○魔王 魔族系

バール
 カナーンの主神。雨と豊饒の神でしばしば太陽神とも見なされる。ただし後にキリスト教文化下で悪魔化して邪神とみなされた。バール(Baal)は「主」の意で神を示す一般名詞でもある。なお女性形はバーラト(Baalat)。この語はバビロニアで「主」の意を持ち主神の称号であったベル(Beel)に由来すると推察される。
 大神エルと女神アシラトの息子であるとされ、海神ヤムを倒して神々の王となる。その後死の神モトの恨みを買って殺されるが、妃のアナトの力により復活した。アナト、アスタルテの両女神を妃とするが、この二神はしばしば混同あるいは同一視される。説によってはさらに多くの女神を妃として持ち、時にこれらの女神にはバーラトの名が冠されるが、その多くは両女神と同一視される場合がほとんどである。古くは海神ダゴンの子とされることもあったらしい。河神アシュターや死神モトとは兄弟とされることもある。
 以上のようなバール神の姿は主として「アシュタルテ・パピルス」といった古文書によるものであるが、統一国家を持たなかったフェニキア人はそれぞれの都市国家において独自のバールを崇拝しており、「アシュタルテ・パピルス」に登場するバールはバール・ハダドあるいはバール・サフォン等と呼ばれる神であったらしい。これらフェニキア諸都市で崇められたバール神群にはテュロスのメルカルト(「街の神」の意であり単なるバールの別名とも思われる)、ビブロスのアドン(「主」)、シドンのエシュムン(「治癒」)等がありその数は極めて多く、しばしば区別される。
 しかし古代〜中世のヨーロッパにおけるバールの姿にはローマと地中海世界の覇権を争ったカルタゴの神であったバール・ハンモン(「鍛冶師」)の影響も無視できない。幼児供犠(史実であったかどうかには議論の余地が有るが)で悪名高いこの神はその後の支配者ローマ人による悪宣伝も手伝って邪神とみなされており、後世バール神が多くの悪魔の原形となった背景としては、フェニキア人がパレスチナ(カナーン)での主要な異民族であったことの他にこのことも無視出来ない要素であろう。いわゆるLAWの源流にあるものが、かつてローマと呼ばれ、今ではキリスト教と呼ばれている一連の普遍的統一概念であることを鑑みれば、バールは二重の意味でLAWの敵対者であったといえるかも知れない。
 バール神そのものはバビロニアの暴風神エンリルがその原形と目されるが、豊穣神タンムーズの性格も色濃く受け継いでいる。ユダヤの唯一神Y.H.V.H.もバールの影響をかなり強く受けており、元々はバール神群の一柱とする説もある。ユダヤの伝説的英雄ニムロッドの原形もバール神と推察される。ギリシャに伝わってオリオン、アドニス、ヘラクレス等の半神の原形となった他、前述の様に中世期には多くの悪魔の原形となった。女神転生においてはバール神はY.H.V.H.によって悪魔バエルとベルゼブブに引き裂かれたとの独自の解釈をしている。

アスタルテ

ベルフェゴール

バルベリス
 地獄の条約庁長官(公文書館館長と訳される場合もある)とされるデーモン。バールベリトとも呼ばれるが両者を区別する説もある。またソロモン72柱の悪魔ベリスと同一の存在と思われるが区別される場合が多い。
 人間と悪魔が交わした契約書を管理しており、堕天した智天使の長ともされる。修道女に憑依して現れ、ミカエリス神父に悪魔の階級等の秘密を語ったとされる。
 元はバール神の一柱でバール・ベリト(ベリトは「契約」の意)と呼ばれ、その名の通りフェニキア人の契約の神であった。その起源はシケム市の土着神であるらしい。シケムのバール・ベリト神殿には神から授けられたとされる2枚の契約の石版が祭られていたという。これはその後ヘブライ勢力に奪われ、十戒の石版とそのものと見なされたらしい。この石版自体はバビロニアの「天命のタブレット」に起源するものと推察される。

バエル
 地獄の東方を治める大君主とされるデーモン。ソロモン王に封じられた72柱のデーモンの一人であり、しばしばその筆頭として挙げられる。バールと同一であるが時に区別される。ベルゼブブと同一視されることもある。
 ヒキガエルあるいは猫、または人間、時にはその3つともの頭を持ち、蜘蛛の下半身を持つ姿で現れるという。地獄でも最有力の存在で悪魔の66個軍団を配下に持ち、時に悪魔の最高権力者ともされる。
 元々はフェニキア人の主神であるバール神であり、カナーン地方を支配する大神であった。その為ヘブライ勢力から敵視されて悪魔の長とみなされた。バールは「主」の意でありカナーン地方の神々は皆バールの名を持つ。他にも多くの悪魔がバールから派生している。唯一神Y.H.W.H.そのものもバール神から大きな影響を受けている。

バールゼフォン
 地獄の歩哨あるいは衛兵(おそらく正確には獄卒あるいは奴隷頭のようなものを想定していると思われる)の長とされるデーモン。
 奴隷の逃亡を防ぐ力を持つと信じられており、古代エジプトで信仰されていたとされる。
 本来はカナーンの主神バールがエジプトに入ったもので、しばしばバール・ゼフォンと呼ばれた存在である。ゼフォンは元々サフォン(saphon)であり、これは「北」の意でバールの館があったとされるカナーンのサフォン山(バールはこの山の神である)を指す。エジプトでのバールは外エジプトの支配者とされたセトと同一視された。後代にはゼウス・カシウスと呼ばれている。一方でバールはメンフィスの土着神であった創造神プタハとも同一視され、こちらはエルショープ神として崇拝されていた。