主人公の
「適性」テストといっても、実体はたんなる性格診断である。デビルバスターになったあと、どんな任務に向いているかを調べるのが目的のようだ。だから、この結果によって申請を却下されたり、試験の合否に影響したりすることはない。テストは、画面に表示される質問に対して選択肢を選ぶことによって行われる。内容は、抽象的なイメージの解釈を問うものや、特定の場面でデビルバスターとしてどう行動するかなど、さまざま。診断結果はすぐに表示され、理性的/神秘的/正しい分析能力があるなどのプラス面と、独善的/優柔不断/思慮が足りないといったマイナス面の両方を指摘してくれる。
テストが終わったら、自室を出よう。同じフロアに、
そろそろ通知が届いているはずだが、と西野が言う。自室に戻って端末を見ると、たしかに入隊試験通知が届いている。申請は許可された。今度はそのことを西野や由宇香らに伝えにいく。試験は明日だ。それに備えて休息をとることにする。ここまでが第1日目。なお、休息時には必ずセーブされることになっている。
翌日。入隊試験が始まる。まずはペーパー試験から。試験は4部に分かれ、第一部は悪魔分類学。生体マグネタイト、属性、悪魔との交渉などの基礎知識が問われる。第二部は対悪魔戦術学魔法編。敵悪魔や自分が用いる魔法・特殊能力についての知識が問われる。第三部は対悪魔戦術学物理攻撃編。悪魔と武器をまじえて戦うときの知識が問われる。第四部は対悪魔会話戦術。読んで字のごとく、悪魔との具体的な交渉術について問われる。悪魔との交渉もまた戦いなのだ。
問題数は25問。配点は50点満点。コンピュータにより採点は瞬時に行われる。ところでこの試験、個人差もあるだろうがゲームを始めてすぐの段階では、かなり難しいと思われる。腕に覚えのあるメガテニストでも相当苦戦するようだ。しかも、わざと難しく作っているフシがある。一種のファンサービスということだろうか。
次は実技試験。試験官の指示に従い、B8Fの一室へ。中に入ると、目の前に大仰なマシンが鎮座している。これこそは、シェルターが誇るバーチャダンジョン・システムであり、仮想空間で実戦さながらの経験を積むことができるようになっているのだ。
ふたり一組でバーチャダンジョンへ。葛城のパートナーは由宇香。まあ、お約束だ。ポッドに乗り込んだらシートに座って身体を固定し、ヘッドギアをかぶってスタート。ふたりは、見知らぬ建物の中にいる。デビルバスターとして、最小限の装備が与えられている。しばらく歩くと悪魔たちが徘徊しているのを発見。これらを斃しつつ、目的地にたどり着かなければならないのだが、その目的地も自分たちで見つけ出す必要がある。
時間制限はないので、最初は戦闘に慣れるためゆっくり進み、多少レベルアップしてから本格的な探索を始めるのがセオリー。接近戦よりも遠距離から攻撃するほうが無難。途中から敵がいきなり強くなる。近距離から魔法を喰らうと即死なので、先制攻撃あるのみ。全滅、つまりふたりとも死んでしまうと、声が聞こえてきて、さらに続けるか、もうやめるか尋ねてくる。やめようとすると由宇香に止められるので、続けるしかない。なお、一回全滅するごとに10点減点される。
ある場所までくると、遠くからものすごい爆発音が聞こえてくる。さらに進むと、デビルバスター第2部隊のメンバー、
部屋にはボスのポイズンドラゴンがいる。かなり高レベルの悪魔らしい。だが、西野隊長らが応援に駆けつけてくれるまで、4人でもちこたえるしかない。しかし、全員で攻撃してもダメージを与えられない。暴走の影響で、各種パラメータも異常になっているようだ。
4人が攻めあぐねていると、西野から通信が入り、到着を知らせてくる。いったん部屋から撤退。扉の外には、西野隊長と、もうひとりの第2部隊のメンバー、
ここで、真のオープニングが流れる。スタッフロールとともに、以後のストーリーで重要な役割をはたすことになる、いろいろなキャラクターのグラフィックが出る。スタッフ名はアルファベット表記されているので読みづらいが、よくよく見ると、
ストーリー再開。試験が実施された部屋の外へ出ると、第2部隊のメンバーが勢ぞろいしていた。あらためてメンバーの自己紹介が行われる。これまでに登場した面々なのでいまさらという感じもするが、制作者側としては、それぞれのキャラクターの性格を印象づけたいと考えたのだろう。ただ、英美のコンパニオンアニマル(ペットではない)、ニュートンとはここで初めて顔を合わせる。サイボーグに見えるが、人工知能搭載の完全なロボットだ。
さて、本来試験が中断してしまうと後日再試験ということになるのだが、葛城と由宇香は勇敢に戦ったので、その旨西野から管理部へ報告してくれるとのこと。再試験は受けずに済みそうだ。
その後、由宇香とともに同じフロアにある控え室で待たされる。試験官の注意があって、呼び出しがあるまで部屋を出るな、と言い渡される。不安と緊張。周囲の人間があれこれぼやく。呼び出しの時間が近づいてくると、みんな黙りこくってしまう。由宇香が声を潜めて話しかけてきて、不安を口にする。優しい言葉をかけてあげるか、それとも突き放した物言いをするか――プレイヤーの選択次第だ。
順番に名前が呼ばれていく。ちなみに、ここで登場する受験番号0818の富田安子という女性、偽典の製作スタッフだとか。それはさておき。葛城よりも先に由宇香の番が回ってきた。彼女は部屋を出ていく。
葛城ひとりになってしまった。部屋はしーんと静まり返っている。そのとき、外で突然爆発音が! さあどうする。部屋を出るなという指示を破れば点数に響くかも。だが、放っておいていいものかどうか。ここでは部屋を飛び出すことにする。
部屋の外には作業員のおやじがひとり。爆発音は武器庫のほうから聞こえたという。いっしょに武器庫へ向かう。扉の前まで来ると、おやじは尻込みし、俺には妻子がいるからひとりで入ってくれ、などと言い出す。何かあったらすぐに大声で俺を呼べ、と無責任極まりない。
しかたなくひとりで中へ。作業員が武器庫の管理人を人質に取っていた。床にデビルバスターが負傷して倒れている。気をつけろ、そいつは悪魔に憑依されている、とそのデビルバスターは苦しげな息の下から声を絞り出す。かなりヤバい状況だ。考えられる選択肢はいろいろある。逃げるか、助けを呼ぶか、それともまずはしばらく様子をうかがうか……。
様子をうかがうのが正解。とはいえ、悪魔に憑依されたという犯人には隙がない。人質は怯えきっているし、周囲の武器を取ろうとすれば、人質の首筋に当てられたナイフが喉笛を掻き切ることになる。ふとデビルバスターのほうを見ると、犯人の死角に銃が落ちている。これを拾えれば……。そのためにはまず、犯人の注意を逸らさなければ。犯人の要求を聞くフリをして、一瞬の隙に乗じて銃を拾った――はずが失敗。そのとき、そこまで、と声がかかる。
背後から試験官が現れた。実は、これも実技試験の一環だという。すべては、演技だったのだ。瀕死の重傷を負っていたはずのデビルバスターが、何事もなかったかのように立ち上がる。緊急時にもパニックに陥ることなく、冷静な判断を下せるかどうかを見るものだったそうだ。
このイベントには謎が多い。試験の趣旨からすれば、武器庫内で軽率な行動をとっていれば減点されそうなものだが、研究によると、加点対象にはなっても、減点はされないようなのだ。また、加点についてもそれがどの程度のものなのか、まだわかっていない。
しかも、部屋に待機したままでも点数に影響しないという。試験官の指示に従っただけといえばそれまでだが、緊急事態に際して自分の頭で状況を判断し、迅速かつ的確な行動がとれない人間が、デビルバスターにふさわしいといえるだろうか。少なくともこの部分は減点扱いにすべきではなかったか。
謎はもうひとつある。それは、銃を拾うのに成功し、犯人を射撃できるパターンの発生条件である。おそらく、選択肢の選び方によるのだろう。ちなみに、このパターンにはさらに3通りの結果があり、犯人を射殺する場合、人質に命中して死亡させてしまう場合のほか、後方の壁に命中し、激情に駆られた犯人が人質を殺害してしまう場合がある。もちろん、この結果はすべてシミュレーションであり、弾を発射したときの弾道から予測してはじき出されたものだ。
ここで試験は完全に終了。自室へ戻らされる。途中で由宇香の部屋に立ち寄ると、由宇香も同様のテストをさせられていたことがわかる。彼女の場合、呼び出された詰所に入ると、悪魔とデビルバスター隊員とが乱戦になっており、一匹の悪魔が由宇香に襲いかかってきたという。だが、それらはすべて立体映像だったのだ。
自室で結果を待つ。そこへ、由宇香が上気した顔で飛び込んでくる。彼女は合格したようだ。そのとき、管理部から連絡が。合否の通知と、葛城がどの戦闘タイプに属するかの判定が伝えられる。
通常は落第となるはずなので(少なくとも初めてのプレイで合格する確率はかなり低い)、これ以後も落第したことにして話を進める。だが、合格もありうる。筆者の経験では、ペーパー試験が35点以上で、実技試験の途中で全滅することがなく、最後のテストにも冷静な判断を下すことができていれば合格となった。研究によって明らかになったところによると、途中のマイナスも含めてトータル30点以上なら合格できる。その場合、由宇香と一緒に第2部隊に即配属となる。
由宇香が合格し、葛城は落第。ちょっと気まずい雰囲気だ。由宇香から慰めの言葉をかけてもらう。気が進まないながらも結果をみんなに伝えにいくと、同じように慰められる。入隊試験はかなりの難関であり、一度で通ることはなかなかないというのだが、でも、現に由宇香が……。
自室に戻って休息をとる。やはり落第したショックは大きい。なかなか寝付けない。その間にさまざまな思いが胸中を去来する。葛城は幼くして母を亡くし、10歳のとき父も亡くした。デビルバスター第2部隊は父が隊長を務めていた隊だ。当時はまだ結界の技術が発達しておらず、シェルター内に悪魔が侵入することもたびたびあった。そして、ある戦闘で、父は部下を逃がすために、自分の身を犠牲にして殉職した。そのときの隊員のひとりが、西野であった。西野は、ふさぎ込み、自閉的となった葛城を優しさで救ってくれたばかりか、我が子同様に育ててくれた。葛城の父への、せめてもの恩返しと考えたのだろう。西野のおかげで葛城は元気に育っていったが、父の形見であるブルゾンと腕時計は、今でも肌身離さず身につけている。
片親もしくは両親不在というのはメガテンのお約束。悪魔に象徴される『力』が父親の代わりで、ヒロインが母親の代わりだったりする。葛城の脳裏に、由宇香の姿が浮かんだ。管理部のエリートを父にもちながら、家を飛び出し、ひとり一般居住区に住む少女。眠りに落ちる直前まで、彼女のことが葛城の頭から離れなかった……。
近時の研究により、入隊試験は合否を決めるだけでなく、主人公の能力に大きな影響を与えることが明らかになってきた。具体的には、まず、適性検査でどの選択肢を選ぶかによって、主人公の能力値、属性タイプ、潜在的技能値に影響する。次に、実技試験での戦い方により、潜在的技能値が増加する。最後に、潜在的技能値によって、主人公の戦闘タイプが決定されるのだ。
もう少し詳しく述べていこう。上に述べた属性タイプというのは、どちらの属性に傾斜しやすいかというタイプのこと。これから先、葛城の行動次第で属性が変化する場面があるが、たとえば、最初のタイプがLIGHT-LAWよりだった場合、LIGHTやLAWの属性に傾斜する行動を選ぶと属性値が大きく変化し、逆にDARKやCHAOSの属性に傾斜する選択肢を選んでも属性値にあまり影響しなくなるのである。いうまでもなく最初のタイプがDARK-CHAOSよりのときは、その逆になる。
剣技能以外の技能にも潜在的技能値(画面に表示されない技能値)が設定されている。適正検査時の選択肢の選び方によって、他の能力値等と同じく潜在的技能値も影響を受け、1〜3ポイント程度の範囲で値が設定される。適性検査後に何が得意かが表示されるが、おそらくこの数値が影響しているのだろう。
この各技能値は、バーチャダンジョンでの戦闘を通じて上昇する。たとえば、戦闘時に銃を使うと射撃技能の潜在的技能値が、魔法や魔法アイテム(「〜ストーン」など)を使用すると魔導技能の潜在的技能値がそれぞれアップするのだ。そして、入隊試験の結果報告を受けた時点で最高の潜在的技能値に対応した戦闘タイプに確定する。戦闘タイプは『格闘戦』・『射撃戦』・『魔法戦』・『コンピュータ戦』の4タイプ。筆者の経験では、ここで『魔法戦』タイプになっておくと、あとの展開が楽だ。したがって、バーチャダンジョン内では魔法や魔法アイテムを多用すればいいことになる。
さらにいうと、この潜在的技能値うんぬんはあとで登場する覚醒についてもほぼ同じだ。悪魔との戦闘時に銃や弓を多用することで射撃技能に覚醒するし、悪魔と何度も交渉すればコンピュータ技能に覚醒する。ただ、戦闘タイプと覚醒には違いもある。覚醒は、魔道/射撃/コンピュータの3技能に限られ、また、一度覚醒した技能にはもう覚醒しない。一方、戦闘タイプは、同じ技能に覚醒することがあり、この場合は覚醒が無駄になってしまうのだ。だから、主人公に3つの技能を身につけさせたければ、2度の覚醒を経て、それぞれの技能が重複しないように調整する必要がある。
そして、技能に覚醒したあとは、技能値が顕在化するが、この技能値は潜在的技能値とイコールではないものの、潜在的技能値がベースになっている。ただ、剣技能値だけは覚醒に関係なく上昇させることができるようである。あと、覚醒した技能の種類によって、能力値の上がりやすさも異なってくる。たとえば、魔導技能に覚醒すると、精神力と魔力が上がりやすくなるのだ。なお、複数の技能に覚醒するとこの偏りが緩和され、能力値は分散して上昇するようである。オールラウンドの能力をもった葛城ができあがるというわけ。
以上の研究成果は、Webサイト『偽典・女神転生の攻略』において発表されている。具体的なデータもまじえて詳しく解説されているので、一度ご覧になるといいだろう。
次の日、起きると目の前に由宇香がいる。心配になって様子を見に来たのだという。今度いっしょにバーチャルトレーナーでトレーニングしましょう、という彼女の言葉。葛城を元気づけるためのものでもあるが、同時に遠回しなデートのお誘いなのだろう。そうしているうちに、初出勤の時刻が迫ってきた。由宇香はあわてて仕事に出かける。葛城のほうは、フリーなのですることがない。
ここで、端末について少し触れておこう。各部屋に備えられた端末からは、シェルターのメインサーバにアクセスし、そこからシェルター間をつなぐネットワークに接続できるようになっている。メールのやりとりや、フォーラムでの情報交換はシェルター間で活発に行われているようだ。
イベントを進めていくと、葛城にメールが届く場合があり、それを読むことができる。既読メールの再読も可能。ただ、書くほうはほとんど意味がない。こちらが書いた内容に対して返事が返ってくるようにはなっていないからだ。制作過程でボツになったらしい。
〔通常情報〕というコーナーでは、各シェルターが地上を調査した情報の一部が、一般人にも公開されている。つい見逃してしまいがちだが、あとあとの展開を暗示する重要な情報が含まれているので、必ずチェックしよう。この情報がどの場面と絡んでくるのかについては、それぞれの場所で触れたいと思う。〔DB専用情報〕のコーナーもあるが、いまのところアクセスできない。
フォーラムで利用できるのは【ネオフィリック】だけ。ここにNORAとNALYAという人が登場するが、ふたりは偽典の制作スタッフである。ところどころにこうやってスタッフの名前を忍び込ませてあるようだ。さて、内容としては、他愛もないやりとりが羅列されているだけに見えるが、銀座が『宗教のメッカ』と呼ばれていることには注意しておこう(第6章4節参照)。
ちなみに、参加者のひとりがデビルバスターだとバレる場面があるが、実はこれには伏線がある。バール教団の支部が銀座にあるという情報は、〔DB専用情報〕にだけ掲載されている。つまり、デビルバスター以外知らないはずの情報なのだ。その情報をしゃべってしまったので、正体がわかったというわけ。もちろん、見抜いたほうもデビルバスターの知り合いかなにかがいたのだろうが。
端末をいじるのに飽きたら、暇つぶしにあちこち歩き回ってみよう。そろそろ操作にも慣れてきたはず。行ける範囲をくまなく回って位置関係を把握しておこう。いまのところ行けるのはB5FからB7Fまで。扉がロックされていて、B8Fより下には行けない。また、B5Fにはガードロボットがいて、上へも進めないようになっている。
まずはB7Fから。通路では西野の息子、知多がひとりでいるので、彼と遊んであげよう。葛城は知多から兄のように慕われているのだ。あとは病院。中に霊安室もあるので一度のぞいておこう。それから、病棟はなかなかおもしろい。メッセージが固定されている病室もあるが、たいてい医者/看護婦/清掃のおばちゃん/誰もいないに分かれている。それぞれの出現率は部屋によってずいぶん違うので、何度も入り直してチェックしよう。必見は、人違いで看護婦さんにキスされるシーン。ちゃんと効果音まで用意されているところが笑える。
B6F。ファームはシェルターの生産施設。博士の話を聞ける。食料庫には早坂の父がいる。バーチャルトレーナーも利用できるが、市民に解放されているのはLOWレベルのみ。それより上は、デビルバスター専用なのだ。道具屋があって、あまり利用する必要もないのだが、ただ、ここでしか売っていない
食堂には大勢の人が集まっている。入ったところは大食堂で、エリート専用食堂というのが別にある。そこに入ろうとすると追い返されてしまう。奥の調理場では早坂の母が働いているので、一度あいさつしておくのもいいだろう。彼女は低い市民階級のため、差別されて苦労しているようだ。
ここまででたくさんの人に遭遇しているはず。話は丹念に聞いておくこと。少しだけまとめておくと、シェルター内は平和でデビルバスターの実戦経験も乏しい一方、地上には悪魔崇拝の宗教や強制労働キャンプが存在し、レジスタンスが悪魔と戦って活躍しているらしい。デビルバスターの中にも、もっと積極的にシェルター外で悪魔を掃討すべきという考えの人もいるようだが。
B5Fには詰所がある。ここには西野の部屋に寄ってから来よう。中には第2部隊のメンバーがいる。事件もなく、実に暇そうだ。葛城に対して、彼らは気を遣ってまた慰めてくれる。山瀬だけは軽い皮肉を飛ばしてくるが。
自室へ戻る。すると、部屋の前で由宇香に出会う。備品であるディスクや医療キットを運んでいたのだが、床に落としてバラバラに。拾って荷造りするのを手伝ってあげよう。だが、荷物を運ぼうとする由宇香の足取りはおぼつかない。重すぎるのだ。代わって運んであげるのが紳士的というもの。由宇香とともに詰所へ向かう。試験に落ちた悔しさをかみしめながら……。
相変わらず暇をもてあまし気味の第2部隊だが、そこへシェルター外に悪魔が出現したとの連絡。ラボからデータが送られてくる。データを見て、楽勝だな、と山瀬がいう。由宇香はまだ実戦には早いということで、連絡係として待機。デビルバスターではない葛城は、もちろん詰所に残ることになる。
連絡係といっても、たいして仕事もなさそうな感じなので、緊迫した雰囲気ではない。由宇香が、飲み物でも入れようか、などと言ってくる。コーヒー、紅茶、緑茶の3種類が置いてある――はずだが、なぜか緑茶しかない。でも、由宇香はお茶を入れるのが得意なのだそうだ。お茶の用意をする由宇香の姿が初々しい。入れ立てのお茶がアルミの無骨なカップで出てくる。ほっと一息……。
そこに通信が入る。山瀬からだ。だが様子がおかしい。やたらとノイズが入る。それがいっそうひどくなったと思ったら、通信は突然切れてしまった。由宇香は慌ててこちらから呼びかけるが、応答がない。どうやら、西野たちの身に何か起こったらしい。
どうすればいいか、必死に考える由宇香。思案のはてに、ひとつのアイデアにたどり着いた。毅然とした表情で葛城のほうに向き直り、1Fまで様子を見に行ってくれと頼んでくる。近くまで行けば、通信できるかもしれないから、と。ゲートを通るためのIDカードと小型の通信機を手渡された。由宇香はその間に、管理部に応援を要請するつもりなのだ。有無をいわさぬ彼女の態度。それに葛城としても、西野たちが危険な状況にあるとなれば放っておくわけにもいかない。1Fへ向かう。
ゲートロボットは、カードをレンズの前にかざすとすんなり通してくれた。通路の奥にはエレベータと階段がある。エレベータで直行したいところだが、1Fに止まったままだ。時間がないので、階段をのぼるほかない。途中で手元の通信機から由宇香と管理部の交信が聞こえてくる。応援要請をなかなか受理してくれない。ようやく受理されたと思ったら、応援の到着まではしばらく時間がかかるらしい。
1F。シェルターの隔壁扉の向こうから、電波が入ってきた。激しい戦闘の音とともに、山瀬や早坂の声が聞こえる。アームターミナルを破壊され、電波の出力が極端に落ちてしまっていたようだ。悪魔はラボのデータと異なる強力なものであったため、予想外の苦戦を強いられている。しかも、扉を開けるための入力板もやられてしまい、退却すらできなくなっているという。
ここで、葛城が取れる選択肢はふたつ。ひとつは、外に向けて通信を試みること。もうひとつは、ひたすら様子をうかがうことだ。ふつうは通信するほうを選ぶだろうから、そちらで話を進めていく。こちらからの通信は、かろうじて通じた。西野によれば、扉は中からなら開けられるとのこと。そこで、西野の指示通り入力板にコード(58147)を入力。すると扉が開いて全員無事に帰還。あとは応援部隊がなんとかしてくれるらしい。
詰所へ戻ると、西野が病院で手当を受けているというので、病院へ向かい、話を聞いてふたたび詰所へ。その日はそれで解散。しかし、自室で休息をとり、翌日にまた詰所に行ってみると、前日の活躍が認められ、葛城は特例合格で晴れてデビルバスターに。しかも第2部隊に配属である。
子供のころからの夢だったデビルバスターに、ようやくなることができた(第8章2節参照)。誰もが憧れる職業である。嬉しさもひとしおだ。だが、危険な任務が待っているであろうことは、今回の事件を例に挙げるまでもなく明らかである。その晩、期待と不安を胸に、葛城は眠りについた。
ところで、ひたすら様子をうかがっていた場合、刻一刻と第2部隊が追いつめられていく様子が通信機に送られてくる。山瀬が腹を貫かれ、英美も重傷。このままだと全滅……というところで、背後から靴音が響いてきた。デビルバスター第1部隊の到着だ。彼らのおかげで、第2部隊は事なきを得た。
負傷者多数のため第2部隊は急遽非番に。山瀬と英美を見舞いに病院へいく。ふたりとも眠っているが、命に別状はないそうだ。なんと、今日一日安静にしていれば、明日にも仕事に復帰できるという。医療技術の進歩で、たいていの傷はごく短期間で癒せるようになっているのだ。
翌日、山瀬から脳天気な電話が入る。彼の部屋に行ってみると、特別に改造したというアームターミナルをくれる。使い方も説明してくれる。このあとの展開は、デビルバスターになれないままで、原宿シェルターからの通信を受けることになる。
次の日、早坂からの電話で起こされる。すぐに由宇香が部屋に入ってくる。迎えに来てくれたのだ。初日から遅刻するわけにはいかない。慌てて準備して詰所へ向かう。だが、ちょっと早すぎたため、まだほかのメンバーは来ていない。ふたりだけで話をしていると、いいムードに。見つめあうふたり。そのとき、背後で物音がした。振り返ると、山瀬がニヤニヤしながら立っている。ふたりの様子を見て楽しんでいたのだ。しばらくすると、西野と早坂もやってくる。
まずは支給されたデビルバスターの装備に身を包み、アームターミナルを装着する(この時点で葛城のグラフィックも変わる)。ついでアームターミナルの説明を受ける。アームターミナルはデビルバスターの象徴ともいうべきアイテム。使いこなすためには、コンピュータを自在に駆使できるだけの知力と、悪魔と対峙できるだけの精神力が要求されるという。
ソフトもインストールされている。まず、ANS(Auto-Navigation System)はマッパーとも呼ばれ、センサーによって周囲の状況を探知し、さらに衛星からリアルタイムで情報を受信。自分の位置やフロアの全体的な構造を把握できるようになっている。AMS(Auto-Mapping System)は、その名の通りオートマッピング機能を提供してくれるもので、移動した場所の記録をスクリーンに表示することができる。
ここで、英美が徹夜で作り上げたスペシャルバージョンのプログラムを受け取るため、詰所から英美の部屋へ。英美のコンピュータとアームターミナルを接続して、インストールしてもらう。AMSも通常のものよりかなり使いやすくなっているそうだが、なんといってもナビゲーション機能が格段に強化されている。通行人の位置がすべて表示されるのだ。詰所へ戻ると(由宇香の部屋などに寄り道するとすぐに戻れる)、西野の指示で、今度は早坂とともにバーチャルトレーナーへ。
B6Fのバーチャルトレーナーは、B8Fのバーチャダンジョン・システムより小型の装置だが、機能の点では変わらない。仮想空間内で得た「経験」を現実の肉体にフィードバックできるのだ。LOW、MIDDLE、HIGHの3段階あるうち、今回は由宇香とともにレベルLOWでチャレンジ。一言だけいっておくと、最初の分かれ道は右に進んだ方が無難だ。ボスはアースドラゴン。トレーニングが目的なので、ボスといってもパワーを押さえてあり、HPは高いが攻撃力は極めて低い。経験値が稼げるので、むしろボーナスキャラである。
クリアまたは全滅で訓練は終了。詰所に戻って報告。そこには英美も来ていた。プログラムの専門家である英美と、コンピュータオタクの山瀬から、アームターミナルについてさらにレクチャーを受ける。
DCS(Devil Communication Sytem)は悪魔との対話を可能にしてくれるシステム(注:DDC【デジタル・デビル・コミュニケーター】と説明されるが、これは誤りである)。ふつう悪魔との対話には、悪魔とシンクロし、精神を乗っ取られる危険性があり、高度な修養を必要とする。しかし、DCSはコンピュータを媒介にすることで、そのリスクを大幅に減らしてくれるのだ。これにより、話し合いで無益な戦闘を回避し、場合によっては悪魔を下僕として従えることもできるようになった。
従えた悪魔は、必要に応じて召喚することになる。それを可能にするのが、DDS(Digital Devil Summoner)である。ただ、悪魔はデジタル・デビルとしてアームターミナルのメモリにセーブされているだけなので、実体化の際に大量の生体マグネタイトが必要となる。そこで、斃した悪魔からマグネタイトを奪い、蓄積しておくための装置『MAGバッテリー』も搭載されている(ちなみに、このバッテリーの容量はほぼ無制限。リアリティに欠けるが、ゲームバランスとの関係上やむをえないといえよう)。これら全システムの原型は、大破壊前スティーヴン博士によって作られ、世界各地にばらまかれたのだという。
いまのところ葛城のアームターミナルにDCSとDDSはインストールされていない。もっと訓練を積んでから、だそうだ。ひととおりプログラムの説明も終わり、この場は解散。
なお、説明のなかったプログラムにDAS(Devil Analyzing System)があるが、これは対象とする悪魔の情報を解析して表示してくれるというもの。B6F、ファーム横の端末からVer.1.0が入手できる。ただし、このバージョンでは悪魔の種族と名前しか解析できない。
それから、プログラムに関するより詳しい情報は、自室の端末から入手できる。頭文字の羅列にとまどうかもしれないが、大事なのでプログラムの名前と機能はしっかり把握しておくべきである。
衛星からリアルタイムで情報を受信するANSは、GPS(Global Positioning System)の発展型だと考えられる。最近ではカーナビなどですっかりおなじみになったGPSだが、ここではGPSについて簡単な説明を加えたうえで、ANSとの関係について考えてみよう。
そもそも、GPSは米国国防省が軍事目的に利用するため、120億ドルの経費をかけて開発した位置測定用のシステムである。高度20,200kmの6つの軌道上に24機の衛星が配置されており、常時5個以上の衛星から信号を受信できるようになっている。
衛星と端末が信号をやりとりすることで、信号が到達するまでにかかった時間から両者の直線距離を割り出すことができる。この作業を4つの衛星と行うと、立体中の一点が特定される。これが、GPSの基本的な考え方だ。直線距離を割り出して立体中の一点を特定するという点で、原理的には、地上の観測点に届いた地震波をもとに震源地との距離を算出し、震源地を特定するのと同じだといえる。
ただ、GPSは、他国が軍事目的に利用できないよう、送信される信号にわざと誤差情報が混ぜられていた。そのため、より高精度の測位を行うには、Differential GPS(D-GPS)などの技術が必要だった。D-GPSというのは、正確な位置のわかっている基準局でGPSの測定結果と実際の経緯度とを比較し、端末に差分情報を提供することで補正を行うものである。
しかし、米国は2000年5月1日から誤差を軍事用GPSレベルにまで減らすようにしたそうである。これでD-GPSなしでも高精度の測位が可能になったわけだ。
さて、このGPSとANSとの関係についてだが、まず疑問に思うのは、衛星からの電波がシェルターの奥まで届くのかということである。ただでさえ分厚い壁に加えて、強力な対魔結界が張り巡らされているのだ。結界だけでも、かなりの電波障害が発生しそうである。悪魔たちに破壊されるのでアンテナを張るのもダメだろう。
それに、衛星の寿命の問題もある。通常、GPS用衛星の寿命は約7.5年だそうだが、大破壊後にもロケットを打ち上げることができたのだろうか。というのは、背景設定として、世界中で日本の大破壊に似た黙示録的大災厄が発生し、悪魔が出現して大混乱に陥っている、ということになっていたはずだからだ。もし新規打ち上げが困難だということになると、新技術によって衛星の寿命が飛躍的に延び、大破壊前からずっと稼働しつづけていると考えなくてはならなくなる。
もちろん、そのように考えることも可能だ。『真・女神転生I』からも明らかなように、メガテンでの199X年は、現実よりもはるかにハイテク化が進んでいる。プラズマソードやヤクトアーマーといったSF的な兵器は、五島指令が開発を命じたものだった。つまり、自衛隊や企業にそれだけの技術力があったということになる。
とすると、米国も同等以上の技術水準だろうから、太陽電池で永久に動き続ける衛星を開発していてもおかしくはない。それに、メガテンでは魔法とその応用技術という便利なものがある。この魔法技術とハイテクが融合すれば、特殊な通信技術によって衛星とシェルターが情報をやりとりすることもできよう。
最後に、199X年当時、まだ米国は信号に誤差情報を混ぜていたことになるが、大破壊後はさすがに解除したことだろう。各国と協力して悪魔を駆逐することこそ、国家安全保障上の最優先課題といえるからだ。
すべては、彼が作った悪魔召喚プログラムから始まった。彼は、何もかも予期していた。大破壊も、悪魔の出現も。だから、彼は力あるものに人類の運命を託した。車椅子に乗ったその姿とはうらはらに、時空を越えて彼はどこにでも現れる。生身の人間では決してありえないその正体は、まったくの謎に包まれている。
推定材料を挙げてみよう。メガテンの伝道師たる成沢大輔氏いわく、スティーヴンは「過去の因縁よりも未来に関わる存在」である。『真・女神転生II』のシナリオを担当した伊藤龍太郎氏は、宇宙は神によって作られたものではないという思想を視覚的に表現するために、スティーヴンを登場させたと述べている。そして、神や悪魔一方だけのストーリーではないところに行くための、導師になってくれるのだとも。『真・女神転生I』に登場した吉祥寺の老人(太上老君)と同じく、ニュートラルの象徴であることも認めている。
これらは、曖昧にぼかした言い方だ。そこで、筆者がはっきりと言おう。スティーヴンは、西洋的人間主義、近代合理主義を具現化した存在である。もっと簡単に、人類が共有する理性そのものだと言ってもいい。彼は、「人類の、人類による未来」を望んでいる。だからこそ、自らの意志で未来を切り開こうとする人々を支援すべく、悪魔に対抗する手段としての悪魔召喚プログラムを開発し、世界中にばらまいたのだ。
ダンテの『神曲』には、地獄と煉獄を巡るダンテの導き手としてウェルギリウスを配し、彼に人類の理性を象徴させた。スティーヴンにもその影響が感じられる。科学、とくに自然科学によって理性を代表させたために、スティーヴンという科学者の姿で視覚化されたのである。すると、太上老君の位置づけもわかってくる。彼は、東洋的自然主義の象徴、すなわち大自然が人格化された存在であり、スティーヴンとは対極に位置する調和の担い手なのだ。
なお、最近になってスティーヴンの手になるレポートが発見された。それによれば、ターミナル・システムの開発者もスティーヴンだという。それはいいのだが、気になる記述もある。彼は、このシステムを開発中に、偶然の事故によって現れた悪魔に襲われ、以後車椅子での生活を余儀なくされるようになったと述べているのだ。しかし、彼は人間ではないので、おかしな話である。全体の内容が詳細かつ正確であることから、レポート自体が偽物とも思えない。とすると、彼は自分が人間だと見せかけるため、嘘をついたことになる。
ここから先はイベントが立て続けに起こる。ゆっくりとシェルター内をまわる余裕もなくなってくるので、いまのうちにバーチャルトレーナーでレベルを上げておこう。由宇香もトレーニングに来ているので、誘いを受けていっしょにダンジョンへ。
研究によると、MIDDLEレベルに入るためには体力と器用さの値が両方8以上でなければならない。葛城はともかく、由宇香はこの条件を満たしていない場合も多いだろう。LOWレベルで訓練を積んでレベルアップし、能力値を上げるしかない。ちなみに、HIGHレベルに挑戦するには、体力と器用さの値が両方10以上必要である。ここで戦闘にはしっかり慣れておこう。とくに、狭いところでの戦い方が重要だ。
訓練を終えて自室へ。しかし、すぐには休まず、端末に向かおう。いままでは入れなかった〔DB専用情報〕のコーナーにアクセスし、新情報を入手するのだ。レジスタンスの動きや、神田、渋谷などの情報が掲載されている。それが終わったら、休息。
翌日の朝、端末に通信が入る。主旨は、初台シェルターに対する救援要請。原宿シェルターに悪魔が進入、ゾンビウィルスが発生し、シェルターは潰滅状態にあるという。だが、文章は半ばで途切れていた。緊急事態だ。まずは西野に知らせなければ。西野の部屋に向かうが、あいにく不在。彼の妻陽子に連絡を頼み、詰所へ向かう。
詰所には早くも第2部隊のメンバーがそろっていた。英美の両親と由宇香の実の母親は原宿シェルターにいる。一刻も早く救援に向かいたいところだが、管理部の許可なしには出動できない。西野が状況を報告し、指示を仰ぐが、無情にも管理部は待機命令を出す。
それを聞いた早坂は、我慢できず命令を無視して部屋を飛び出す。追いかける英美。由宇香もついていく。そして、西野も部下たちを守るため、独断で行動する決心を固めた。管理部に出動を一方的に通告する。しかし山瀬は出動に反対し、自分は残ると言っている。さて、葛城はどうするか。
ここでは救出に向かうことにする(属性がCHAOSよりに。管理部の命令に背いたため、らしい)。1Fから地上へ。葛城にとって、生まれて初めての地上。そこは、建物や道路が無惨に倒壊し、崩れ果てている荒廃した世界だった。初台シェルターはかつて新国立劇場があった場所に立てられたというが、もはやその面影はない(注:新国立劇場の竣工は'97年。すると、大破壊はそのあとということに)。悪魔がそこかしこを徘徊し、原宿シェルターへの移動途中にも襲いかかってくる。だが、西野たちがついているのでそれほど危険はない。
原宿シェルターの前まで来た。が、隔壁扉が開かない。メカに強い英美にもお手上げである。核爆発にも耐えうるシェルターだけに、扉を破壊することも不可能。通信もつながらない。英美によれば、電気系統を破壊されたおそれがあるという。そうなると中の酸素がもつのかどうか心配だが、手の打ちようがない。管理部から通信が入り、帰還命令が出る。処理は第1部隊と技術班に任せ、撤収。管理部に出頭することに。
ちなみに、詰所に残った場合。原宿シェルター前の状況などは、山瀬と西野との通信のやりとりで知ることになる。当然出頭もない。山瀬が意外と真剣に西野たちのことを心配している様子がほほえましい。
管理部では由宇香の父、橘兼嗣が待っている。彼はデビルバスター部隊全体の上官である。ひどく立腹している様子で、西野が平謝りに謝ってもまったく聞いてくれない。兼嗣は由宇香を自分の前に呼びつけると、彼女の頬を強くひっぱたいた。よろめく由宇香。駆け寄る葛城。兼嗣はその様子を見てさらに不機嫌になる。どうやら、自分の命令を無視されてプライドを傷つけられたことに加えて、由宇香が自分への当てつけのように勝手な行動を取ることに、我慢がならなかったようだ。
兼嗣は怒りにまかせて隊員たちをなじる。隊長自身が無能だから馬鹿な連中が集まってくる、と。そればかりか、「卑しい低階級の者は、恵まれない環境で育ったぶん、ひがみや反発心が強くもめごとばかり起こす」とまで言う。
それを聞いて、由宇香が黙っていなかった。「あなたという人はどこまで愚かなの!」。当然兼嗣は激怒する。「親に向かって何て口の聞き方だ!」。その場を収めたのは西野だった。由宇香を下がらせ、上官に食ってかかろうとする早坂を押しとどめ、西野はすべて自分の責任だと言って謝る。ひたすら謝られ、さすがにばつが悪くなった兼嗣は、第2部隊に自宅謹慎を命じて去っていった。
管理部を出るとき、女の子連れの女性とすれ違う。ふたりは管理部に入っていく。関係者以外立入禁止のはずでは? 実は、女性は兼嗣の妻の橘可燐であり、女の子のほうはその娘の美莉なのだ、と由宇香が教えてくれる。つまり、美莉は由宇香にとって腹違いの妹にあたる。兼嗣は、由宇香の母桐子と別れる前から可燐とつきあっていたのだという。由宇香は、そんな身勝手で傲慢な父親に反発して、家から飛び出したのだ。
自室に戻って休息をとり、次の日に西野らの部屋に行く。謹慎中なのでみんな部屋にいる。両親が原宿シェルターに閉じこめられたままの英美は、事件の調査状況を調べている。だが、内容はデビルバスターにも公開されていないらしく、本当に第1部隊を原宿に派遣したのかさえつかめないでいる。なお、謹慎の話はすでにシェルターじゅうに知れ渡っていて、近所の女の子にまでからかわれる。
自室に戻ると、原宿シェルターから通信があり、メールが届く。「悪魔撃退プログラム」なるものの完成で戦況が逆転して悪魔を駆逐、ゾンビウィルス感染者も内部的に処分し、事態は鎮静化に向かっているという。そして、メールにはその「悪魔撃退プログラム」が添付されているとのこと。にわかには信じがたい話である。このメールをどう処理するかであとの展開が大きく変わる。
まず、管理部に連絡した場合。ラボのプロフェッショナルに任せるのがいちばん――だと思ったのだが、DDSの改良作業を進めているため、ラボの人手が足りないという。英美に解析を依頼するか、自分で解析するかして結果だけ報告せよとのこと。管理部は徹底して官僚的な組織として描かれているようだ。
次に、困ったことは隊長に……というわけで西野隊長に相談した場合。といっても、西野もソフトウェア関係に強いわけではない。彼から管理部に連絡してくれるだけなので、展開は直接管理部に連絡した場合と同じになる。
親友に相談してみよう、と早坂のところに持っていった場合。早坂がプログラムを預かり、解析することになる。以後の展開は、セリフの違いをのぞけば、英美を早坂に置き換えたのと同じになる。
というわけで、実はパターンは2つだけ。英美(または早坂)が解析するか、自分で解析するか、だ。ここでは英美に解析を依頼したことにして話を進めていこう。英美は、二つ返事で解析を引き受けてくれる。しばらく時間がかかるというので、日を改めてやってこよう。自室で休息。
次の日。異変が始まる。突然シェルター内の霊的磁場が上昇、霊体系の悪魔がシェルター内に出現し始める。警戒態勢がしかれ、B6Fではデビルバスターたちが交替で見張りにあたっている。特定の場所を通過すると突然悪魔が出現したりするのだが、葛城の敵ではない。といっても、女性や子供には危険であることは間違いなく、警報が鳴るたびにデビルバスターが出動して悪魔を駆逐しているようだ。
この時点で、住人との会話の内容が全般的に変化している。情報を収集してまわろう。すると、シェルターの結界は正常に作動していることがわかる。また、原宿シェルターとの通信が不通になっているという。住民たちは大規模なメンテナンスか、などと噂しあっているが、異変を知っている葛城としては、不安にさせられるところだ。
さらに、英美の様子がおかしくなっている。解析の経過を聞こうとすると、全然とりあってくれない。次の日になっても、爛々と輝く目でコンピュータに向かい、一心不乱にキーボードを叩いている。かと思うと、翌日、今度はベッドに横たわったまま死んだように動かなくなった。これはただごとではない。みんな次第に心配し始めるが、とくに早坂は気が気ではない様子である。西野らメンバー全員に話をすると、次の展開に進む。以後も同じ。
さらに翌日。早坂の部屋に行くと、英美のことで相談を受ける。霊安室の死体安置BOXに掻きむしったような血の痕があった話や、英美の手が血だらけになっていた話などを聞く。そこへ、B10Fで悪魔が出現したとの連絡が入る。B10Fはエリート居住区なので、結界の強度も高いはずなのだが……。謹慎中とはいえ、万一に備えて西野隊長の部屋に集まり、待機。しかし、英美は来ない。また連絡が入って、悪魔は第1部隊によって駆逐されたとのこと。解散となる。
早坂の部屋に戻ると、英美の部屋まで一緒に来てほしいと言われる。ここは断れないので一緒に英美の部屋へ。しかし、英美の姿はなかった。どこへ行ったのだろう。捜索することになるが、やみくもに動き回ったりせず、彼女の部屋から通路沿いに進み、通行人の話を聞いていこう。すると、エレベータでB6Fへ向かったことがわかる。後を追ってB6Fへ。そこにいる人々に話を聞くと、英美は食堂に向かったらしい。しかも、様子がおかしく目つきが異様だったという。
食堂の前で英美に遭遇。DB専用食を10個も抱えている。DB専用食というのは、訓練や戦闘でたくさんカロリーを消費するデビルバスターに合わせて、栄養価とボリュームを増やした特別な食料セットのこと(『天然酵母入りのパン』や『スペシャルサーモンのソテー』などが含まれている)。それが10個ともなれば、たいへんな量だ。彼女はこれを平らげるつもりなのか。
英美はその大量の食料を葛城たちに盗られまいとするかのように抱え直すと、ゾッとするような目でふたりを睨んだ。早坂が心配そうに声をかけるが、英美は「善人ぶるのはたいがいにしてっ!」というなり、ふたりを突き飛ばして去っていく。早坂はあとを追う。
さて、これ以後はイベントの連続となり、自由行動はとれなくなる。だから今のうちに準備を済ませておかなければならない。まずはバーチャルトレーナーでレベルアップ。とくにWindows版をプレイしている人は、これをやっておかないとあとで泣きを見ることになる(第3章3節のコラム参照)。
バーチャルトレーナーにはひとりで入ることになるので、厳しい戦闘を覚悟しておかなければならない。こちらの装備も強力になっているとはいえ、MIDDLEレベルやHIGHレベルでは、一瞬の判断ミスが命取りになることだろう。しかし、そのぶん経験値も独り占めできるので、腕を磨くには最適だ。効率よくレベルアップするには、ザコを無視して先へ進み、できるだけ多くボスと戦うようにするのがいい。楽勝のわりに経験値は多いからである。ちなみに、MIDDLEレベルのボスはスカイドラゴン、HIGHレベルのボスはファイアドラゴンだ。
この時点でB8Fにも足を伸ばせるようになっている。武器庫で装備を更新し、弾薬を支給してもらおう。このフロアにも詰所があり、デビルバスター第3部隊が存在することもわかる。いったい第何部隊まであるんだろうか。
翌日の朝。由宇香が葛城の部屋に入ってくる。目にいっぱい涙を溜めながら、必死に何かを訴えようとしているが、気が動転して言葉が出てこない様子。なだめてあげてから話を聞くと、彼女の腹違いの妹である美莉が、ファームの樹木エリアで変死体になって発見されたという。全身の血がきれいに抜き取られて、しかも外傷がなかったそうだ。たしかに変死である。犯人はわかっていないらしい。怯えきった由宇香は、葛城にすがりついて泣き出した。
由宇香は、彼女の実家で行われる美莉の葬儀に、葛城もいっしょに来てほしいと頼む。父兼嗣のもとにひとりで行くのは不安なのだろう。これは断れないので、B10Fのエリート専用居住区へ。しかし、部屋の前で橘兼嗣に参列を拒否される。西野も来ているが、彼からも兼嗣の言葉に従っておくよう諭される。その後、継母の可燐が出てきて、追い打ちをかけるように由宇香に対してつらくあたる。あなたには関係ないことだ、今日という日をかき回されたくない、と。由宇香にとって、継母とはいえ親からのこの言葉はショックだろう。
やむなくふたりは葛城の部屋へ引き返す。すると、ふたたび早坂から相談を受ける。英美は正気を取り戻したようなのだが、靴に土が付着していたという。シェルター内に土があるところといえば、ファームの樹木エリアしかない。英美が橘美莉殺しの犯人なのか……。だが、英美にはここ数日の記憶がほとんどないそうだ。メールに添付されたデータの解凍作業を始めたところで意識を失い、気づいたら今日だったという。
この話を聞いて、由宇香がデジタル・デビル・メール(DDM)の存在を指摘する。もともとこれは、シェルター間で悪魔の召喚データをやりとりするために人間が開発したものなのだが、悪魔に悪用されてしまったらしい。おそらく、召喚プログラムとデータの両方が添付され、解凍と同時に自動的に召喚プログラムが実行されたのだろう。だが、召喚された悪魔は生体マグネタイトをいっさい保有していないので、実体化することはできない。近くの人間に憑依してその人間を操るのだ。英美はその犠牲になったというわけ。コンピュータシステムの盲点をついた攻撃である。この方法なら、誰にも怪しまれることなく邪魔な結界を乗り越えることができる。
よく考えてみると、この攻撃方法にはやや疑問が残る。マグネタイトがゼロなら、そもそも召喚すらできないとも思われるからである。いちおうここでは、アストラル体としてなら召喚できることになっているようだ。
ひょっとすると、この点を解決する新技術を、悪魔側が開発したのかもしれない。そう考えれば、いままで悪魔がこの手段を採らなかったのはその新技術がなかったからだ、ということで辻褄は合う。が、それを匂わせるセリフは登場しないのだった。
アストラル体は、人間に対して物理的に干渉することはできない。生体マグネタイトを肉体に変換し、実体化して初めて、物理的な影響力を行使できる。だから、シェルター内の霊的磁場が上昇するまで霊体系悪魔が実体化しなかったのは自然である。が、アストラル体でも憑依して宿主から生体マグネタイトを吸収することで、その存在を維持してゆくことはできる。
なお、憑依時には、宿主からかなりの精神的抵抗を受けるはずだ。とはいえ、高位の悪魔ならば、あっさりと支配してしまえることだろう。
小康状態を保っているとはいえ、英美の体から悪魔が退去したわけではない。いつまた操られて動き出すかわからない。対策を講じなければ。ここはやはり隊長に相談だ。だが、西野からは、重大な会議に出席しなければならないので、手短にやってくれと言われる。たぶん、異常な霊的磁場の上昇という問題をどうするか話し合おうというのだろう。本当はそれどころじゃないのだが。
疲労の色の濃い由宇香を残し、西野の部屋で西野と山瀬を交えて作戦会議が行われる。山瀬の推理によって、英美が殺人犯ではないとわかる。英美に憑依した悪魔は(おそらく魔術の類で)美莉を人気のないファームまで連れ出し、そこで英美の体から抜け出して美莉を殺した。だから、美莉の死体には外傷がなかった。英美が直接手にかけたわけではない。悪魔の目的は、生体マグネタイトを獲得すること。実体化をもくろんでいるのだ。
会議後、自室に戻ろうとすると、由宇香のことが気になる、などとメッセージが出てくるので由宇香の部屋に行ってみる。そこでなんとラブシーン。ふたりで一夜を過ごすことに。詳細は自粛。かなり強引な展開に思えるが……。一言だけ付け加えておくと、紳士的な(?)態度をとらないと、気まずい雰囲気になって、イベントが起こらなくなる。属性がDARKに傾くだけでなく、あとあとの展開にも影響するので気をつけてほしい。
翌日は詰所で作戦決行。山瀬と由宇香は参加せず。由宇香はともかく、山瀬が参加しない理由は謎だ(彼だけは謹慎処分を受けていないので、仕事が入っていたのかも)。作戦というのは、悪魔を挑発し、憑依者の外へとおびき寄せるというものだ。高位の悪魔ほど、プライドが高いので案外この手に乗ってきやすい。しかし、周囲の人間にはかなりの危険が伴う。実体化した悪魔と戦わなければならないし、そうでなくても、ふたたび別の人間に憑依されるおそれがあるからだ。
英美を詰所に呼び出し、扉をロックする。英美の目の前には、全員が強ばった表情をし、出撃前のような重装備をしたデビルバスターたちの姿がある。英美(に憑依した悪魔)はいつもと様子が違うことに気づいたようだ。だが、観念したかのように首をうなだれた。
西野が語り始めた。御茶ノ水シェルターに送ったDDMは回収した。作戦は失敗、小さな少女のマグネタイトだけが、やっと得られたおまえの成果になるんだ。挑発の言葉を聞くたびに、英美の身体がビクッ、と反応する。小刻みに震え出す英美の姿を見る早坂の目には、涙が浮かんでいる。
「マグネタイトを十分に吸収した敵は手強い! 油断はするな!」。西野のその言葉が、合図となった。英美の身体は無理な姿勢で背後に反り返り、不自然な痙攣を起こす。目は焦点が定まらず、虚空を見つめている。葛城が思わず目を背けた瞬間、ドサッという音とともに、まるで糸の切れた操り人形のように、英美はその場に崩れ落ちた。
半開きになったその口から、白い煙のような、ねっとりとした質感をもったものが螺旋を描いてゆっくりと立ちのぼり、次第に形をなしていく……。英美に憑依していた悪魔が姿を現した。敵はすでに、実体化できるだけの生体マグネタイトを手に入れていたのだ。
倒れている英美のそばに素早く駆け寄り、身体を引きずって葛城たちの背後に運ぶ。同時に、今度は悪魔のほうがしゃべり始めた。人間たちを下等生物として見下しきった口調で。そのとき、西野はすでにデビルアナライズを終えていた。相手は、想像以上に高位の悪魔だった。名は、ムールムールという。
悪魔学では、ソロモン王によって封印された72柱の魔神の1人とされ、元は座天使だったが、現在では魔界で大公爵兼伯爵の地位にある。グリフォンまたはコンドルに乗った、緑の鎧を身につけた戦士の姿をしており、頭には公爵としての地位を表す冠をかぶっているという。ハスキーで耳障りな声で話すとされる。
哲学についての知識が豊富であるほか、
「あの女性も、私は気に入っていたのですよ。あの無垢な心、そこに宿る恐怖心や絶望の味、なかなかに美味でしたね」。悪魔が語っているあいだに、英美は意識を取り戻し、よろめきながらも立ち上がった。彼女も含めた全員で、ムールムールと戦闘になる。
だが、あまりにも力の差がありすぎた。余裕の笑みを浮かべるムールムールに対して、葛城たちの攻撃は傷ひとつつけることができない。訓練されたデビルバスターたちが束になってかかっても、まったく歯が立たないのだ。
ムールムールはふたたび気体化し、扉の隙間をすり抜けて去っていった。その前に奴は、意味ありげなメッセージを残していく。ひとつは、労働キャンプのこと。そして、もうひとつは西野のことである。ムールムールは、まるで西野の背後に誰かいるかのようにつぶやいたのだ。いったい何を「見た」のだろうか……(第11章参照)。