第2章 悪夢ふたたび


不安と希望と

地上での冒険が始まる。原宿シェルター救援に向かわなかった場合、初めて地上に出ることになる。まずは、雨風をしのげるところを探さなければならない。脱出したはいいが野垂れ死にでは、シャレにもならないからだ。

初台シェルターを出てしばらく進むと、突然山瀬に出会う。山瀬は、ファームの結界が破れて悪魔憑依現象が始まったとき、さっさと逃げ出してしまったのだ。住民を守るというデビルバスターとしての使命を放棄して。山瀬は、生きるためにちょっと知恵を使っただけだ、などとうそぶく。さらに許せないことに、対科学戦スーツの存在を悪魔側にリークしたのも、山瀬らしいのだ。そのために葛城たちがどれほどひどい目にあったことか。葛城は怒りを露わにするが、そこにひとりの男が姿を見せる。

男は、お迎えに参りました、と言う。だが、人間に対しては決して唸ることのないニュートンが、唸り声をあげている。人間ではないのか。うるさい犬だ、と言って男は正体を現した。なんと、新宿労働キャンプの支配者、堕天使ダンタリオンだったのである。

ダンタリオンは、悪魔学においてはソロモン王によって封印された72柱の魔神の1人で、異相の公爵と呼ばれている。老若男女さまざまな姿をとることができるからだ。手に分厚い本を持っていて、その本には、すべての生き物の過去、現在、未来にわたる思考が書かれているのだが、それを解読できるのはダンタリオンだけであるという。

ところで、男の正体を見破るのは、3人で脱出している場合には英美である。また、ニュートンが瀕死のときであっても、ニュートンはぐったりしながらも懸命に唸ろうとする。主人思いのいい犬だ。

さて、ダンタリオンは、葛城に労働キャンプに来いという。断ればダンタリオンと一戦交えることとなろう。そして、斃すことができたとしても、東京中をあてどもなく彷徨うことになるかもしれない。悪魔やごろつきがうようよしていることを考えると、それは非常に危険だ。だが、だからといってキャンプに行けば、死ぬまでこき使われることは目に見えている……。

実は、ここでダンタリオンに従うことはできない(従いたい、という人もあまりいないだろうが)。ニュートンか、または早坂や英美が抵抗するからだ。戦闘になる。もちろん、ダンタリオンの言うことを聞かなければ、即戦闘。だが、このダンタリオンは、はっきり言って弱い。魔法よりも剣や銃で攻撃するのがよい。ただし、魔法で先制攻撃されると死人が出るので、速攻あるのみ。倒すと、トパーズを落とす。

ダンタリオンは姿を消した。山瀬も捨てぜりふを残して去っていく。そこに、遠くから1台のジープがやってくる。2人の男が乗っている。ジープは葛城の前で止まり、男たちが降りてきた。葛城が初台シェルターの生き残りかどうか尋ねてくる。今度はニュートンも吠えない。信用してもよさそうだ。いきさつを話す。

ふたりの名は、園田哲也と上河公輝。悪魔に対するレジスタンス、ペンタグランマのメンバーである。しかも、園田は元デビルバスターであり、原宿シェルターの生き残りだという。ニュートンと行動している場合は、葛城と同じ初台シェルターの生き残りがすでに2人保護されていることを知る。園田は、葛城にペンタグランマに来ないかと誘う。渡りに船とはこのこと。生活の拠点を確保できるばかりか、憎い悪魔どもと戦うこともできる。葛城は快諾し、ペンタグランマの秘密基地へと向かう。ちなみに、このときニュートンが瀕死だと、ふたりが応急処置を施してくれる。

ペンタグランマ秘密基地

秘密基地は、かつての浄水場(おそらく落合下水処理場)跡にある。もちろん、外からはそれとはわからないようにカモフラージュされていて、地下のスペースを利用している。そういえば、初台シェルターの端末からの情報で、レジスタンスが先月都心部に進出してきた、というものがあった。それがここだったのだ。

葛城たちは、中に入るとまず、オーラ測定器によって悪魔に憑依されていないかチェックされる。悪魔に憑依されていると、オーラ値が異常になるからだという。なお、パーティーの誰かにコンディションの異常があるときは、治療室に運ばれて治療を受けたあと、簡易測定器で測定を受けることになる。

次に、ペンタグランマのリーダー、渡邊伸明に会う(この名前、「健部伸明」と似ているのは偶然か?)。渡邊は、デビルバスターが持っている悪魔に対する知識をかってくれているようだ(注:初台でデビルバスターになれなかった場合でも、以後デビルバスターとして扱われる)。会議室へ向かい、幹部たちに紹介され、正式にペンタグランマの一員となる。渡邊としては、悪魔を味方につけ、自在に操ることができるというデビルバスターの技術を、ゆくゆくはペンタグランマ全体で共有できるようにしたいらしい。

ニュートンと行動している場合、早坂と英美に再会。渡邊や園田たちは気を遣って部屋を出ていく。会議室には3人と1匹。お互いに生き残れたことを喜び合う。だが、西野の姿はない。葛城の考えを察した早坂たちの表情が曇る。

聞けば、西野も含めた3人が地上に出たとき、やはり園田たちに遭遇し、ペンタグランマに参加するよう誘われたのだが、西野だけは断ったのだという。彼は、シェルターを、家族を、そして葛城を守れなかったことで自分を責め、たったひとりで悪魔の跳梁跋扈する東京で生き抜く決心をしたのだ。それは、贖罪の旅。いや、むしろ贖罪のために何をすべきかを探すための、つらく苦しい旅だ。

西野の決意は固かった。その場にいた誰も、西野を止めることはできなかった。早坂と英美はそのときのことを後悔し、葛城に謝る。だが、葛城がその場にいたとしても、やはり止めることはできなかっただろう。

西野の安否は気になる。だが、いつまでもくよくよしてばかりはいられない。新しい行動を起こさなければ。早坂が考えているのは、ペンタグランマの展開する作戦の中で最大級のものである、都庁解放作戦に参加することだった。都庁には、シェルターを潰滅させ、由宇香を喰らった悪魔たちの親玉、バエルが籠城しているという。憎んでも憎みきれない相手だ。早坂の気持ちはよくわかった。

話が終わると、渡邊たちが入ってくる。葛城にも部屋があてがわれる。ただし、園田と相部屋。というのは、もちろん空き部屋がなかったということもあるが、ペンタグランマでは、デビルバスターに対する風当たりが強いらしいのだ。隣室には早坂と上河がいる。英美は女性専用エリアに。

しばらく自由に行動できるようになるので、あちこち回ってみるといい。中は案外広い。話をすべて聞いて回ろうとすると、かなり時間がかかるだろう。全体の位置関係をきちんと把握しておくこと。武器庫や食料庫のほか、薬屋がある。薬屋ではそれまでに入手したアイテムを売りさばくことができる。渡邊のいるフロアでは、いくつかのアイテムも入手できる。

あちこちに、よく訓練された犬が配置されている。犬は霊感が強いから、というのが理由らしい。渡邊のアイデアだという。ところで、伝説では、藤原道長の飼い犬のエピソードが有名である。門の前で犬がしきりに吠えるので、道長が陰陽師安部晴明を呼ぶと、道に厭物まじものが埋められており、その上を通ると呪われる仕掛けになっていることがわかった。そこで晴明が式神を飛ばすと、晴明のライバル道摩法師(蘆屋道満)の仕業と判明。道摩法師は、道長の政敵藤原顕光の依頼で呪いをかけたのだった。

それにしても、こうした実践的な知識を持つ渡邊とは、いったい何者なのだろうか。そもそも、ペンタグランマの存在自体が謎なのだが。初台の端末では、ペンタグランマは非公式に米軍の援助を受けている、との噂を聞くことができた。それはいったい何を意味するのだろう(第11章参照)。

ところで、園田や渡邊も語っていたように、ペンタグランマにおいてシェルター出身者への風当たりはかなり強い。ペンタグランマのメンバーはみな、つらい過去を背負いながら修羅場をくぐり抜けてきた連中ばかりである。葛城たちは、ぬくぬくとシェルターにこもって暮らしてきた、温室育ちのひ弱な奴らだと思われ、見下されている。シェルターが悪魔に滅ぼされていい気味だ、と露骨に言う者すらいる。彼らにすれば、その程度の地獄くらい、何度も見てきたと言いたいのだろう。悲劇の主人公を気取るんじゃねえ、と。

彼らが信じるのは、「力」だけだ。強い者だけが認められる、徹底した実力主義の世界。エリートたちが法と秩序によって支配していたシェルターとは、まったく違う場所なのだ。

新宿労働キャンプ解放作戦

何日か経つと、進展がある(その間、早坂や英美と話をするのを忘れずに)。渡邊から、新宿労働キャンプ解放作戦に加わるよう命じられる。早坂が参加したがっていたメインの都庁開放作戦ではなかったが、それと同時並行で進められている、2番目に重要な作戦だ。これでも渋る幹部たちを渡邊が説得してくれたらしい。

葛城たちに与えられた役目は、陽動部隊。キャンプの爆破と同時にダンタリオンを襲撃し、応援部隊が駆けつけるまで持ちこたえるのである。キャンプの最深部まで侵入しなければならず、かなり危険な仕事だ。要するに捨て駒である。だが、実力を認めてもらえるまたとないチャンスでもある。

まずは武器庫で装備を調える。傷薬なども受け取る。変装して基地の外のトレーラーに乗り込み、一路労働キャンプへ。物資を搬入するフリをするのだ。

途中で遭遇するザコ悪魔を蹴散らし、キャンプに到着。以前歌舞伎町があったところだ。何かを探してひたすら掘り進んでいるという。入り口のところで見張りのバール兵に誰何されるが、適当にごまかして中へ。

しばらく進むと、ペンタグランマの協力者である悪魔人、猫娘がいる。悪魔人とは、憑依された悪魔と融合した人間、もしくは悪魔と人間とのハーフのことを指す。彼女は、後者の方だろうか。猫娘はダンタリオンにうまく取り入って気に入られており、時間を稼いでくれるそうだ。ここで作戦を確認。メンバーは散らばり、作戦開始となるが、猫娘によると、葛城たちが変装するための服が調達できなかったとのこと。

いったいどうするのか。兵士の詰所に案内される。自力で調達しろ、という。そんな無茶な。だが、ほかに選択肢はない。中にはバール兵がいて、当然戦闘に。楽勝である。服を奪い、その場で着替える。英美は娼婦の服を着せられ、上河は稚児用の服を着せられて情けない姿に。変装が整ったら、ようやく作戦の始まりだ。ここからは猫娘とは別れて行動することになる。

固定悪魔(ガーディアン・デビル)を斃して奥へ進むと、そこはバール兵のための歓楽街になっている。歌舞伎町の名残か? 猫娘の知り合いの悪魔人、バーバラの誘導にしたがって進む。化学プラント(注:お察しのとおり某教団の反響である)などがあるエリアへ侵入したら、そこからは自力で進まなければならない。バーバラから薬をもらって傷を回復。出発後は園田が誘導してくれる。地図を持っているらしい。

行動の途中で、園田の警告を無視してあちこち立ち寄るとどうなるか。娼婦のいる部屋では、バール兵と戦闘になる。キャンプで働かされている人々にも遭遇するが、彼らは精神がおかしくなっているようだ。アイテム等はあまり手に入らないので、さっさと作戦を遂行した方がいいかも。誘導してくれるので迷うことはないが、固定悪魔が多いのでうっとうしい。ワンダリングの悪魔は、できるだけ仲魔にしておこう。無駄な戦闘を減らせるからだ。出現するのは、バエル信者タランテラ、屍鬼ボディコニアン、邪鬼オークチーフなど。

奥へ奥へと進んでいくと、園田が焦り出す。爆破の時刻が迫ってきているのだ。そして、さらに進むと、爆発音が。寄り道していたから、というわけでもないが、葛城たちの行動が遅くて規定の時刻に間に合わなかったようだ。そうなるとダンタリオンを足止めしている猫娘の身が危うい。急がなければ。

ダンタリオンがイニシエーションの儀式を行っているという部屋の前まで来ると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。奴は裏切り者の猫娘を締め上げているようだ。部屋に突入すると、ダンタリオンは驚いた様子。だが、さすがに一瞬ですべてを察したようである。猫娘は隙を見て逃げ、助けを呼びに行く。

葛城たちは、ふたたびダンタリオンと戦闘。だが、今度のダンタリオンは、はっきり言って強い。剣・魔法ともに通じにくいうえに、体力も高い。それに対してダンタリオンの魔法攻撃は強烈で、一撃で死者が出る。下手をすると全滅だ。剣・銃と戦闘補助系の魔法を織り交ぜながら戦うのが基本だが、マホロギを使えるなら戦闘を有利に持ち込めるかもしれない。

なんとか斃すことができた――と思ったら、ダンタリオンは煙のようになって逃げ出していく。そこへ、猫娘が呼んできたペンタグランマのメンバーたちが到着。彼らは、ダンタリオンを撃退した葛城たちを賞賛する。応援が来るまで持ちこたえるのが仕事だったのに、強敵をやっつけてしまったのだから。ようやく、実力を認めてもらえたわけだ。

都庁解放作戦

秘密基地へ戻ると、しばしの休息となる。周囲の評価もずいぶんと良くなっている。一方、都庁開放作戦の方は思いのほか手こずっているようだ。基地内をふたたび巡ると、いろいろと情報が手に入る。キャンプの労働者たちはみな廃人同様になっていた、などである。

しばらく経つと、渡邊からまた呼び出しがかかる(きっかけは労働キャンプのときと同じ。つまり、仲間たちと話をしたあと自室で休息すればよい)。都庁に応援に出向いてくれという。今度こそ、バエルと対決することができるわけだ。武器庫で弾薬を補充し、準備を整える。

都庁へ出発。移動は勝手に行ってくれて、しばらくすると到着。中に入ると、そこは修羅場と化していた。遺体がいくつも安置されている。話によれば、3Fまでは制圧したが、そこから上では相当苦戦を強いられているとのこと。悪魔が籠城という高等戦術を使うとは思わなかった、などと言っている。ムールムールの知性の高さを知っている葛城たちには信じられないような発言だ。ペンタグランマには悪魔に対する知識が不足している、と渡邊が嘆いていた意味がやっとわかった。今まで、そのつど犠牲は出しながらも作戦が成功し続けてきたこともあって、悪魔に対する油断が生まれていたのだろう。だが、初台シェルターや原宿シェルターも、悪魔の知性を見くびり、DDMによって潰滅したのだ。人のことは言えないのかもしれない。

ペンタグランマは消耗戦は苦手なようである。時間が経つにつれ戦況は悪化の一途をたどっている。すぐにも救援に……と、その前に、2Fで端末をチェック。ターミナル回線とリンクしている端末では、セーブが可能。もうひとつの端末では、マップデータがダウンロードできる。こちらも忘れずに。

3Fの中央で、先遣隊から作戦の確認を受ける。北塔と南塔があるが、南塔が受け持ちである。どちらかの最上階にバエルがいる。エレベータで上へ。ただし、33Fより上にはエレベータでは侵入できない。つまり、歩いて階段を上って行くしかない。33Fで降りると、出たところはいきなりダークゾーン。視界ゼロである。しかも、ANSが効かない。ダークゾーンは、光のみならず、赤外線や電波などもすべて吸収してしまうので、センサーが働かないのだ。衛星からの電波も届かないらしい。ここより上はマップデータもない。

だが、ここでちょっとしたテクニックがある。階段やエレベータのある場所ではANSが働くので、出たところから一歩下がればいい。そうやってその階の構造をつかんでから攻略を始めよう。実際のところ、都庁は初の本格的なダンジョンなので、この手を使わないとなかなか先へ進めないだろう。あと、ダメージを受けたら一時退却するのも手だ。一方通行のドアがあって、帰るのは楽。3Fまで戻ると、ペンタグランマの仲間が傷を回復してくれる。

どの階でも、階段付近では必ず固定悪魔が出現する。妖獣ヘルハウンド、マシンT−92α、傀儡ボーンゴーレム、降天使ヴォラクなど。それらを蹴散らしながら、上を目指す。落とし穴などのトラップもあるので注意。あちこちで、魔物に殺されたレジスタンスたちの無惨な遺体を目にする。

39F。このあたりがペンタグランマの到達した最前線らしい。少し進むと、息も絶え絶えになって倒れているひとりの男がいる。男は武器や弾薬をくれ、死んでいった仲間たちのためにもバエルを斃してくれ、と頼んでくる。ここで入手できるSS光子弾は、対バエル戦で役立つ。なお、ここから先は、歩いて戻ることができない。その瀕死の男に呼び止められてしまうからだ。エレベータでは戻れるようだが。ここから先も結構道のりは長い。戻って回復することも必要になるだろう。ただし、そのときはもう一度33Fから上り直し。

だんだん敵も強力になってくる。特に堕天使アンドラスには気をつけよう。その攻撃をまともに喰らうと、パーティーに死人が出る。だが、まれに炎の剣を落とすことがあり、これを入手して仲魔に装備させればバエル戦も楽勝だ。だからといって無理は禁物だが。

ダンジョンもかなり複雑。慎重に進もう。無駄な戦闘を避け、会話で仲魔を増やすのもひとつの手だ。特に、妖魔プシュケは魅力的。仲魔にすればリカームが使える。斃すとリジェネレイト7を落とすが、仲魔にした方が得策なのは言うまでもない。リカームがあるのとないのとでは、対バエル戦の厳しさがずいぶん違ってくるのだ。

最上階は45F。フロアの中央まで来ると、アドニスという悪魔がいる。アドニスは、あまり強そうには見えないが、知性は(ムールムールほどではないにせよ)なかなか高いらしく、人間の言葉を操る。彼は葛城たちの力を見くびっており、戦いをゲームとして楽しもうとする。自分が戦うまでもない、と配下の悪魔たちと戦わせようとするのだが、その前にわざわざこちらの傷を癒してくれるのだ。

3連戦となる。2体ずつ計6体の悪魔と戦う。まずは堕天使ガミジンと妖魔プシュケ。次が樹精ドリアードに妖魔クピト。そして最後が、龍王メリジェーヌと妖精ホブゴブリン。魔法攻撃や、魅了などの特殊攻撃には注意しよう。

すべて斃すと、アドニスはかなり驚いた様子。だが、懲りずに葛城たちを全快させた上で、戦おうとする。魔人アドニスとの戦闘。だが、こいつは弱い。めちゃくちゃ弱い。軽く撃破。アドニスは、捨てぜりふを残して逃げ出す。魔法の宝玉を残していくので、それを使ってふたたび全快(ほとんどその必要もないだろうが)。奥の部屋にいるのが、都庁の主バエルである(葛城たちが上ってきた塔の方が正解だったわけだ)。いよいよ決戦のときだ。

部屋の中央奥にある玉座にいる魔王バエル。不敵な笑みを浮かべている。なんとしてもこいつを斃さなければならない。戦闘となる。

バエルは、ソロモン王に封印された72柱の魔神の1人で、かつては「雲に乗る者」「強き者」などの称号を持つカナアンの神バールであり、嵐や雷をつかさどっていた。このことはふたたび取りあげることになるので注意しておこう(第9章参照)。バール神は「王子バール」を意味する「ベルゼブル」とも呼ばれていたが、唯一神を崇拝するユダヤ人によって貶められ、「ベルゼブブ」(蠅の王)と呼ばれるようになった。

中世の魔術書では、バエルは「東の王」と呼ばれ、魔神の中でももっとも醜い者の筆頭に挙げられている。人間、猫、ヒキガエルの頭を持ち、蜘蛛の胴体と8本の足を持った姿が一般的。66軍団を率いる魔界の有力者である。

この大悪魔が弱かろうはずがない。実際、相当苦戦するはずだ。初めてプレイしたときは、ダンタリオンかこいつかのどちらかにやられてしまってゲームオーバー、というパターンが多い。マハザンマやフロッグタン攻撃でパーティーのメンバーが次々と斃されていく様は見ていてつらい。最低ひとりは回復役に徹する必要がある。蘇生手段も確保しておきたい。反撃に転じるときは、魔法よりも剣や銃を使うこと。SS光子弾をありったけぶつけてやろう。

しぶといバエルをなんとか斃すと、葛城は覚醒する。ここまででまだ覚醒していなかった場合は愚者から異能者に、すでに覚醒していた場合は、覚醒者になる。新しい技能を覚える。ここでの覚醒もまた、因縁が絡んでいるのだが、そのことはずっとあとになってから明らかになる(第10章参照)。

勝利の余韻に浸る間はなかった。虫の息のバエルは、最後の力を振り絞って葛城を刺そうとする。そのとき、葛城をかばって飛び出したのは上河だった。上河は胸を貫かれ、死ぬ。そこへ、ペンタグランマの戦士たちが救援に到着。だが、バエルはすでに斃されたあと。彼らは驚喜するが……。上河の死は全員に大きなショックを与えた。ただ、そこは修羅場をくぐり抜けてきた彼らのこと、立ち直りも早い。葛城たちを励まし、基地へ帰還する。

ところで、謎の魔人アドニスについてだが、彼に少し注目してみたい。アドニスには、どのような神話的背景があるのだろうか。

アドニスは、ギリシャ神話に登場する美少年で、穀物と死と復活の神とされている。彼にはいくつかのエピソードがあるので、紹介しておこう。まず、アドニスは、キプロス島のパポスという町の王キニュラスと、その王女スミュルナとの間の子である。つまり、近親相姦によってスミュルナは身ごもったのだ。美の女神アフロディテの呪いが原因だった。不義の子の存在を知った王はスミュルナを殺そうとするが、スミュルナは没薬もつやくの木に変じる。のちに、その木を裂いてみると、中から美しい赤ん坊のアドニスが生まれた。

美しいアドニスは、美を愛するアフロディテに愛された。だが、一時アドニスが冥界の女王ペルセポネに預けられたとき、ペルセポネもまたアドニスの美しさに夢中になってしまった。ふたりの女神はアドニスを巡って争ったが、主神ゼウスが仲裁に入り、結局1年の3分の2はアフロディテと地上で暮らし、残りの3分の1は冥界でペルセポネと暮らすことになったのである。これは、春に芽吹き、冬には枯れる植物のサイクルを象徴しており、アドニスが穀物および死と復活の神とされるのは、このことによる。

のちに、アドニスは狩りの最中にイノシシに突き殺され、アフロディテを大いに嘆かせたが、アドニスから流れ出た血から生じた花は、今ではアネモネと呼ばれている。

この神は、シリアを通って、キプロス島、そしてギリシャにもたらされた穀物神である。誕生から死まで、そのエピソードに何らかの形で植物がかかわっていることからもそれとわかる。そして、アドニスという名は、セム語の「アドーン」すなわち「主」を意味しており、ヘブライ語の「アドナイ」に対応する。つまり、もともとは主神級の神だったのだ。

アドニスについてここまで詳しく書くのは、穀物神が持つ「死と再生」という性質・イメージのためである。第1章で述べたように、これこそが偽典の主題と言っていい。このことはおいおい書いていくことになるだろう。アドニスの「正体」についてもあとで触れる(第7章、第9章参照)。

なお、もうひとつ付け加えておくと、アドニス崇拝において、土を入れた籠または壺に、小麦や大豆などいろいろな草花を播きつけ、女たちが8日間栽培したものを、『アドニスの園』と言った。種はすぐに芽を出すが、根がないのですぐに萎れる。その籠または壺は、死せるアドニスの像と一緒に海か泉の中に投げ込まれたという。これは、植物が芽吹いて適度な水(雨)を得ること、つまり豊作を祈願する儀式であった。共感魔術に分類される魔術の一種である。

「それがどうした?」と思う人は、『真・女神転生RPG基本システム』の、「ブフ系攻撃魔法」の解説を参照してほしい(この本を持っている人がどれほどいるかはわからないが)。そこには、「この魔法は『還らぬアドニスの園の書』に記されており……」という記述があるはずだ。おそらく、『アドニスの園』――――ブフ系魔法という連想がはたらいたのだろう。

祝宴

基地へ凱旋すると、葛城たちは一躍英雄となっていた。渡邊からねぎらいの言葉を受け、休息。早坂も英美も、まだバエルを斃したという実感が湧かないようだ。その後、葛城たちは新拠点である都庁に移ることになる。ジープに乗って、都庁へ入ると、一応は居住区らしく整備されていた。自分の部屋(今度は個室)を与えられ、酒宴に参加する。早坂と園田は北の塔38Fに、英美は南の塔38Fにいる。一躍ヒーローとなったはずの早坂と園田がなぜ個室をもらえないのか……謎だ。

あっちこっち回ってもいいが、聞けるのことのほとんどは酔いどれのタワゴトである。必要なのは、2Fの端末からマップデータとDDSデータ(水妖ネレイド)をダウンロードすることと、B1Fで新しい装備を入手すること。宝箱からアイテムを回収するのもいいだろう。酒宴は3日3晩続く。早坂と園田も結構呑んでいる。さすがに英美はそんなことはないが。北塔の最上階にいる渡邊もさすがに冷静。なかなか新しい作戦に移れなくて困っているようだ。代々木に新しい労働キャンプができたとのこと。親玉を斃されたわりには悪魔どもの動きが静かなのが気になる。ふつうならもっと混乱するか報復してくるかのどちらかだと思うのだが……。

ところで、シナリオの展開とは直接かかわらないが、注意しておいた方がいいことを少し。まず、「ペンタグランマ」という名称。これは「ペンタグラム(五芒星)」と同じ意味であり、実際五芒星がペンタグランマのシンボルマークになっている。南塔最上階の会議室にも、タペストリーみたいな巨大な旗が掲げてある。しかし、五芒星といえば魔法陣でもおなじみの魔術的なシンボルでもある。この意味は?

少しだけヒントを。かの賢者の石が第5元素と呼ばれていたことからもわかるように、5という数は錬金術において重要な意味を持つ。2という偶数と、3という奇数を結合させた、完全な数だからだ。そして、薔薇の花びらは多く5弁である。このつながりが、ペンタグランマの謎を解き明かす鍵となる。

都庁には、労働キャンプから連れてきた悪魔人たちも多数いる。悪魔人については上に述べたが、彼らは悪魔からはさげすまれ、人間からは忌み嫌われる存在だ。ペンタグランマのメンバーたちからさえも、かなり警戒されている。だが、渡邊は悪魔人との共存を望んでいるという。この発想は、結構斬新なものに感じられる。

さて、そうこうしているうちに、都庁はいきなりアドニス率いる悪魔の奇襲を受ける。百戦錬磨のレジスタンスたちも、虚をつかれてはひとたまりもない。あわてて園田とともに渡邊の部屋へ向かう途中、いきなり正体不明の強大な悪魔が姿を見せる。だが、すぐに姿を消してしまう。渡邊の部屋の前まで来ると銃声が。急いで部屋に入ると、渡邊の側に1人の男が転がっていた。顔を撃ち抜かれ、もはや誰なのか判別がつかない。だが、渡邊の方は無事なようだ。渡邊は、作戦の確認をしなければ、と言って葛城たちを残したまま部屋を出ていく。

そこにひとりの男が入ってくる。応援の要請だ。だが、男の案内で3Fまでいくと、なぜか誰もいない。ひっそりと静まり返っている。しかも、様子を調べに行く、と言って去っていったきり男も帰ってこない。葛城たちが不審に思い始めたそのとき、バエル様の仇、と叫んでアドニスが攻撃を仕掛けてきた。だが、その背後から謎の声が(「バールハダド」という名の悪魔らしい)。声はアドニスの軽率な行動を戒める。アドニスは、おまえの指図は受けん、と不服を言いながらも、声の主の力を恐れているようだ。葛城たちは金縛りにあって身動きがとれなくなってしまった。アドニスが取り出した香水の瓶から漂う香りをかぐと、ふたりは意識を失った。

服従か死か、それとも……

葛城は代々木労働キャンプにいる。朦朧とした意識の中、キャンプの中を引き回され、装備を奪われて牢獄に入れられる。周りの様子を調べ、園田のことを考えても、身動きがとれないのではどうしようもない。暴れてみたら何かあるかも。すると、静かにしろ、と言って男が入ってくる。それは、山瀬だった。山瀬は、今度はキャンプの支配者バールゼフォンに取り入っているようだ。葛城に怒りがこみ上げる。だが、山瀬はひょうひょうとした様子。葛城にアームターミナルを返してくれる。ただし、ナビゲーターが壊れており、少し改造してあるとのこと。それだけ言うと去っていく。

そのあとバール兵がやってきて、バールゼフォンのところへ連行される。バールゼフォンの部屋には、園田もいた。バエルを殺した罪で死ぬまで強制労働。バールゼフォンはふたりにそう宣告した。抗おうにも武器ひとつない。またバール兵に連行される。

途中で、用事がある、と言ってひとりのバール兵が去り、彼が帰ってくるまでその場に待機することになる。そのとき泪という名の謎の女性に出逢う。彼女は強制労働をさせられているわけではないらしい。少し会話しただけで、去っていく。バール兵が戻ってきて出発。持ち場とやらに連れて行かれる。

持ち場ではひたすら穴掘りをさせられる。手が痺れながらも、ひたすら掘る。掘って掘って、掘りまくる。当然体力を消耗することになる。このとき、仕事をさぼってあちこちを歩いて回ることも可能だ。途中でバール兵に鞭で打たれるが。

アームターミナルがあるのだから、仲魔を召喚すればバール兵ごときなんとでもなりそうなものだが、なぜかDDSが使えない。山瀬が「改造」したと言っていたのはこのことか。労働者たちは、精神がおかしくなっている人が多い。食事に変な薬が混ぜられているという。すでに正気を失ってバエルに忠誠を誓う者もいる。また、労働キャンプの目的は、古代の鏡を見つけることだという。新宿労働キャンプも同じ目的だったような……。古代の鏡とはいったいなんだろうか。

一定のところまで掘り進むと、作業終了となり、食堂へ連れて行かれる。一列に並ばされ、食事が配給されるが、食べる前にバエルに対して万歳を唱えなければならない。食事にありつけるのはバエル様のおかげ、というわけだ。だが、バエルは死んだはずではなかったのか? とにかく、ここで万歳を唱えるかどうかで展開が少し変わってくる。

このとき、突然目の前が真っ白になって、由宇香のヴィジョンが現れ、葛城に何かを伝えようとする。由宇香は、白いゆったりとした服を着ていて、まるで女神のようだ。その声はとぎれとぎれではっきりとは聞き取れないが、食事を摂ってはいけないと言いたいらしい。超自然的な存在がヴィジョンによって隠された真実を語る――こういうのを黙示という。『ヨハネの黙示録』の黙示である。

園田は断固拒否して拷問室に連れて行かれる。葛城も拒否すると、同じく拷問室へ。そこには、鞭打たれ、全身が腫れ上がった園田の無惨な姿が。葛城も同じ目にあう。もちろんかなりのダメージを受ける。さらに牢獄に連れ戻され、独房に放り出される。言うまでもなくメシ抜き。そこに入ってくるのが、泪である。泪は葛城に食事を差し出す。どうやら味方のようだ。食べると体力が回復(全快とまではいかないが)。泪が去ったあと、いろいろな想いが脳裏をよぎりながらも、葛城は眠りに落ちていくのだった。

2日目、3日目も同じことの繰り返し。穴を掘り、食堂に行き、万歳を拒否すれば拷問室で鞭打ち。独房に泪がやってきて、食事を差し出してくれる。ただ、3日目になると泪もマークされ始めたようだ。これ以上は助けられない、という。なぜ助けてくれるのか、今ひとつはっきりしないまま不安な3日目の夜を過ごそうとすると、部屋に園田が入ってくる。作業中に見つけた針金で鍵を開けたのだという。

園田も、泪に食事をもらっていた。園田は、恩人である泪も助け出した上でキャンプから脱走しようと考えている。自分たちだけでも危ないってのに、まったくデビルバスターってやつは……。

牢獄エリアは悪魔がうようよしているので、逃げ出すのも一苦労である。オークがブッチャーブレードを落とすのでそれを装備できるが、それまでは魔法だけが頼りだ。葛城が格闘戦タイプだった場合、事実上戦えるのは園田だけになるので、MPを使いすぎないように注意しよう。ただし、泪がくれた食事のおかげか、敏捷値が上がっている。

少し歩き回っていると端末が見つかるはずなのでセーブしておこう。あちこちの独房に人々が捕まっているが、薬物にやられて正気を失った人が大半だ。ちなみに、その中に「キョウコ」なる女性がいて、その正体を巡って研究者の間でいろいろと憶測が飛び交っている。なんでも偽典の語られざるバックグラウンドになっているという、メガテンのコミックの中に同名の女性が登場するのだそうだ。とはいえ、没アイテムの情報などから「キョウコ」に関するイベントは削除されたことが明らかになっており、偶然の一致である可能性を否定できるだけの証拠は今のところ発見されていない。

さて、どこへ逃げるかが問題だ。正解は、AMSに記録された道を進むこと。アームターミナルを装備したままあっちこっち引き回されたのが幸いした。もし闇雲に歩き回ったりすると、あっという間に悪魔の餌食になる。なにしろ防具がないのだから。

途中からは園田が誘導してくれる。泪は特別牢に入れられているらしい。そのエリアに行ってみると、悪魔(ツチグモとオルトロス)も捕まっていて、助けると物夫の香と疾風の香をくれる。ただし泪より先に助けないといけない。泪の独房、といっても結構な広さの個室にしか見えないが、そこに入って、一緒に逃げよう、と言うと泪はうなずく。泪はなぜか葛城たちの装備を持っていて、返してくれる。しかも、魔法の薬でふたりは全快。

部屋の外に出ると、山瀬がいた。尾行していたのだ。山瀬はここでも葛城たちを裏切り、看守たちを呼ぶ。だが、装備が戻った葛城たちの敵ではない。泪も侮れない実力を持っている。バール兵どもをすべて斃すと、魔王バールゼフォンが到着。当然奴を斃さなければ先には進めない。戦闘となる。

バールゼフォンは、古代エジプト人に崇拝された神で、奴隷の逃亡を防いでくれる力があると信じられていた。また、メンフィスの船乗りたちに信仰されたというから、航海の神と見なされていたかもしれない。実は、バールゼフォンはバール神のエジプトでの姿なのである。「タルギュム」(タルグムとも。ヘブライ語で「翻訳」を意味し、旧約聖書を翻訳したものを指す。アラム語のものが一般的だが、ここではカルデア語訳。カルデア語とは、バビロン捕囚で有名な新バビロニア王国の言葉。アッカド語の一種らしい。おそらくこの聖書は、捕囚期に作られたものと思われる)の記述では、殺戮の天使がすべての神像を破壊したときでも、バールゼフォンの像にだけは手をかけなかったというが、理由は不明。後世の悪魔学では地獄の衛兵隊または歩哨隊の隊長とされた。

バエルに比べれば、さほどの強さではない。体力はそこそこあるが、肝心の鞭攻撃が弱い。苦戦はしないだろう。斃すと拷問の鞭を落とす。泪に装備させてやろう。バールゼフォンが死ぬと、山瀬は、自分はバールゼフォンを利用していただけだ、と言って去っていく。こいつは、こればっかり。

キャンプを脱出しよう。泪が誘導してくれる。地上を目指してひたすら上へ。寄り道してあちこちの施設に入ると、バール兵などと戦うハメになる。時間の無駄なのでやめておこう。通路で出会う敵は、邪鬼レッドキャップや妖精ジャック・ランタンなど。気を抜きさえしなければ楽勝である。ところで、この時点で、DDSが使えるようになっている。うーん、理由が見あたらない。が、とりあえず、DDSが使えなかったのはアームターミナルのパーツの一部が外されていたからで、それは泪が一緒に返してくれたのだということにしておこう。

キャンプを抜けると、そこは代々木公園駅だった。邪龍ワームが道を塞いでいるので、泪のムドで斃してしまおう。地上に出る寸前のところで、ふたたびヴィジョンが現れる。新宿爆心地と園田が関係するらしい。この時点では何のことかはわからない。そして地上へ。

ところで、もしキャンプの食堂で、ヴィジョンを無視して、連行されていく園田を尻目に万歳を唱えて食事を摂っていたらどうなっていたか。このときも少し体力は回復する。その後独房に戻されるが、眠ろうとするとバエルのヴィジョンが現れる。我を崇めよ……。我を崇めよ……。バエルは繰り返すのだった。

これを3日続けると、イニシエーションの儀式を受ける資格を得る(新宿労働キャンプでダンタリオンが行っていた)。とある部屋に連れて行かれ、そこにはなぜかアドニスが。彼がイニシエーションを授けてくれるという。薬品を飲まされ、意識を失うと、不気味なダンジョンに場面が変わる。恐ろしく長い廊下をひたすら進んでいくと、突き当たりの部屋にバエルがいる。バエルの言葉を聞いたところで儀式は終了。バエルに忠誠を誓ったことになる。属性がCHAOS寄りに。なぜか敏捷値も低下する。

イニシエーション後は労働は免除。個室を与えられる。泪が連れて行ってくれるのだが、部屋の中で泪が誘惑してくる。だが、何も起きない。期待した人、残念でした。以後、キャンプ内はどこでもフリーパス。地上には出られないが。あちこち見て回ると、山瀬もちゃっかり個室をもらっていることがわかる。ツチグモやオルトロスには、愚かな人間と見下される。なぜ彼らが捕まっているのかは、やはり不明のままだ。

労働現場でも、今までとは待遇が違う。バール兵は低姿勢になり、一部の労働者からは羨ましがられる。と同時に、葛城の精神も異常をきたしている。完全に洗脳されてしまったからだ。助けてください、とすがりつく女性に対し、バエル様のために働け、などと口走るのである。そういえば、労働者の女性のひとりが、イニシエーションを受けた夫は私に見向きもしなくなった、と言っていたっけ。

ほかにもいろいろと行けるところは多いのだが、たいして重要なところはない。しかも、キャンプ内はめちゃくちゃ広いので、迷子になる可能性もないとは言えない。ほどほどで帰るように。部屋に戻って眠ろうとすると、園田が入ってくる。一緒に脱出しようと言う。だが、洗脳されている葛城は抵抗する。やむなく園田は葛城を殴って気絶させ、外へ連れ出す。

目が覚めるとなぜか正気に戻っている。かなり不自然だ。イニシエーションはただの催眠術とは違うはずだが。ヒントになりそうなセリフも出てこないし、納得のいく説明は何もない。あえて強引に解釈すれば、園田は泪からもらった食事の一部をまだ持っていて、それを葛城に食べさせたのかもしれない。その不思議な力で、葛城はイニシエーションの呪縛から解放されたのだ――というのはどうだろうか。とにかく、キャンプを脱走しなければならない。だが、園田は泪も一緒に連れて行きたいというので、泪のいる特別牢に向かう。そこから先の展開は同じ。

さて、今回はこの辺で。続きは次回ということに。

補足

第1章に続き、ここでも少し補足を加える。ひとつは、園田について。園田は、なぜ泪を連れて逃げることにこだわるのか。もとデビルバスターの正義感がそうさせるのか。いや、むしろ園田は泪に一目惚れしたのではないだろうか(笑)。生きるか死ぬかの瀬戸際なわけだから、もちろんそんなことを口にするはずもないのだが。

思い出してみてほしい。葛城がある囚人を助けようとしたとき、園田はなんと言っただろうか。その男はいまだ洗脳されていなかったものの、足に怪我をしていて、ほとんど動けない状態だった。それを見た園田は、足手まといになるからダメだ、と言ったのだ(もちろん残念そうにではあるが)。もし園田が正義感に則って行動しているのなら、それでもその男を助けているはずだろう。しかし、そうではないのだ。その一方で、虐待されているようにも見えない泪は、どうしても助けたいらしい。それは、単に女に弱いとかいうレベルではなく、恋愛感情が動機になっているとしか思えない。

だが、もしそうなら、その後の園田の運命、そして泪と葛城の関係を考えると、なかなか皮肉な状況である(第3章、第8章、第11章参照)。詳しくは該当個所を参照してもらいたいが、要するにそこからわかることはこういうことだ――ひょっとすると、園田はアテ馬だったのかもしれない(笑)。

もうひとつの補足は、労働キャンプについて。労働キャンプにはカルトっぽさが漂っている。薬物で無理矢理洗脳して、イニシエーションを行って……。バール教団は「破壊的カルト」という設定なので、当然といえば当然なのだが。某教団の事件の影響があることは間違いない。ただ、ちょっと気になるのは、マインド・コントロール的なものの描き方が足りなかったのではないかということ。洗脳とマインド・コントロールの差は微妙だが、洗脳がその人の価値観を強制的に別のものに置き換えてしまうことを意味するのに対して、マインド・コントロールは自分の頭で考えることを放棄させ、自由意志を奪ってしまう。このへんをゲーム内で表現しようとするとドロドロしすぎるのかもしれないが、もうちょっとつっこんでみても面白かったかもしれない。


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