「偽典・女神転生」では、それぞれのアイテムに短い解説が付けられています。でも、神話的背景を語るには、全然足りません。そこで、より詳しい解説にチャレンジしてみることにしました。とはいえ、一挙には無理ですので、ちょっとずつ進めていきます。
一連のアイテムの中に、"DBW"で始まる8つの兵器がある。レジスタンスが開発したという設定だ。しかし、"Devil Buster's Weapon"の略称だと考えたほうが自然だし、貧弱な設備しかなく、資金面でも潤沢とは言い難いレジスタンスにこれだけ高度な兵器を開発する能力はないはず。したがって、これはシェルターの誤りだろう。
ただ、デビルバスターたちに実際に支給されていた形跡がない点が、この説の難点といえば難点。だが、シェルター外での大規模な掃討戦で用いられる予定だったのかもしれない。各地のシェルターは悪魔の侵入を許してしまったため、使う機会はついになかったというわけ。シェルター潰滅後は、悪魔たちによって破壊されたか、持ち去られた可能性が高い。
余談だが、これらの武器が地上で流通しているのは、シェルターが「輸出」することでマッカを獲得する手段にしていたからだろう(第2章4節のコラム参照)。シェルターも完全に自給自足というわけにはいかず、外部との取引が不可欠という状況にあったのだ。
それでは、以下に設定と解説を挙げておく。なお、DBW2がなく、おそらくボツになったのだろうが、理由は不明。また、すべてが店で販売されているわけではないようだが……。
設定:特殊金属製のサーベル。レジスタンスの開発兵器。
解説:ギリシャ神話の英雄ペルセウスが、ヘルメス神から授かった剣。ハルペーともいう。刃が折れ曲がっているのが特徴。不死身の魔物さえ殺すことができるとされ、メデューサの首もこれで切り落とした。また、アンドロメダ姫を縛る鎖を断ち切ったこともある。一説によれば海神ポセイドンが放った海の獣を斃すのにも用いたというが、かの怪物はメデューサの首の魔力で石に変えられたという説のほうが有力だ。
設定:レジスタンス開発の大型拳銃。マグナム弾を連射できる。
解説:イスラエルの王ダビデが、若き日に、ペリシテ人の巨人ゴリアテを斃した際に用いた投石器。特別な作りではなく、皮のバンドに石をはさんで振り回すというシンプルなものだった。唯一神の祝福があったのはスリングではなく、ダビデのほうだったのだ。
設定:鎚頭に高圧電流を発生させる機構を備えた戦闘用ハンマー。命中時に敵を「感電」にする事がある。
解説:北欧神話の神トールの鎚。稲妻というよりむしろ雷鳴の象徴。恐ろしく硬い石、あるいは鉄でできているという。使うとき以外は小さくなって、トールのポケットに収まる。遠くに投げても目標に必ず命中し、持ち主の手に確実に戻ってくる。巨人フルングニールの脳天を、投げつけられた大岩もろともうち砕いたほか、ラグナロクでは、世界蛇ヨルムンガンドにとどめを刺した。
設定:プラズマ粒子で敵を貫く槍状の兵器。ほぼ百発百中の高い命中精度を備えている。
解説:北欧神話の神オーディンの槍。稲妻の象徴。その穂先はこびとが鍛えた鉄でできていて、ルーン文字が刻まれている(こびとについては、第5章3節のコラム参照)。柄はトネリコの木から作られた。伝説によれば、シグルド(ジークフリート)の父、英雄シグムントの聖剣グラムを破壊したとされる。が、ラグナロクの際は役に立たなかった。巨狼フェンリルの脇腹を突いたものの、斃すことができず、オーディンは槍もろとも呑み込まれてしまったのだ。
設定:高速で震動する刃を持つ戦闘用サーベル。如何なるものをも分断できる。
解説:ケルト神話の主神ルーがもつ片手剣。正式名はフラガラック。輝く刃はどんな鎧をもバターのように切り裂く。望めば鞘からひとりでに抜けて所持者の手に滑り込み、敵に投げつければ自然に戻ってくることから、その名がある。
設定:個人携行用の多弾頭地対地ミサイルランチャー。レジスタンスの開発品。
解説:ケルトの英雄クーフーリンの槍。主君である王から授かった。魔女スカザーハが、海の獣の死骸から作り上げたものだという。常人には使いこなせないほど大きくて重い。また、その切っ先は鋭く、刃には銛のようなギザギザの切れ込みが入っていた。魔法の力が秘められており、投擲時にはこの切れ込みの部分から30の小さな矢が飛び散って、敵を襲ったという。
設定:高出力のレーザーの束を照射する光学兵器。威力は高いがエネルギー消費が大きいのが難。
解説:ルーがもつ五又の槍で、太陽の光または稲妻の象徴。投げれば切っ先は5つの光線となって飛翔し、別々の敵を攻撃する。どんなに遠く離れた敵も逃がさないことから、ルーには「長い腕の」という称号がついた。
設定:ブリューナクを凌ぐ破壊力を持つ光学兵器。エネルギー消費量も並ではない。
解説:北欧神話で、炎の国ムスペルヘイムの支配者スルトの妃、シンマラが保管しているという剣。その名は、「害なす魔の杖」を意味する。ロキによって鍛えられた。ラグナロクの際にフレイ神を殺し、世界樹イッグドラシルを焼き尽くした炎の剣が、これであるそうだ。
設定:鬼子母神のお守り。
解説:伝説によれば、ハリティーはもともと人間の幼児を喰らう鬼女(夜叉)であった。500人の子供をもち、人肉を与えて育てていたという。しかし、あるとき釈迦が神通力で彼女の末子ピャンカラを隠した。我が子を見失って狂乱するハリティーに対し、釈迦は、我が子を失った親の悲しみを教え諭したのである。これを聞いたハリティーは改心して仏法に帰依。子供も返してもらった。以後、ハリティーは鬼子母神として、安産と幼児の守護神となった。
とはいえ、善神であっても食事は必要である。そこで、鬼子母神は人間の子供を食べる代わりに、ザクロを食べることにした。ザクロは人肉の味がするという俗信は、ここから生まれた。
このアイテムに「盲目」の追加効果が設定されているのは、我が子を隠されて見えなくなった、というエピソードを踏まえているからなのである。
設定:すべてを呑み込む炎を放つ、マハカーラの五鈷杵。
解説:ヴァジュラは、
両端が五又に分かれている金剛杵を、
設定:悪しき炎を払う神剣。ヤマトタケルノミコトの剣として有名。
解説:神話に、次のようなエピソードがある。平野の中央の沼に荒ぶる神がいると夷の長に騙されたヤマトタケル命が、中に踏み込んでいくと、周囲から火を放たれた。その際、神剣はひとりでに鞘ばしり、周囲の草を薙ぎ払ったと伝えられている。窮地を脱したヤマトタケル命に賊どもが切り捨てられたことは、いうまでもない。もともと「くさなぎ」には奇妙な蛇という意味があるらしく、水と関係が深いようだ。
設定:三種の神器のひとつ。HPを自動的に回復させる。
解説:八尺瓊勾玉は、天岩戸の前で天照大御神に捧げられ、天孫降臨の際ニニギ命に譲られたという来歴をもつ品である。三種の神器の役割分担でいえば、剣が戦闘を、鏡が祭祀を、勾玉が生産をそれぞれ司る。八尺瓊勾玉は豊穣の象徴なのである。
実際、八尺瓊勾玉は「
設定:癒しの力を持つ神聖な角。
解説:万病を癒すユニコーンの角だ、というのがおおかたの見解だろう。が、ここではあえて異説を出す。「豊饒の角(cornucopia)」である。ギリシャ神話で、幼時のゼウス神に授乳したと伝えられるヤギの角のことだ。角の中に花・果物・穀類を盛った形で描かれ、物質的豊かさの象徴とされるという。『アドニスの園』(第3章4節のコラム参照)と似ているところがあり、偽典に登場するアイテムとしては、こちらのほうがふさわしいような気がするのだが。
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