の旅を続けながらようやくアリスを捜し当てたまでは良かったものの、彼女に気に入られたため、軟禁状態にされてしまったのだという。そう、トランプ兵が言っていた王子様とは、カズミのことだったのだ。

ひとりで外に出ようとすればトランプ兵に連れ戻され、アリスを連れて出ようとしても泣き出して手がつけられず、そのうちにトランプ兵が飛んでくる。その繰り返しだった。もちろん、無理矢理連れ出すこともできなくはなかったが、カズミの直感が、それはまずいと告げていた。かつてのメイと同じように、アリスの背後に、拭い去れない「死」のにおいが感じられたからだ。

だが、いつまでもこうしているわけにはいかなかった。博士との約束もあるし、メイのことも心配だ。そこでカズミは、葛城に一緒に説得に当たってくれるよう頼んでくる。ほかでもないカズミの頼みだし、平沢博士には恩もある。聞いてあげることにしよう。カズミがパーティーに加わる。

ちなみに、このときカズミのフルネームが「山田カズミ」だと判明する。それから、銀の十字架を装備しているのだが、これも狼男にゆかりのあるアイテムなんだろうか。

一番奥の部屋へ。そこは質素だが落ち着きのある整った部屋で、主の品の良さを窺わせた。アリスは、金髪で青い目をした、愛くるしい少女だった。古風な洋服と相まって、まるで人形のようだ。平沢博士の娘とはとても思えないが……。なお、葛城たちの中に瀕死の者がいると、不思議な力で回復してくれる。

こちらが礼儀正しく名乗ると、アリスも自己紹介する。カズミは、彼女から王子様と呼ばれていた。葛城たちはその王子様のお友達、ということで、お茶会を開いて大事にもてなしてもらえる。おいしい紅茶を飲み、お菓子を食べ、アリスの話に引き込まれて、気がつけばかなりの時間が経過している。お茶会が終わると、また来てね、といわれて帰される。これではたしかに埒が開かない。完全に向こうのペースだ。

何度行っても結果は同じこと。本来の目的を言い出せぬまま、お茶会の時間だけが過ぎてゆく。アリスは毎日毎日ずっとこんな調子で暮らしているのだ。そういえば、彼女に両親はいないようだ。「寂しくない?」と葛城が尋ねたとき、輝かんばかりの顔が一瞬曇った。「みんなや王子様がいるから、寂しくなんかないわ」と笑って答え、いつもの表情に戻ったが、寂しさを強引に振り払ったような印象は否めなかった。

一度出直そう。そう考え、カズミを連れて下に降り、ホテルの正面玄関へ。すると……どこからともなく少女の声が聞こえてきた。「私の大事な王子様を連れていくなんて酷い、許せない」。その途端、葛城たちは目に見えない強い力によって、建物の中へ押し戻されてしまった。

声の主はアリス。彼女は、悪魔に憑依されているのだろうか。だとすれば、徐々に魂を蝕まれ、最後には悪魔に同化されてしまうだろう。カズミは、一刻も早くアリスを助けなければ、という。彼自身悪魔に憑依された経験があるだけに、その言葉には説得力があった。ここは彼に従うしかない。

レセプションのウサギに話しかけると、アリス様を悲しませる輩は許しません、といって襲いかかってきた。ウサギの正体は、デモノイド・三月うさぎだった。この系統のご多分に漏れず、体力はかなり高い。飛び丸を振り回し、九十九針つくもばりを飛ばしてくることも。攻撃魔法で片付けよう。

やはり、ただごとではないようだ。エレベータで上へ急ごうとするが、4Fに足を踏み出した途端、落とし穴! 慌てて3Fから階段を目指すと、また落とし穴! 2Fから階段をのぼり、シュートを避けて慎重に進んでいくしかない。

ホテルは、その様相をガラリと変えてしまっていた。堕天使サブナック、邪龍ジャバウォーク、樹精アルラウネや妖精マベルといった悪魔に加えて、こちらも正体はデモノイドだったトランプ兵どもが徘徊しており、葛城たちに攻撃を加えてくる。しかも、下手に部屋に入ろうものなら、アリス様を悲しませる輩は……の例のセリフとともに、トランプ兵が襲いかかってくるのだ。ちなみに、斃したあとで再度部屋に入ると、デミ・ヒューマンの残骸が転がっている。

9Fで悪霊ファントムなどを撃破して、アリスの部屋へ。アリスは、それまでに見せたことのない悲しげな瞳をしていた。「アリスの大事な宝物、取らないでよ」と葛城を詰り、泣き出す。「許せない!」と彼女が叫んだ瞬間、子供のものとは思えない力によって、葛城は部屋の外まで突き飛ばされた。相馬たちが駆け寄る。そこに、涙を流しながらアリスがやってきた。「王子様を連れてっちゃうなんて……絶対そんなことさせない!」。その叫びが、合図となった。どこからともなく、トランプ兵たちが現れる。5連戦。そのあと、またもや三月ウサギが襲ってくる(斃すとムーンストーンを落とすあたり、芸が細かい)。

おとぎの国の住人をすべて屠ると、今度はアリス自身に異変が起こる。「大人なんて大キライッ!」と叫んだかとおもうと、あたりは白い光に包まれた。光が消えたあと、その場所にいたのは、もはや人形のような少女ではなく、妖艶な全裸の美女だった。女性は、淡い光を身に纏い、宙に浮かんでいた。まるで、精霊のような姿だ。「王子様は私のもの。誰にも渡さない!」。アリスの絶叫が響く。そして、彼女は葛城に狙いを定め、攻撃を仕掛けてきた。

デモノイド・アリスの攻撃は魔法が中心。それも、プリンパ、マリンカリン、パニックボイスなどこちらの動きを封じるものばかりだ。その割には打撃力は低く、あえて注意するとすればマハジオンガだろうか。体力もそれほど高くなく、使用する回復魔法もディアにとどまる。いまの葛城たちの力なら十分に対応できるはず。しかも、パーティーにはカズミもいるのだ。

斃すと、毎日楽しく誰にも邪魔されずに暮らしたかっただけなのに……と言ってアリスは消滅する(このときサファイアを落とすことがある)。それとともに葛城たちは白い光に包まれ、気がつくとホテルの外に立っていた。カズミが、もう一度ホテルに戻るよう促してくる。平沢博士にアリスを連れ帰ると約束した以上、どんな結末になろうとも、確かめたうえで報告したいのだという。

アリスの部屋には、デミ・ヒューマンたちの死体が転がっていた。死体に外傷はなく、埃が降り積もっている。とっくの昔に寿命を迎え、機能を停止したのだろう。壊れて動かなくなった、機械仕掛けの人形たち。アリスは、穏やかに眠っているようにさえ見えた。

哀しげな様子でアリスのそばに歩み寄ると、カズミは、ひとりごとのように語りだした。アリスもまた、平沢博士が作り出したデミ・ヒューマンだった。カズミは博士の態度や口ぶりから、薄々そのことに気づいてはいたらしい。だが、博士自身はそのことを隠そうとしていたそうだ。葛城たちがいままで目にしてきたもの。それは、すべてアリスの思念が創り出した幻想だったのだ。

「仮初めの命を、彼女は見事に舞い遂げたんだよ」。カズミがつぶやく。彼は、アリスの身体を平沢博士のもとに送り届けるという。葛城に礼を言い、静かに部屋を出ていった。葛城たちもまた、後味の悪い思いを噛みしめながら、ホテルをあとにした。

余談だが、上のストーリー展開では、アリスは実はデミ・ヒューマンだった、ということを、斃した後に知ることになっている。ところが、平沢博士は、「わしの孫に似せた、デミ・ヒューマノイドのアリス」というセリフを口にする(第5章2節参照)。また、秋葉原で再会したカズミは、「平沢博士にいなくなったデミ・ヒューマンのアリスを捜し出し、連れ戻してくれと頼まれた」と喋っているのだ(第6章1節参照)。これでは最初からネタバレである。たんに娘を捜している、ということにするべきだった。なお、本書では該当個所をあらかじめ修正してある。

コラム:アリスの正体

寿命によって機能を停止したはずのアリス。では、あの生きて動いていた少女のアリス、そして妖艶な美女は、いったい何者だったのか。また、アリスはなぜ、幻想の世界を作り上げたのだろうか。

こんなストーリーはどうだろう。大破壊後も、ホテルにはいくらかの人々が住み着いていた。雨風をしのげる場所は、ほかにそう多くなかったからだ。だが、あるとき悪魔の襲撃に遭い、住人は全滅した。その後、アリスがトランプ兵たちとともに、このホテルにやってきた。感情が芽生えた彼女は、平沢研究所を抜け出したのである。彼女は、人間の友達をつくり、人間として暮らしたかったのだろう。そして、機能停止後も、アリスの寂しいという気持ちはその場に留まり続けた。

その残留思念に感応したのが、かつてここの住人であり、悪魔に殺された若い女性の幽霊だった(最上階にいたファントムは、彼女の仲間だと考えられる)。彼女もまた寂しかったのだろう、動かなくなったアリスの体に憑依したのである。そのとき、異変が起こった。彼女の霊力はアリスによって触媒され、強大なものとなったのだ。そこで、彼女はその力を使い、自分が望む平和で楽しい世界、つまり幻想のおとぎの国を生み出したのである。

コラム:不思議の国・鏡の国

アリスが主催するお茶会。これは、いうまでもなく、『不思議の国のアリス』を踏まえたもの。ただ、原作では、三月うさぎと帽子屋、それにヤマネが開いているお茶会に、アリスが参加することになっている。そこで珍妙な会話が繰り広げられるのだ。また、トランプの兵隊も原作に登場する。彼らの主はハートの女王という暴君である。

それから、ジャバウォーク。こちらは、『鏡の国のアリス』のジャバウォッキーという詩の中に出てくる怪物だ。炎の瞳、噛みつく顎、つかむ爪を持ち、咆哮をあげて襲いかかってくるとされ、妖剣を手にした男に殺され、首を落とされたという。その正確な姿は描写されていないのだが、ジョン・テニエルの挿絵に描かれたイメージで固まってしまっているようだ。

喧噪渦巻く大歓楽街

次は、六本木方面に向かう。瓦礫は取り除かれており、居住区と大歓楽街に行くことができるが、順を追って進んでいこう。先に六本木居住区に立ち寄ることにする。

まずは、ターミナルでセーブし、AMSデータをダウンロード。これで、いつでも他のターミナルから移動して来られる。ここも一通り施設がそろっているので、ぐるっと回ってみよう。

武器屋に置いてある武器・弾薬はたいしたものがないが、ホーンオブヒーリングだけは、必ず入手しておきたい。使用するとメディアラマの効果があり、パーティー全員のHPがかなり回復する。しかも、移動中・戦闘中を問わず無制限に使えるのだ。とくに、長丁場になる対ボス戦で重宝するだろう。

防具屋では、好みで、ニュートンに風切りの尾を買ってやるのもいい。紅の具足や昇龍の具足などの全身鎧は、コストパフォーマンスが低すぎるので無視すべし。道具屋には反魂香がある。また、石化を治癒する岩長の化粧が目新しいが、石化すること自体まれなのであまり重要ではない。さらに、紫水晶のペンダントは、使用するとデサマンの効果。が、いかんせん高い。薬屋には見るべきものがない。あと、お金に余裕があれば、コンピュータショップでセーバーVを買っておこう。

ちなみに、これは六本木に限らないのだが、店で商品を購入・売却する場合、金額の確認を求められたときに、その金額部分をクリックすると、金額を変えることができる。これで売却価格をあえて下げてみよう(たとえば、0にする)。運がよければ、アイテムをプレゼントしてくれる。たいていは安価なものだが、ときには非売品も。

2Fには病院がある。妖精が医師を務めており、銀座地下街と同じく、人間も悪魔も分け隔てなく治療してくれる。また、このフロアの端末からは、魔獣オルトロスのDDSデータをダウンロード可能(ただし、V2型ウィルスが侵入する)。戦闘力がけっこう高いのでそのままでも使えるが、高レベルという強味は、合体でより強力な仲魔を作るときに発揮されるだろう。

住人たちから話を聞く。上野近辺にあるゴミの山の中には、真新しい衣類などがけっこう混じっているとかで、生贄を捧げているという噂が絶えないそうだ。また、かつて臨海コロシアムがあった有明だが、いまでは渡る手段も無く、荒れ放題になっているという。それから、八重洲は一面の廃墟だが、孤児たちがグループを作って暮らしているらしい。なお、市ヶ谷シェルターは、日下が買い取った(!)ものだという情報も得られる。

六本木を出たら、邪教の殿堂にも足を運んでおこう。ここは、各地に点在する邪教の館の総元締めである(詳細は、第4章7節のコラム参照)。主は地下(B1F)にいる。

本来、3身合体や人間を含めた合体はこの邪教の殿堂でしかできないはずなのだが、実際は他の邪教の館でも、それらの合体は可能である。ゲームバランスを考えて、後から仕様を変更したのだろう。その結果、邪教の殿堂はなんら特別の役割をもたない施設になってしまった。

とはいえ、各階には合体の材料となる悪魔がいるので、多少は存在意義がある。1Fには水妖アプサラスと闘鬼スパルトイ、2Fには樹精アルラウネと魔獣ケルピー、3Fには天使ダニエル、妖精トロール、龍王ナーガ、それに鬼女ラミアが徘徊している。研究によれば、これらの悪魔を組み合わせると、夜魔ヴァンパイアや水妖アナーヒータ、龍王ナーガ・ラジャや女神フレイアといった高レベルの悪魔を作り出すことが可能なのだという。

なお、3Fの宝箱からは、魔性の香を入手できる。2Fの黄金の宝箱には、トパーズ。それから、B1Fの端末では、妖精マベルのDDSデータをダウンロードできる。

そろそろ、本命の大歓楽街へ向かおう。六本木はイポスの勢力圏であり、まさしくこの大歓楽街こそが、イポスの本拠地なのだ。初台の端末情報によれば、売春によって収益を上げており、それがバール教団の資金源になっているという。渋谷と違い、ここは大破壊前とあまり変わっていないようだ。

街は、噂通りとても活気に満ちていた。むせ返るような熱気である。猥雑だが、それゆえに人々を惹きつけるのだともいえる。ここには、刹那的な快楽を満たすためのありとあらゆるものが存在している。見たこともないほど大きくて広い酒場。それに、娼婦の数がとても多い。しかも、人間ばかりか悪魔の娼婦もいて、むしろそちらのほうが人気らしい。また、肩身の狭い思いをしなくていいため、悪魔人も大勢いる。彼らは、他のところでは石を投げられたり、ひどいと殺されたりもするのだ。

ここは、イポスが生み出した幻の楽園である。この悪魔は、金儲けと娯楽のためならどんな非道なことも平気でするという。少年や幼女、はてはレプリカントまでが「商品」とされているとか。

葛城たちも1,000〜1,500マッカほどの金を支払えば、悪魔の娼婦たちからたまさかの快楽を得ることができる。その代わり、必ずマグネタイトを吸われるほか、場合によっては呪われたり、HPが半分になることも。また、属性が次第にCHAOS寄りに傾く。

とくに、人気のジョセフィーヌと遊ぶと一気に属性がCHAOS化する。1万マッカもふんだくられたうえにこれである。快楽の代償は安くない、ということか。ただ、ジョセフィーヌはいつでも相手してくれるわけではない。これまで月齢が影響するとされてきたが、最近の研究によれば、ランダムの可能性が高いという。ちなみに、このジョセフィーヌは、ナーギーの眷属のようだ。ナーギーは容姿端麗だとされているから、絶品と評されるのもわからないではない。

2Fには泉があり、HPを回復できる。遊び疲れた体を、リフレッシュしてくれるわけだ。何とも至れり尽くせりである。泉にはお姉さんが2人いて、その会話はとってもユーモラス。武器を放り込んだりして、いろいろからかってあげよう。

なお、1Fには満月の時だけ開業する薬屋があり、道反玉やソーマを販売している。機会があれば寄ってみるといい。

さて、本当に用があるのは、歓楽街の奥だ。イポスは、由宇香を喰らった悪魔のひとり。こいつから何としても由宇香のパーツを取り返すのだ。聞くところによると、悪魔がうじゃうじゃいるうえ、罠まで仕掛けてあるという。間違って入ったならすぐに引き返さないと生きては帰れないだろう、と警告されるが、それで引き下がる葛城たちではない。

2F。護衛の悪魔たちが蠢くエリアに足を踏み入れる。ここでは、ANSが当てにならない。ないはずの壁があり、あるはずの壁がない。間違った道を進むと、ダメージゾーンで痛い目にあう。AMSをよくチェックしよう。夜魔リリムと妖獣ヌエが出現する。

3F。幽鬼ヴェータラ、幽鬼マンイーターなどが出現。ここにもダメージゾーンがある。蜂蜜ケーキ×12と聖酒菊娘を拾える。4F。降天使オロバス、幽鬼グーラーなどがいる。シュートがあって、落ちるとまたトラップだらけの2Fからやり直すハメになる。そこで、3Fに上がる前に、悪魔どもを一匹残らず片付けておくべきだろう。そうすれば再度出現することがないので、やり直す場合でも少しは楽に進める。

4Fの転送装置でβを選び、奥の転送装置へ。回復ポイントがある。なお、αを選択すると、黄金の宝箱がある場所に飛ぶ。中身はクリスタル。ただし、迷宮をのぼり直さないといけない。5F。鬼女ラミアや妖魔エロスが出現。爆破トラップの仕掛けられた宝箱を開けると、コアシールドをゲットできる。

5Fにあるもっとも広い部屋。いかにも、というこの場所に、大歓楽街の支配者、堕天使イポスはいる。侵入者の存在には気づいていたようで、いきなり部屋に入ってきた葛城たちを見ても、慌てた様子はない。「ガキにやられるとは、我が下僕どもも腰抜けがそろったものだ!」。人間ごときが自分をどうこうできるはずがないという、絶対の自信に満ちた口調である。

イポスは、葛城の顔に見覚えがあった。だが、奴の記憶の中にある葛城は、哀れな、虫けらのような少年にすぎなかった。その少年がここに現れた意味を、つかみあぐねているようだ。何のためにやってきたのか、と訊ねてくる。もちろん、お前を斃すためだ!

「人間とはよく分からぬ生きものよのう。せっかく生き長らえたというのに、復讐などのために命を無駄にするとは」。魂まで喰らってあの世で後悔することもできないようにしてやる、といってイポスは襲いかかってきた。

コラム:イポス

イポスは、ソロモン王によって封印された72柱の魔神のひとりで、愚者の貴公子の異名がある。36個軍団を率いる伯爵であり、強力な王子でもあるという。獅子の頭、ガチョウの足に、ウサギの牙ないし尾をした天使の姿で表される。過去・現在・未来のあらゆることを知り、人間を勇気と機転あるものに変える力をもっているという。また、物事を何でも戦闘で解決しようとし、その気分は周りにいる人をも巻き込んでしまうとされている。

とくにこの攻撃が恐ろしい、というものはないが、攻撃力・魔力・体力がバランスよく高いので、侮れない相手だ。巨大な牙による攻撃は、しっかりした装備がないとダメージが大きい。また、マハジオンガを操るほか、パニックボイスや呪いの言葉で、パーティーを混乱や恐慌に陥れようとする。さらに、デカジャとスクンダでこちらの戦力ダウンを狙ってくることも。

衝撃・電撃系の攻撃は無効化されてしまうため、風塵剣と雷迅剣は通用しない。氷狼剣を使おう。結局のところ、補助魔法の助けを借りて、ひたすら剣と銃で攻撃するオーソドックスな戦術が一番有効である。

イポスを斃すと、その死体はぐずぐずと崩れ始め、周囲に流れ出す。そして、白く輝く由宇香の右足が姿を現す。これさえ取り返せば、もうここに用はない。部屋を出る。5Fの転送装置から3Fへ飛び、金丹×3と道反玉×3を入手。さらに、再転送で1Fへ。

主を失った歓楽街は閑散としてしまった。娼婦たちからは、なんてことしてくれたんだ、と怒られてしまう。彼女たちにとっては割のいい商売だったらしい。管理されていて安全なうえ、金も生体マグネタイトも一挙に得られたのだから、たしかにそうかもしれない。酒場もがらがら。

ところで、この展開、わかるようで実はよくわからなかったりする。イポスが斃れたとはいえ、人間の欲望がなくなるわけじゃなし、一気に寂れるなんてことがあるだろうか。たしかに、後ろ盾をなくしたことで、他の勢力に潰されるおそれもないとはいえない。しかし、渋谷の天使は動かないし、ペンタグランマも壊滅している。ほかの大物悪魔が乗り込んでくるとしても、この「おいしい」場所をそのまま残そうとするはず。ここがバール教団の資金源になっているのであれば、教団が直接管理するといったストーリーにしてもよかったのではないだろうか。

廃墟を統べる水の王

ここから先、どう進むべきか。行けるところはだいたい行き尽くしたし、上野方面はまだ通行不能。偽典はヒントが少ないので、ここらへんで行き詰まり、暗澹たる気持ちになるかもしれない。

いくら地上を歩き回っても答えは見つからない。なぜなら、目指すべき場所は地下にあるからだ。銀座地下街で得た、無人の電車が新橋駅から品川のほうに連れて行ってくれるという情報。その幽霊列車が走るのは、「真っ暗な夜」。それはきっと、月の出ない晩を指しているのだろう。そして、地下の方から聞こえてくる、大破壊前の電車が走るような音。ふつうの駅では、電車など走っていない。ということは……。

新月、つまり月齢が1になったら、旧新橋駅へ。ニュートンの残骸を拾ったところだ。しばらく待っていると、ゴォーッという音とともに、ホームに電車が入って来るではないか。乗り込むと扉が閉まり、発車する。中はまったくの無人で、乗客はおろか、車掌や運転手さえもいない。これがいわゆる幽霊列車というやつらしい。ドアの上にあるパネルに表示が出ており、どこかに向かっていることだけはわかる。

列車が停まった。駅に着いたようだ。外の掲示を見ると、品川水族館駅と読める。噂通り、品川まで運ばれてきたわけだ。だが、扉は開かない。ふと運転席のほうを振り返ると、悪霊レギオンがこちらへ迫ってきている! ほんとに幽霊列車だったのか……と感心している場合ではない。戦闘に。レギオンを撃退すると、扉が開く。

そこは、品川水族館駅のB2F。悪霊たくろうび、それに悪霊エンティティーがいる。また、B1Fには悪霊ポルターガイストと悪霊・地縛霊が出現。悪霊だらけなのは、水族館で亡くなった人々の霊が成仏しきれていないためだろう。核爆発の際の放射線にやられたか、それとも侵入してきた悪魔に喰われたのかもしれない。そして、その霊がまた別の霊を招き寄せるのだ。

1Fへ。悪霊レムルースと悪霊・色情因縁霊が徘徊するエリアを抜けると、水族館の建物の中に入ったようだ。最初の扉をくぐると、そこにいたのは泪だった。しかし、声をかける間もなく泪は、逃げるように走り去ってしまう。

大破壊前はきれいだったという水族館だが、いまでは悪魔に支配されてしまっている。1F。妖魔エロス、魔獣ケルピーなど、出現する悪魔のランクは中級だが、数が多いと少々やっかいだ。会話で戦闘を避けるのもひとつの手。とくに、エロスは神弓を装備している。武器として強力だし、売却価格も高い。仲魔にしたほうが得だろう。なお、このフロアではプチダゴンを入手できる。

いったん階段でB1Fへ下り、さらに探索。案外広い。運の香を入手できる宝箱があるが、毒ガスのトラップが仕掛けられている。また、精霊ウンディーネのDDSデータをダウンロードできる端末がある。合体用の素材として貴重なので、ぜひ立ち寄ろう。あと、回復ポイントもある。出現する悪魔は、邪龍ジャバウォーク、竜王ナーギー、邪鬼オーガ、悪霊ファントムといったところ。ファントムのポゼッション攻撃には注意。憑依の治療は、容易ではないので。

B1Fのとあるエリアで、4つの上り階段が見つかる。ひとつは、一方通行の扉を抜けて、もとのエリアに戻るもの。別のひとつは、帰り道につながるもの。そして、残りのふたつが、正しいルートになる。階段をのぼった先の1Fでは、非常に広い部屋がANSに映っているはずだ。入ってくださいといわんばかりである。

中は広いプールになっていて、そこにこの水族館の主である、降天使ヴェパルがいた。人魚の姿をした女性の悪魔である。ヴェパルの話しぶりからすると、どうやらバエルの配下ではなく、独立勢力であるらしい。だが、その居城に無断で立ち入り、眷属の者を手にかけた葛城たちを、無事に返してくれるつもりはないようだった。背後の扉は魔法で閉じられ、逃げられなくなる。「そなたを喰らって力を得れば、バエルどもにも引けはとらぬわ。大人しくわらわにその身を捧げるのじゃ!」。戦闘になる。

コラム:ヴェパル

ヴェパルは、ソロモン王に封印された72柱の魔神のひとりで、海洋公と称される、偉大にして強力な公爵である。29個軍団を指揮する。長い髪に海草をからませ、銀に縁取られたエメラルドの鱗をもった人魚の姿をしているが、美しい人間の女性に変身することもできる。水に棲む者たちの守護神で、海では万能に近い力を発揮する。たとえば、嵐を起こして船を沈めたり、逆にたくさんの船を出現させたりすることができる。また、視界を悪くしたり、幻覚を起こしたり、人を溺れさせたりもできる。

さらに、睨むだけで相手に傷を負わせることができ、その傷口を腐らせ蛆をたからせて、3日で死に追いやる力があるという。この化膿し爛れた傷は、破傷風によるものだという説がある。また、この傷は悪魔祓いによってしか癒すことができないともいうが、定かではない。

アクアカッターや水の壁など水系統の特殊能力を操るほか、ドルミナーやマリンカリンの魔法も唱えてくるが、さして強くはない。体力もそれほどではない。仲魔の助けもいらないだろう。ただし、火炎系と衝撃系の攻撃は効かないので、雷迅剣あたりを使おう。

やけにあっさりと斃せたとおもったら、ヴェパルは真の姿を現す。この姿を見せるのは葛城が初めてだそうで、なんとも光栄なことだ。変身後の姿は、半魚人に近い。鱗は硬度を増し、鉤爪は鋭くなった。能力が全体的に向上し、体力もほぼ倍加している。アクアピラーや、トルネードといった技を繰り出してくる。

しかし、何よりも恐ろしいのは、ディアラハンを唱えてくる点だ。これを使われると、それまでに与えたダメージが全部ふいになってしまう。長期戦は必至。補助魔法があるかどうかで戦局はかなり変わってくるだろう。

激戦の末、ヴェパルは斃れた。しかし、周囲に変化はない。ここではこれ以上何もすることがないようだ。部屋を出て階段を下りる。

出口へと通じる、別の階段へ。ところが、その前で、ふたたび泪が姿を現す(このとき葛城が瀕死だと、泪の体からまばゆい光が発せられ、復活する)。が、泪の様子がどうもおかしい。葛城を見つめるその瞳の奥には、濃い影が見える。彼女は突然、謎めいた問いを投げかけてくる。「かつての恋人と私のどっちをとるの?」。瞳の奥の影は、いよいよ濃さを増していく。「私は恋人の代わり? 寂しいから私を受け入れるの?」。ここでの答え方によって、あとの展開に影響する(第12章参照)。「私を見て、駄目、私から逃げて……」。何をそんなに苦しんでいるのか。葛城が聞き出す間もなく、泪は走り去った。

階段をのぼり、近道を通って、品川水族館駅のB2Fへ戻る。列車はまだそのままの状態で停車していた。乗り込むと再び走り出す。今度は来たのと反対の方向に進みだし、旧新橋駅に帰れる。それにしても、幽霊列車ならレギオンを斃した時点で活動を停止するはずなのだが。荒廃した地上から電力が供給されているはずもなく、自動制御という線もありえない。まったく未知の力で動いているのか……。

これ以後も、新月の時は列車に乗って品川水族館に行ける。中は、水妖アズミや水妖イヒカなどの水棲悪魔ばかりが出現するようになっている。おそらく、ウンディーネを得るためだけにここへ来ることになるだろう。

バール教団の策謀

銀座地下街へ戻ってくると、バール教団支部が放棄されたとの噂を耳にする。実際に行ってみると、警護の兵士とロボットは相変わらずいるものの、部屋はもぬけの殻だ。支部を放棄するということは、何らかの重大な決定があったことを意味しているはず。だが、裏の動きはまったく見えてこない。

この時点で、上野方面にあった瓦礫の山はなくなっている。そこで、まずは秋葉原から一番近くにあるアメ屋プラザを訪ねてみよう。

アメ屋プラザは2階建ての建物で、中は居住区になっており、悪魔の出現しない安全なエリアだ。施設も整っている。ただ、建物の構造はなかなか複雑。どの階段が2Fのどこにつながっているのか、しっかり把握しておかないと混乱するだろう。

1Fには、各店舗と病院がある。ここの病院は、残念ながら悪魔は看てくれない。道具屋と薬屋には見るべきものがない。なお、AMSをよーくチェックすると、アメジストが入った宝箱が見つかる。

一方、危険地帯といわれている上野に店を構えているだけあって、武器・防具屋ともに品揃えは一流である。武器屋で一番のおすすめは、デビルバッシャー。使い勝手も考慮すれば、購入できる銃の中ではたぶん最強だろう。これにSS劣化ウラン弾を装填できれば、なかなかの贅沢といえる。この弾丸、もともと重量を増やすために芯に劣化ウランを使っているのだが、放射線を出すため、「猛毒」の追加効果を発揮する。あと、5.56mm弾をばらまくM249ミニミや、烏刃丸などの刀剣類もチェックしておこう。防具屋では、葛城にフォースジャケット、ニュートンに白銀の鱗を買って装備させるのがいい。

2F。いくつかのエリアに分かれている。回復ポイントが利用できる。物夫の香のほか、イヒカの黒焼き×6を拾える。このアイテム、HPとMPをわずかながら回復するというもので、ほとんど使い道はない。それから、泉がある。その効果は、投げ入れた武器を金塊?に変えてしまうという恐ろしいもの。金塊?は、たったの5マッカでしか売れないのだ。そして、2Fのダークゾーン奥では、怪しげな薬屋が営業している。リジェネレイト7や宝玉が販売されているので、1Fの薬屋よりは格段にマシである。

住民たちの話によれば、バール教団が人間を生贄に捧げ、血の儀式を行っているらしい。上野はいま、バール教徒に乗っ取られた状態で、いつ自分たちが生贄にされるのか、とみんな戦々恐々としている。親たちは子供を外で遊ばせないようにしているほどだ。また、悪魔の怖さを身近に感じているせいだろう、悪魔と共存しようとかいった声は聞かれない。

ここで注意すべきなのは、バール教団は付近の住民をさらっているわけではない、ということ。毎回どこからか生贄を連れてきているのだ。それがどこなのか、というのがひとつのポイントである。

アメ屋プラザを出て北上すると、すぐにバール教総本山にたどり着く。敵地のど真ん中であり、たいへん危険な場所だが、バエルが潜伏しているという情報もある。行かないわけにはいかないだろう。

中には護衛の兵士たちが数多くいる。それもバエル信者タランテラやクラレといった上級兵である(余談だが、タランテラは毒蜘蛛、クラレは猛毒の名称。自分たちの力を誇示するためにそう名乗っているのだろう)。彼らとは一戦交えることになるかもしれない。道を塞いで通してくれない場合は。

だが、部屋にいる兵士たちは襲ってこない。バエルの勅命で葛城と戦うことを禁止されているのだ。イシュタルの肉体を集めさせるためだということらしかったが、不思議である。銀座ではあれだけの兵力を投入して、葛城を殺そうとしたのではなかったか(第6章3節参照)。

罵詈雑言を浴びせられるばかりで、有用な情報はまったく得られない。たとえば、イシュタルの転生体の肉を集めたところで必ずもとに戻るとは限らない、とか、頭部はバエルが持っているので無駄なあがきだ、とか、葛城の力はバエルの足元にも及ばず、バルベリスにもかなわないだろう、とか好き放題言ってくれる。お前と話すことなどない、と追い出されるパターンも多い。ただひとつ、イシュタルが過去においてバエルの妻だった、という情報は気になる。これは真実なのか、それとも教団内でそう語られているだけなのか。

最上階(5F)には、兵士たちの頭領らしき男がいる。だが、バエルの姿はない。男の話では、バエルはすでに新宿に移ったという。いったい奴の狙いは何なのか。とにかく、ここにいても進展はない。別の場所を探索しなければならないようだ。

生贄の儀式

次のターゲットは、生贄を集めているという上野神殿である。バール教総本山とは目と鼻の先にあり、簡単に見つかるだろう。

まず、1Fにある怪しい小部屋をあたってみよう。牢に捕まっている人が3人ばかり見つかる。彼らの話を信じれば、ミレニアムの上位者であるという。上位者といえば、強力な結界に守られた上層エリアで、マイトレーヤの側近く仕えて暮らすことを許されたエリートたちのはず。だが、彼らは自室で突然悪魔もしくはバール兵に襲われ、気がついたらここに閉じこめられていたのだとか。その話を聞いて思い出されるのは、ミレニアム4Fでの出来事だ(第6章5節参照)。あのとき、葛城のANSはたしかに悪魔の生体反応を捉えていた……。

彼らは助けを求めてくるが、どうするかはプレイヤー次第。3人とも助けると、属性がLIGHTに傾く。逆に「助けない」を3回繰返すと、属性がCHAOSに傾く。解放された信者たちはミレニアムに戻っていく。それにしても、彼らの取り乱し具合。精神の修練を積んだ人間のようにはとても見えないが。

ここからが探索の本当のスタート。しかし、一筋縄ではいかない。上野神殿は広大な迷宮になっているのだ。正しい道を探すのは困難を極める。これまでのダンジョンの中でも、最悪の部類に入るだろう。まずは、1Fで、鬼女ラミアと地霊レーシーがうんざりするほどうろついている道を抜けて階段をのぼるのが、ゴールに近づく第一歩である。

ちなみに、落とし穴で地下(B1F)に落ちると、アイテムボックスからブルージルを入手できる。が、ダメージゾーンと悪魔ども(妖獣ガルムと邪龍コカトリス)の歓迎を受けることに。ただ、泉があり、水の色こそ毒々しいものの、飲めばHPが回復する。

2F。これ以降、進み方を誤ると、場合によっては最初からやり直しになるので慎重に道を選ぼう。このフロアでは、魔石×5と6,666マッカを拾える。上り階段が2つあり、西の階段が正解のルートである。なお、東の階段をのぼった場合、3Fの宝箱(毒針のトラップあり)から、八戒山が見つかる。そこから2Fに降り、転送機で転送されて3Fへ。1Fにつながるエレベータが設置されている。それを2Fで降りて落とし穴にうまく落ちると、1Fで時だましの香×3を入手できる。

西の階段から3Fへ。転送機が2台設置されている。ここでも、西側の転送機を利用するのが正解だ。では、東側の転送機を利用するとどうなるのかというと、同じ2Fの、別の部屋へ転送される。階段をのぼった先は、前述の、毒針トラップのある宝箱の部屋。かといって、転送機で戻ろうとしても、3Fのエレベータのある部屋へ飛ばされてしまうのだ。

西側の転送機から、おなじ2Fの別のフロアへ。先へ進むと、ワープゾーンが3ヶ所もある。これは、北東のワープゾーンが正解。あとのワープゾーンを選んでしまうと、堂々巡りになる。正解のワープゾーンから、3Fへ。またもやワープゾーンが2ヶ所。奥のワープゾーンを選ぶのが正しい。なお、2F〜3Fで出現する悪魔は、邪鬼・牛鬼、外道ダークネス、妖獣ガルムに幽鬼ノスフェラトゥである。

階段をのぼって4Fへ出ると、そこはだだっ広いホールのようなところだった。悪魔こそ出ないものの、動く床によって勝手に移動させられてしまう厄介なところだ。どこが起点でどこが終点なのか、前へ進むのかそれとも横へ移動するのか、事前に予測することはできない。実際に足を踏み出して確かめてみるしかないのだ。ここは闇雲に動くのではなく、AMSを見ながら、まだ行っていない場所に足を踏み出していくようにすれば、きっと道は開ける。ちなみに、4,999マッカをゲットできるポイントがある。

5F。ここが最上階だ。ターミナル回線とリンクした端末があり、セーブが可能。フロアの一部にコンピュータが使用不能になるエリアがある。邪鬼ラクシャーサや降天使ヴァピュラどもを蹴散らして、中央の広間へ。

上野神殿を支配するのは、バエル直属の部下である魔王バルベリスだ。こいつの命令で多くの生贄が犠牲になっているのである。一行が部屋に踏み込むと、バルベリスは不敵な笑みを浮かべて待ちかまえていた。「少しは骨のある奴と、戦いたいと思っていた。無力な生贄どものあがきを見るのも、少々飽きてきたところだ」。そう言ってバルベリスは魔剣を構えた。バルベリスが望むのは、戦いの果てに響く断末魔の叫びと、飛び散る血と肉である。「安心するがいい。たとえ息絶えようとも、貴様の血と肉は我が力となり、私と共に永遠に生きるのだからな!」

コラム:バルベリス

バルベリスは、地獄の公文書館館長ないしは条約庁長官で、さまざまな記録や、悪魔と人間との間で交わされた契約書を管理している。かつては天界の智天使であった(その長だったという説もある)。馬に乗り、王冠をかぶった姿で表される。人間を殺人、諍い、論争、冒涜などに導くとされる。ソロモン王に封印された72柱の魔神のひとり、ベリスと本質的に同一ゆえ、姿形や性格が似通っているようだ。

もともとはバール・ベリトと呼ばれ、フェニキア人の契約の神であった。ベリトには「契約」という意味があるそうだ。その起源はシケム市の土着神で、その神殿には2枚の契約の石版が祭られていたという。この石版はバビロニアの「天命のタブレット」とも結びつきがあるようだ。詳細は、生体エナジー協会内の『悪魔全書』を参照していただきたい。

魔界で鍛造された甲冑に身を包んでおり、防御力はかなり高い。また、攻撃魔法の効果も軒並み半減する。当然体力もかなりのもの。長期戦を覚悟しておこう。必殺の剣撃は、さすがに威力がある。また、バッドドライヴやサイコブラストも繰り出してくるが、こちらはたいして怖くない。魔法剣の追加効果と補助魔法に期待するのはいつも通り。ボスは地道に攻撃するしかないのだ。ただし、デカジャを唱えてくる場合がある。

死闘の末、斃れたバルベリス。ところが奴は、「地の底で朽ちるがいい!」と叫ぶや、最後の力を振り絞って呪文を唱えた。その途端、葛城たちは身体が宙に浮くような感覚を味わった。だが、それは一瞬のことにすぎなかった。奈落の底へと落下しはじめた葛城たちは、意識を失ってしまう。

目覚めると、そこは薄暗い通路のようなところで、重苦しく澱んだ空気が漂っていた。どうやら地下に叩き落とされたらしい。幸い葛城に怪我はなく、ニュートンも無事だったが、相馬がいなくなっている。

通路の突き当たりには部屋があり、その中央には、生贄を捧げるための祭壇がしつらえられていた。ここで儀式が行われるらしい。おびただしい数の、血を抜き取られた死体がうずたかく積み上げられ、耐え難い死臭が満ちみちていた。一刻も早く立ち去りたい場所だ。相馬も見つからなかったので、部屋を出る。

通路を反対側に少し進むと、瀕死の男が倒れているのを発見する。服装から見て、この男もミレニアムの上位者だったのだろう。そこへ、向こうから誰かやってくる気配。相馬だった。大丈夫そうな様子なので、一安心である。

相馬が男を手当てしてやると、男はかろうじて目を動かし、葛城たちを見た。苦しい息の下から、ミレニアムには気をつけろ、といい、49702という謎の数字を口にする。

あたりを調べるため、相馬はその場を離れる。葛城が、代わりに男を介抱してやる(属性がLAWに大きく傾く)が、男にはもはや声を出す力も残されていないようだった。かすれた声の中から苦労して聞き取れたのは、「ミレニアム」や「鏡」という言葉の断片だけ。男はついに力尽き、息絶える。

戻ってきた相馬は、向こうの部屋に落ちていたという魔法の宝玉で、パーティーを全快させてくれる。その部屋にもまた祭壇があり、葛城がさっき入った部屋と対になっているらしい。相馬が調べた範囲では、ほかに生き残りはいなかったとのことだった。

ふたつの部屋をつなぐ道の真ん中には分岐点があり、そこを右に折れて進む。扉を抜けると、頑丈そうな鉄格子が下ろされていて、行く手を遮っている。近くの壁に埋め込まれたスイッチを押せば開きそうだ。鉄格子の向こうには、一体の凶暴そうなドラゴンが見える。とはいえ、ここを抜ければ出口のはず。葛城たちにためらいはない。

スイッチを押すと鉄格子は上に引っ込み、通れるようになる。待ちかまえていた邪龍ピュトンと戦闘。だが、バルベリスすら斃した葛城たちにとってはザコ同然だ。さらに先へ進み、出口らしきところから1Fへ。神殿の入口付近に出た。ここで、相馬が思い詰めた顔をして葛城に話しかけてくる。

先刻、ほかに捕まった人がいないか捜しに行ったとき、昔生き別れになったキョウコという知り合いの消息の手がかりを見つけたのだという。早く行かないと、捜すのがさらに難しくなり、二度と会えなくなってしまうかもしれない。相馬は、パーティーを離れる決心をしていた。

彼が抜けることの戦力ダウンは計り知れない。これから先強大な悪魔を相手に渡り合っていくにあたって、生き残れるかどうかにも影響してくるだろう。それに、短い期間とはいえ、苦楽をともにしてきた仲間と別れるのは、辛いことだ。

だが、相馬もそんなことは承知している。承知していればこそ、心苦しく思いながらも、葛城に謝り、頼み込んでいるのだ。相馬には、もう十分すぎるくらい、自分の目的を手伝ってもらった。これ以上彼を縛りつけておくことはできない。それぞれの道を歩むときが来たのだ。

相馬の申し出を承諾する。いつか再び出会えて、そのときまだ葛城の旅が終わっていなかったときは、必ず手伝うと約束してくれた。そして、「ごめんな、葛城」という言葉を残して、相馬は去っていった。

入れ違いに、ひとりの女性が入ってくる。泪である。泪は、またもや謎めいた質問を投げかけてくる。「私のことが好き?」。「私を殺せる?」。「私のために死ねる?」。彼女の真意はまったくつかめない。そして、泪は入ってきたときと同じく突然去ってしまうのだった。

さて、旅を続けよう。また連れはニュートンだけになってしまった。上野神殿を出てすぐのところで、誰かとぶつかりそうになる。以前早坂の服を売りつけようとした、あのジャンク屋だ(第6章2節参照)。男は例によってゴミを漁っていて、瓦礫を掻き分けては、めぼしいものを背負い袋に放り込んでいる。

男がいうには、このあたりはなぜか服が捨てられていることが多いので、それを集めているのだという。「ゴミも片付くし、何たってリサイクルだ」。いつもの言い訳である。ここでは、バール兵のマントや、ミレニアムのガーディアンの服を拾ったようだ。そして男は、秋葉原に店を構えたことを告げ、袋を背負い直すと、さっさとその場を立ち去った。

今回はここまで。続きは次回。

コラム:ダイヤモンドの騎士

バルベリスの呪文によって墜落するシーンで、ピンときた方もいらっしゃるかもしれない。この展開はおそらく、WizardryのシナリオII、『ダイヤモンドの騎士』へのオマージュになっている。Wizardryというのは、コンピュータRPGの金字塔と呼ばれる古典的名作で、日本でもパソコンや家庭用ゲーム機に移植され、他のRPGに多大な影響を及ぼしたゲームである。

リルガミンの王女マルグダと弟のアラビク王子が、王位を簒奪した魔人ダバルプスに挑戦し、ダイヤモンドの騎士となったアラビクの聖剣ハースニールが、魔人の首を切り落としたときのこと。ダバルプスは最後の力を振り絞って、呪いの言葉を発した。戦いの舞台となったリルガミン城は崩壊し、そこに口を開けた呪いの穴がアラビクと、そして精霊神ニルダの杖をも呑み込んだ。そして、街を守護するその杖を取り戻すべく、冒険者たちによる呪いの穴の探索が始まった……。

Wizardryの影響力の大きさからいって、制作者の人たちがこのストーリーを知らなかったとは考えにくい。ひょっとすると、鈴木大司教もApple II版にハマったクチかも。こうした、物語中のちょっとしたお遊びを見つけるのも、偽典をプレイする楽しみのひとつだといえよう。


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