第6章 シンクロニシティ


新たな出会い

御茶ノ水シェルターが再興したら、次の目標は秋葉原。西野隊長がこちらへ向かったという話もある。御茶ノ水シェルターの情報からも、秋葉原から銀座へ向かうルートが正解のようだ。秋葉原駅ビル(旧アキハバラデパート)は、御茶ノ水シェルターのやや北に位置する。すぐに見つかるだろう。

葛城たちが建物の中に入って歩き出したとたん、ひとりの男とぶつかった。彼は軽く謝ったあと、葛城のアームターミナルに興味を示し、話しかけてくる(このとき瀕死だと、応急処置をしてくれる)。こちらが初台出身のデビルバスターであることを告げると、彼も最近まで、初台のデビルバスターと行動をともにしていたと答える。

そのデビルバスターとは、やはり西野隊長だった。男がいうには、西野とは宿を求めて鬼子母神に立ち寄ったときに知り合い、以後いっしょに行動していた(西野は鬼子母神も訪れていたのだ)。そして、西野にはずいぶんと世話になったとか。

勢い込んで西野の消息を訪ねる。すると、男の顔が曇った。言いにくそうに口を開く。「西野……さんは……死んでしまった」。護国寺でアスタルテの強襲を受け、その炎にやられたのだという。西野隊長が死んだ……。衝撃的な事実に、葛城たちは言葉も出なかった。

男は、1枚のカードを葛城たちに差し出す。それは小さなプロジェクターで、スイッチを入れると、陽子と知多が寄り添い、微笑む姿のホログラムが映し出された。西野の、唯一の形見だった。「これは君たちが持っていたほうが良さそうだ。君たちがいま、一番西野さんに近い人のようだからね」。男は静かにそう言った。

相馬三四郎。それが男の名だった。葛城たちも自己紹介する。相馬は、大破壊前に一緒に行動していた仲間たちを捜しているのだそうだ。廃墟で悪魔にやられて(サイバーアームの)片腕を無くしたため、新しいサイバーアームを仕入れに秋葉原にやってきた。そのあとは、銀座に向かおうと思っているらしい。進む方向が同じだと知ると、パーティーへの参加を申し出てくる。出現する悪魔が強力になってきて、パーティーの戦力に少し不安が出てきていたところだ。ありがたく受けることにする。これでふたたびパーティーは3人に。

余談だが、ここでちょっと疑問がある。まず、サイバーアームを仕入れにきたはずの相馬は、秋葉原を出るところだったのに、サイバーアームを装着していない。気に入ったものが見つからなかったのか。もうひとつは、相馬の年齢だ。若く見えるが、大破壊前にすでにそれなりの年齢だったようだから、下手すると30歳以上ってことに……。謎だ(偽典の設定が2012年以降であることについては、追補A‐1第6節参照)。

さて、建物の中を回ってみよう。さすがに元電気街だけあって、たくさんの店が並び、サイバネティック用のパーツ類が所狭しと置かれている。市ヶ谷よりもずっと安上がりだが、その代わりジャンクも多いらしい。住人も雑多で、ミュータントや悪魔人も少なくないそうだ。

B1Fには邪教の館とコンピュータ端末があり、端末からはセーバーIIIを入手できる。3Fにはターミナルが設置されているが、Windows版では、少し先のイベント(次節参照)が終わるまで利用できないようだ。

コンピュータショップは、やはり品揃えが豊富。初台の端末情報では、『DCSマブダチくん』を宣伝していたが、ちゃんと置いてある。10,000マッカもする高級品だが、悪魔との対話で友好度がアップする。といっても、目に見えるわけではないので、あまりお買い得感はない。別の場所で入手できることもあって、無理して買う必要はない。ちなみに、同じく初台の端末情報によれば、これらのソフトはネットを通じて各シェルターにも販売されていたようだ。

1Fの防具屋は、仲魔用の装備が多く、あまり見るべきものがない。2Fの武器屋には、なかなか強力な銃や弾薬がある。が、御茶ノ水シェルターや神田地下街を凌ぐというほどではなく、買い忘れているものがあれば買えばいい、という程度。また道具屋は、手榴弾類(GNDはグレネードの略で、手榴弾の意)が各種そろっているが、これも大して重要ではない。ただ、M47ドラゴンATMは手榴弾の強化版として使える。残念ながら薬屋は、ありきたりの品揃え。

コラム:天叢雲剣レプリカ

武器屋に4,100マッカで売られている、天叢雲剣あめのむらくものつるぎレプリカ。これは、面白い性質をもっている。それ自体はレプリカにすぎず、威力はないのだが、霊力を吸収すると別の強力な武器に化けるのだ。たとえば、これを代々木オリンピックプールの地下の泉に持っていくと、氷狼剣と交換してくれる。ただ、氷狼剣にパワーアップした天叢雲剣レプリカを返してくれているわけだから、厳密には「交換」とはいえないのだろうが。なお、調子に乗って氷狼剣をジャックフロストに向けて振り回したりしないように。きっと、とんでもない目にあうだろう。

秋葉原にも、都庁がふたたび悪魔の手に渡ったニュースが伝わっている。攻め込まれた際、ペンタグランマは大将を失った軍のように、統制がまったくとれていなかったという。また、新宿に近づくにつれて悪魔が凶暴化しているという噂がある。が、これは事実ではない。都庁周辺に出没する悪魔は、以前と同じだ。また、マイシテーも悪魔の手に落ちた、という話も耳にするが、これもデマである。どうやら、情報が錯綜しているようで、それだけペンタグランマ潰滅のインパクトが大きかったということなのだろう。

2Fでは、カズミとばったり出くわす(このとき瀕死だと、薬を飲ませてくれる)。御田急ハルク以来だ。あのときは、園田や泪もいっしょだった。カズミにいきさつを話す。彼のほうは、メイを平沢博士に預け、修行のため各地を放浪しているらしい(第5章2節参照)。博士から、「アリス」を捜し出して連れ戻してほしいと頼まれているそうで、それも旅の目的になっている。こちらが銀座へ向かおうと思っていることを話すと、銀座にはイシュタルという女神を崇めるふたつの教団があること、それから、バール兵たちも多いことを教えてくれる。

いまのパーティーにさらにカズミが加わってくれれば、願ったり叶ったりである。しかし、カズミはひとりで修行を続けるという。メイを一人で守りきるための力を磨きたい、と。挨拶を交わして去っていくカズミ。彼とはまた別の場所で再会することになる(第7章1節参照)。

背徳の医師

葛城たち一行が秋葉原駅ビルを出て歩き出そうとしたそのとき、ひとりの謎の男が現れる。男は小柄で丸いメガネをかけていて、いかにも怪しげな風貌だが、さらに怪しいのは、広げたマントになにやらガラクタをいっぱい引っかけていることだ。どうやらジャンク屋のようである。

男は、デビルバスターの制服を一着取り出し、1万マッカでどうだ、という。それを見たとたん、英美の表情が一変した。男からその制服をひったくり、ジャンク屋の非難をよそに熱心に眺め始めた。

その制服は、早坂のものだった。これをどこで手に入れたのか? 聞き出そうとするが、人に教えちゃ商売あがったりだ、といって男は口を閉ざす。この手合いは、下手に出ても図に乗るだけだ。口を割らせるには力ずくで……。

英美が銃を空に向けて撃ち、相馬が剣を抜いて男の首筋に突きつける。こっちは戦闘経験を積んだ戦士が3人。このご時世に、おまえひとりがここで野垂れ死んでも誰も気にかけちゃくれねぇよ、と相馬が脅すと、さすがに相手も怯えてしまった。喋る気になったようだ。「ものわかりがよくて助かるわ」と英美の決めぜりふ。

かなりDARKなやり口である。それに、相馬はともかく、英美の言動も過激だ。シャンシャンシティで泣いていたころとは、別人のように見える(笑)。

ジャンク屋の話では、制服はミレニアム総合病院のゴミ捨て場で見つけたらしい。そこに早坂がいるのだろうか。葛城たちは、急いでそこへ向かう。場所は、秋葉原の東、かなり遠いところに位置するのだが、ここでは移動を省略してすぐに到着する。

病院内で話を聞いて回る。建物は、地上2階、地下1階という構造になっている(1Fには薬屋と治療施設がある)。当初は早坂に関する情報がなく、らちが明かない。とはいえ、英美が止めるので外に出ることもできない。

階段を下りてB1Fの地下病棟へ。しばらく歩くと、例のジャンク屋にまた遭遇する。驚いて逃げ出すジャンク屋。いったん行方を見失うが、同じフロアの南西の部屋で、ふたたび見つかる。

「クソッ! ここもバレちまったか」。その男が毒づいた。テーブルの上には、いろいろなガラクタや古着が並べられている。部屋は、病院のゴミ捨て場だった。ふつうのゴミだけでなく、患者や、治療の甲斐なく亡くなった人々の持ち物が廃棄されているのだという。ジャンク屋はそれを漁っているわけである。世の中リサイクルだ、と男はうそぶいた。

早坂の制服もここで見つけたのだという。それ以上のことは、本当に何も知らないようだ。男を解放してやると、抜け目なくテーブルの上にあったものをまとめ、さっさと逃げていった。

自力で捜すしかないようだ。ジャンク屋のアドバイスに従い、制服を見せながら病室を丹念に尋ね回る。退屈している男の子の話し相手になってあげると、葛城と似たような服を着た人がこの前運び込まれてきた、と教えてくれる。1F・2Fで、医者や看護婦にその患者の話を聞いてみる必要がありそうだ。

話を聞いていくうちに、一週間ほど前、大火傷を負った大柄な男が急患として運び込まれてきたらしいとわかる。その男は、この制服っぽい服を着ていたという。そして、ひとりの医師が、決定的な情報をくれる。大火傷を負った患者は、持ち物から名前が判明した。やはり、早坂だった。手術を担当したのは、山本という医師。彼は、B1Fにいるとのこと。

ちなみに、早坂の情報のほかに、この病院と死体回収業者が癒着しているという噂も聞ける。誰かが死体を売り払っているというのだ。だが、病院で死人が出るのは、日常茶飯事。死体の管理もたいへんで、癒着の証拠がなかなか掴めないでいるらしい。

地下の病棟へ戻り、ゴミ捨て場近くの部屋で山本医師を発見。早坂の安否を丁寧な口調で尋ねる。医師のようにプライドの高い人間を相手にするときは、最初は下手に出るのが得策というものだ(ただ、威圧的に聞いた場合でも、結局は同じ展開になる)。すると山本医師は、「彼は亡くなったよ」とこともなげに言う。手は尽くしたというのだが。

ところが、英美がジャケットを取り出すと、それを見た山本医師は一瞬驚いたような表情に変わった。本来なら遺体とともにケースに入れておくはずの遺品が、なぜゴミ捨て場にあったのか。しかも、使い込まれているとはいえ、まだきれいなものを。死体回収業者との癒着の話もさりげなく交えながら、相馬が鋭い質問をぶつける。

それに対し、山本医師は巧みにしらばっくれる。遺体についても、関係者以外には見せられない、の一点張り。だが、会話をアームターミナルに録音されていることを知ると、観念した山本医師は、ついに降参して白状する。

遺体は業者に売った、という。秘かに死体回収業者と癒着していたのは、彼だったのだ。さすがに、神出鬼没に東京中を動きまわる死体回収業者がどこへ行ったのかはわからない。だが、死体の買い付け先は、たいてい市ヶ谷の研究室だという。そういえば、初台の端末情報でも「臓器移植用の各種パーツを求めている」というのがあった。あれは死体もふくめて、ということだったのだろうか。とにかく、日下章人から話を聞いてみなくては。

今度は、市ヶ谷シェルターまで陸路で移動しなければならない。日下に会って尋ねてみると、彼は、死体回収業者から死体を購入していることをあっさり認めた。あくまで研究用、ということらしいが、ずいぶんドライに割り切った考え方だ。こういう人間は、やはりふつうの人とは道徳観が少し違うらしい。

大火傷を負った、背の高い男の遺体がなかったか尋ねると、日下には思い当たる節があったらしく、培養槽エリアへ向かう。培養槽の中には、変わり果てた早坂の姿があった。大火傷の痕は修復されていて、いまにも動き出しそうにさえ見える。たまらず英美が駆け寄る。だが、早坂はもはやこの世の人ではなかった。最後の望みも絶たれ、英美はその場に泣き崩れた。

しかし、日下によれば、長時間が経過した死体であっても、肉体のみなら蘇生させることは可能だという。それは中身のない器のようなもので、赤子のように何らの記憶ももってはいない。だが、それでもいい、と英美は言った。泣き腫らした目に、固い決意を宿らせて。早坂を蘇らせてほしい、と。

とはいえ、蘇生には莫大な費用がかかるという。そこで、英美は日下のもとで働くことを申し出る。シェルターで学んだ最新医学の知識が役に立つはずだ、と言って。生き返らせるための資金を、ここで稼ごうというのだ。それを聞いた日下は唖然とした表情を浮かべたが、すぐに笑い出した。

面白い、と日下はいう。最近外来の患者が増えてきて、研究に専念できなくなっていたところだ、とも。それに、最新医学の知識がある人間もそう多くはない。英美は採用され、助手として働くことになった。

愛する恋人を失った悲しみが、逆に彼女を強くした。たとえ何年かかっても、早坂を生き返らせるまで働くつもりのようだ。蘇生に失敗したり、成功したところで後悔する可能性も、すべて承知の上である。葛城には、そこまで心を決めた英美を引き留めることなどできなかった。

また、ふたりで旅を続けることに。いよいよ銀座へ向かう。なお、以後も英美とは市ヶ谷シェルターで会える。彼女の部屋は、日下の部屋の向かい側にある。また、ミレニアム総合病院も、通常の医療施設として利用できる。あの山本医師は、死体回収業者との癒着の責任を問われ、免職になったようだ。

コラム:早坂の復活

偽典中最大の謎、それが早坂復活イベントだ。これまでの研究でこのイベントが起こることは確実視されているが、その発生条件は依然不明である。イベントの内容はごくあっさりとしたもので、英美がいた部屋と早坂の培養槽があった場所のメッセージが変わり、日下の発言も多少変化する。

それによると、英美が早坂を蘇生させてシェルターを去り、ふたりで渋谷方面に向かったものの、日下でさえもその消息にはわからないことが多い、という。だが、考えてみると、この展開には疑問がある。早坂になんの記憶も残っておらず、赤子のような存在に戻ってしまったのだとしたら、ほとんどコミュニケーションがとれないはずだ。そんな人間をどうやって渋谷まで連れて行くのか。身体は大人だから負ぶっていくわけにもいかないだろうし、もしそれができたとしても、危険すぎるだろう。

そうなると、蘇生した早坂に記憶がない、という前提がそもそもおかしいということになる。死体の体細胞からクローンを作るわけではなく、活動を停止した細胞組織を再活性化させるのだとしたら、脳細胞もある程度は復活するはず。たしかに、霊魂が戻れば記憶はすべて戻る。しかし、霊魂が失われても、すべての記憶がなくなるわけではないだろう。つまり、蘇生した早坂は、記憶喪失ではあるが、言葉や経験のすべてを失ってはいないという状態なのだ。それなら、いっしょに渋谷に行くよう説得することもできただろう。

では、なぜ渋谷なのか。それは、渋谷が天使に守護された街だということと関係がある(第10章、第11章参照)。市ヶ谷の最先端の科学技術をもってしても早坂の記憶を元に戻すことができないのなら、あとは神の奇跡にでも頼るほかない。ひょっとしたら、大天使ガブリエルの力によって、早坂の霊魂、そして記憶が戻るという展開が想定されていたのかもしれない。実際にはそうしたイベントは用意されなかったわけだが。

なお、蘇生時に記憶が全部失われるという設定のほうを貫くとすれば、早坂復活イベントは矛盾してくるので、削除しておくべきだったといえよう。もしくは、完全に記憶を失ったまま早坂が復活し、英美が元の恋人に対し母親のような愛を注ぐ、といったイベントを設けるなどの配慮をしてもらいたかった。

奇襲

銀座へは、地下鉄日比谷線の路線を通って、地下から行くことになる。日比谷線のホームは、秋葉原駅にある。秋葉原駅ビルを出てすぐのところだ。ちなみに、有楽町線を護国寺駅で降り、しばらく歩いて千駄木駅から千代田線に乗ると大手町に出られてしまう(DOS初期版)。大手町から銀座へは歩いていける。が、これはバグであり、あとの展開に支障をきたすおそれがあるので、お勧めできない。

秋葉原駅前。そこには、おびただしい量の瓦礫が積み上がっており、入口が塞がれてしまっていた。思案に暮れていると、相馬がつぶやく。「これくらいなら何とかなるかもしれない……」。相馬が「土蜘蛛!」と一声呼ぶと、地中から本当に土蜘蛛が現れた! タオの式神の術のようにも見えるが、呪符を用いないところからすると神通力の一種らしい。

土蜘蛛は相馬の命令に従い、あっという間に瓦礫の山を崩していく。道の脇に瓦礫をどかせてしまうと、入口が現れた。相馬からねぎらいの言葉を受け、地面の中へと消えていく土蜘蛛。このような術を操る相馬三四郎とはいったい何者なのか。

コラム:相馬三四郎

相馬三四郎は、コミック版『真・女神転生 東京黙示録』とつながりのあるキャラクターだ。偽典の正式なタイトルも「偽典・女神転生 東京黙示録」で、コミック版と偽典はストーリーが一部つながっている。コミック版を踏まえたうえで、偽典というゲームが制作されたのだ。

コミック版の主人公は相馬小次郎といい、平将門の生まれ変わりだという(第9章1節参照)。相馬三四郎の兄である。ちなみに、『真・女神転生RPG 基本システム』(参考文献参照)のツチグモの解説には、「コミックでも、相馬小次郎を国津神の盟主と仰ぎ、忠誠を誓っている」とある。相馬三四郎が土蜘蛛を使役できるのは、兄が「国津神の盟主」という立場にあるからなのだ。

駅へ入って日比谷線の線路に降り、しばらく進むと、銀座に到着。階段をのぼると、そこは銀座地下街(B1F)である。ここはけっこう広い。施設が充実していて、しかもいくつもの路線が乗り入れている(日比谷線のほか、丸の内線や銀座線がある)ので、これから先も重要な拠点となるだろう。

まずはターミナルでセーブ。その後、街を回ってみよう。武器屋、防具屋ともにそれなりの品揃えだが、仲魔用のものが多い。ただ、漆黒の手袋とレッグチャージャーは買っておいて損はない。コンピュータショップには、秋葉原よりグレードの高いソフトさえある。セーバーがIからIVまで並んでいるので、まだインストールしていないものがあれば、入手しておいたほうがいい。

道具屋、薬屋は並。病院では、仲魔も含めて治療してくれるのでありがたい。酒場からはいくつかの有益な情報も。近くに、『イシュタルの槌』と『母なる金星』という教団があるようだ。

そのほか、住人たちが教えてくれるところによると、六本木には悪魔が仕切る大歓楽街があるそうだ。また、大破壊前の地下鉄の駅に、幻の新橋駅というものがあったとか。それから、新橋駅の幽霊電車の噂。真っ暗な夜、新橋駅に運転手さえ乗っていない無人の電車がやってきて、乗客を品川方面に連れて行くという。

ところで、ちょっと奇妙な感じがしないだろうか。これだけ広い地下街にもかかわらず、ふつうならあるはずの邪教の館が見あたらない。しかも、ターミナルからAMSデータをダウンロードしたはずなのに、マップが表示されない。これはなにかあるはずだ、と思ったあなたの勘は正しい。ANSに頼り切りではわからないのだが、AMSとにらめっこしながらくまなく歩き回ると、隠し通路が発見できる。その通路の近くにいる男が、幽霊云々と怪しげな話をしているので、聞き逃さないようにしよう。

通路の先から転移して、隠しエリアへ。ここにも住人たちがいる。無料で体力を回復できる泉や、邪教の館が存在する。端末があり、今度はちゃんとAMSデータが登録されている。そして、このエリアにある薬屋は、他では手に入らない貴重な薬を売っている。ソーマや千呪万病撃滅内服薬などをいくらか買っておきたい。ただしソーマは8,000マッカと、かなり値が張る。

コラム:特殊なドラッグ

裏の薬屋には、フィトストーン、フルムーンライト、イグナイターという3種類のドラッグが置いてある。アイテムの説明によれば、肉体を一時的に強化してくれるはずなのに、実際にはそうならない。それどころか、なんの効果も発揮しない。

どうやら、設定データがおかしいらしい。3種類のドラッグは、内部的にはどれも同じアイテムとして機能しており、しかも、参照すべきデータをもっていないのだという。つまり、事実上の没アイテムである。残念ながら、買うだけ無駄ということのようだ。

ただ、未確認だが、人間のキャラクターに使用すると、HPが最大値の状態でも、いきなり瀕死になるという報告もある。たしかに、イグナイターの説明には「使用後は文字通り、燃え尽きる」とあり、そうした現象が起きてもおかしくない。しかし、パワーアップする効果のほうは発揮されないのだから理不尽である。DOS修正版やWindows版では、中途半端に修正されている、ということなのか。

ターミナル近くと、もう1ヶ所に上り階段があるので、そこから地上へ。1F東口にはイシュタル信者ガーディアンとシストラムが2体ずつ、西口には水妖アプサラスと幽鬼マンイーターが数体ずついる。アプサラスは接近戦で侮れない力をもっているので、敵に回さないほうが賢明だ。

外へと足を踏み出す。暗雲立ちこめる中、葛城たちが歩き出すと、目の前にバール兵が現れる。「葛城史人だな……」。凄みのある声で、バール兵が言った。と、次の瞬間、襲いかかってきた! バエル信者クラレと戦闘になる。ザコなので、最初は軽く撃破できる。ところが、斃しても、斃しても襲撃はやまない。次から次へとバール兵が出現する。だんだん不安になってくる。いつになったら終わるのか……。

実は、終わらないのだ。悪逆非道のイベントである。こちらが全滅するまで戦闘は続く。だが、最初にプレイしたときにそんなことがわかるはずもない。筆者などはハマったと勘違いし、リセットしてしまったくらいだ。しかし、それではいつまでたっても先へ進めない。

葛城たちのこの時点での実力を考えると、そうやすやすと全滅したりはしないはずである。ダメージを受けても、レベルアップしたら完全回復だ。本当にいくらやっても終わらない。DOS版ではパーティーアタックが可能なので、1レベルくらい上げてから、味方を攻撃して殺してしまうのが一番手っとり早い。一方、Windows版の場合はそれもできない。こちらからは手を出さず、ひたすら敵の攻撃を受け続けるしかないのだ。

いずれにせよ、クラレのディザームには注意が必要である。相馬がくちなわの剣(「緊縛」の追加効果がある)を叩き落とされると、パラメータ不足で再装備できないからだ。また、DOS初期版のバグで、アイテム欄に埋められない空白ができてしまう場合もある(空白の消去プログラムにつき、参考・関連文献参照)。

どうせならムールムールのときのように、全然歯が立たないような悪魔に襲わせるとかしてほしかった。事実上自殺しないと進まない(1時間以上粘った人もいると聞く)という展開は、ゲーム設計上あまりうまいとはいえないだろう。とにかく、そういうことなので、全滅してもゲームオーバーにはならない。力尽きた葛城たちの意識が遠のいていく……。

イシュタル教団

意識を取り戻したのは、ベッドの上。周りを見渡すと、小ぎれいな部屋だった。身を起こす。そこに、ひとりの妖艶な女性が入ってくる。肌も露わな格好をしたその女性は、ベッドに腰を下ろすと、葛城の身体を調べはじめた。ふつうの街の住人ではないらしい。女性は、葛城の傷が癒えたことを喜ぶと、葛城の身体をまさぐり、巧みに服を脱がせようとする。抵抗してもしなくてもいい。抵抗しない場合、全裸にされた葛城の身体を女性が愛撫していき……。

その女性の話では、葛城たちは銀座地下街の入口付近に倒れていて、周りにはバール兵たちの死体もたくさん転がっていたという。発見した彼女らの手によって、ふたりは母なる金星の神殿に運び込まれた。彼女たちは、ここの巫女なのだ。相馬も、同じ階(3F)の別の部屋にいるという。すぐに無事を確かめに行かないと。

相馬は、3Fの階段前の部屋で見つかる。中を覗くと、いままさに、葛城と同じように巫女に迫られているところだった。彼は衣服を取られまいと、必死で抵抗している。が、葛城がやってきたことに気づいた巫女は、席を外してくれた。

相馬と合流。互いの無事を喜びあう。彼も、ここが母なる金星の神殿だと気づいていた。とにかく命を救われたのだ。長にお礼を言いに行こうというので、部屋を出て歩き回る。巫女たちは、みんな葛城たちのことを知っていた。大の男ふたりを神殿まで運び込むのに、かなりの人数を要したというから、知っているのも当然か。

ちなみに、この時点で外に出ることはできない。バール兵たちに襲われる危険がある、といって巫女たちに止められてしまうのだ。また、相馬と再会する前にこの神殿の長に会うこともできるが、話は葛城が相馬に会ってから、と相馬の部屋に行くことを促される。

最上階(4F)中央の部屋。扉の前に巫女がいて、そこが長の部屋だとわかる。中では、柔らかな花の香が立ち込めていた。奥には美しい女性が、穏やかな笑みをたたえて佇んでいる。軽やかな衣擦れの音。その高貴な風情の女性が、穏やかな口調で話しかけてきた。「おふたりともすっかり傷が癒えられて、私も安心しました」

相馬が、その女性に向かって質問をぶつける。なぜ、自分たちを助けてくれたのか。彼女は、居住まいを正すと、変わらぬ穏やかな口調で話を続ける。彼女の名は、角生静那という。息子の角生かづさとともに、女神イシュタルを現世で最も尊い神と信じるふたつの教団、『母なる金星』と『イシュタルの槌』をそれぞれ率いている。

母なる金星は、イシュタルの母なる愛を司り、何人をも拒まぬ無償の愛を教義の中心に置く。信者は女性だけで、その身をもって、救済を求める人々に愛の教えを説いているという。一方、イシュタルの槌は、イシュタルの偉大な神としての力を司り、現世におけるイシュタルの復活に備え、数々のいにしえの神話に基づく準備を行っている。そして、かづさは両教団(俗にイシュタル教団と呼ばれる)の最高位、「聖王」の地位に就いており、聖王はイシュタル復活に欠かせない存在なのだそうだ。

イシュタル教団とバール教徒とは、敵対しているわけでもなければ、手を結んでいるわけでもない。そのため、バール兵が葛城たちを襲った理由については、彼女もわからないという。だが、慈善行為として葛城たちを助けたのではないらしい。「その理由をご説明するためには、あなたがたに、かづさに会っていただかなければなりません」。静那の言葉は、穏やかながら有無をいわせぬ感じがある。相馬は、葛城に判断を任せる、と言ってきた。

助けてもらった恩もあるし、はじめからOKすればいい。それに、断固として拒否しても、最後は相馬に抑えられ、かづさに会うことになる。選択の余地はないわけだ。ただ、断っていると、もう少し静那から情報を引き出せる。葛城たちの命を救ったのはかづさの意志だったこと。教団は葛城だけでなく、由宇香のことまで知っているらしいこと。それらは、教団全体にかかわる重大な機密事項に触れる。だからこそ、聖王自ら葛城たちに話す必要があるのだという。

イシュタルの槌の神殿へ。角生かづさがいるのはやはり最上階(4F)だ。部屋ではむせ返るような、濃厚な動物系の香が焚かれていた。そして、奥からは女性のあえぎ声。それも複数。何をやっているのかは言わずもがなである。静那が丁寧な言葉遣いで葛城たちの到着を告げると、かづさは、遅かったじゃないか、と返事をして女性たちを下がらせた。どうも親子の会話ではない。教団上の地位が優先するらしい。

しばらくすると、上気した顔の巫女たちが軽やかな衣擦れの音を響かせながら現れた。静那に恭しく一礼し、部屋を出ていく。続いて、かづさのお出ましだ。驚いたことに、彼は少年であった。葛城よりも若いようだ。だが、物言いは子供のそれとは思えないほどしっかりしている。

かづさは、自分こそが「イシュタル様に選ばれし者」だという。イシュタルの過去世であるイナンナに身込まれ、龍イルルヤンカシュをうち倒した狩人神(英雄フパシャシュのことだろう)。イナンナの寵愛を受けたその狩人こそ、聖王たる角生かづさの前世の姿だというのだ。

かづさたちは、イシュタルの現世での復活を望み、その転生体を探していた。そして、発見された転生体こそ、橘由宇香だったのだ。ところが、由宇香は悪魔たちの手によって無惨にも八つ裂きにされてしまった。しかし、それがイシュタル覚醒のきっかけになったというのである。由宇香の身体は悪魔どもに喰らわれたあともなお、汚れることも朽ちることもなく、生き続けているのだ。

葛城が由宇香と、つまりイシュタルと前世でどんな繋がりがあったのかはわからない。だが、イシュタルを復活させる使命に突き動かされていることは確実だという。由宇香を復活させたとき何が起こるのか、その意識が戻るのか、それは定かではない。しかし、一度覚醒を体験したあとに真の覚醒に至るのはそれほど困難ではない、とかづさは語る。その言葉に、相馬も深くうなずいた。とにかく、由宇香を蘇生させるところまでは、両者の利害が一致しているわけだ。教団を挙げて葛城たちに協力は惜しまないとのこと。施設の設備も自由に使わせてくれるそうだ。

さらに、葛城に紹介したい人がいるという。静那が奥の部屋から一人の女性を連れてくる。その女性は、由宇香の実の母親、橘桐子だった(旧姓。なお、設定上は冬子。読みは同じだが)。彼女は、よほど恐ろしい目にあったのか、記憶喪失で、しかも正気を失っていた。たぶん、原宿シェルターが悪魔に襲われたときのショックが原因だろう。それでも橘桐子だと判明したのは、彼女が肌身離さず持っていた、ペンダントタイプのホログラフ投影機のお陰だった。

彼女はいま、教団の保護を受けており、ほかの巫女たちのような活動も行わせていないそうだ。あまり興奮させるとよくないというので、静那がすぐに下がらせた。「さぞやご心配でしょうが、安心して任せてください。決して悪いようには致しません」。かづさはそういうのだが、彼らの真意はいまいちはっきりしない。葛城に信用してもらうためなのだろうか。ていのよい人質という気もするのだが……。

かづさが、教団として葛城たちに協力する意志があることを再度述べ、会見は終わる。そのあとは自由に行動できるようになるので、イシュタルの槌の神殿内を歩き回ってみよう(ちなみに、母なる金星と同様に泉があり、無料で体力を回復できる)。話を聞いていくと、かづさは、教団の指導者というよりは、もはや崇拝の対象のようになっている。聡明で容姿端麗。母親である静那からも深く愛されているそうだ。心酔しきっている信者も多い。

信者たちは、みなイシュタルの復活を心待ちにしている。イシュタルが降臨すれば、東京中を跳梁跋扈する悪魔たちもおとなしくなるだろう、と。そのため、(ほぼ)同じ目標をもつ葛城にかなり期待しているようだ。

ただ、イシュタルが復活した暁には、聖王たるかづさが、イシュタルと結ばれる運命にあるという。もしそれが本当なら、葛城にとってあまりいい話ではない。それに、静那は我が子を失う運命にあるというのだが……。これは何を意味するのか。

母なる金星にも戻って、情報を収集しておこう。ここでは、巫女が男たちに「女神の愛」を注いでくれる。早い話が、御茶ノ水シェルターや銀座地下街の情報にもあったように、フリーセックスが教義なのだ。老いも若きも、男たちはみな、その愛を求めてここに集まってくる。バール兵さえも例外ではない。彼らは、巫女たちが外出する際護衛までしてくれるという。そして、神殿内ではバール兵といえども葛城たちに手は出せないのだ。

母なる金星の指導者である静那もまた、巫女たちの間では憧れの的。だが、どうやらそれだけではない。事実上教団全体を取り仕切っているのは静那のようなのだ。かづさが就いている聖王という地位は、教団の象徴としての要素が強いように見受けられる。

コラム:二面性の表現

イシュタルは古代バビロニアにおいて豊穣、性愛、金星、戦闘などを司る女神であった。同時に美の女神でもあり、娼婦たちの守護神ともされた。このイシュタル神がギリシャに入ってアフロディテ、エジプトに入ってイシスとなったのである。アフロディテはローマではビーナスとして金星に割り当てられたが、それはその出自と関係があったのだ。さらに、イシュタルは好戦的なアッシリアでも戦争の女神として崇められた。

母なる金星とイシュタルの槌は、このイシュタルの二面性に対応している。すなわち、母なる金星がイシュタルの性愛面を、イシュタルの槌が戦闘面を、それぞれ象徴している。こうした二面性は、世界中の多くの地母神に共通するものだ。大自然の包み込むような優しさと、人の命を軽々と奪っていく猛々しさとの反映である。そして、この母権的二面性は、父権的一神教と鋭く対立した。ユダヤ/キリスト教がイシュタルを悪魔へと貶め、『ヨハネの黙示録』でイシュタルが「バビロニアの大淫婦」と呼ばれたのは、そうした理由による。

ところで、二面性といえば、「偽典・女神転生」では、シェルターと地上世界が秩序と混沌にそれぞれ対応し、コントラストを見せているようだ。シェルターには階級があり、法があり、安定した秩序の中で人々が暮らしている。一方、地上は力がものをいう混沌とした世界で、母なる金星のような教団が存在することからもわかるように、道徳や倫理もあまり価値をもっていない。強ければ生き、弱ければ死ぬ。ペンタグランマのメンバーたちも、己の腕と、リーダーの力量のみを信じていた。

そう考えると、シェルターが次々に壊滅していく様は暗示的である。現代社会に生きる私たちは、秩序ある状態を「自然」だと思いがちだが、本当は混沌こそが「自然」な状態なのかもしれない。地上の混沌とした状況は、原初の姿に帰っただけとも捉えられる。

そうした、制度やルールが守ってくれない場所で、人はどう生きるのか。この哲学的・宗教的な深いテーマを、偽典のみならず、女神転生シリーズはずっと描き続けているような気がする。己の力のみを頼るのか、それとも多くの仲間(仲魔)の協力を得て、秩序を取り戻すのか。はたまた第三の道があるのか。プロデューサーの鈴木一也氏は、偽典でもこのテーマを問いかけるべく、シェルターがことごとく潰れていくという仕掛けにしたのではないだろうか。まさに、「ガイア教大司教」の面目躍如といえよう。

懐かしい仲間

旅を続けよう。この時点で六本木方面にも行けるようになり、Windows版のフローチャートでは六本木に行くよう指示されている。しかし、本書ではそちらは後回しにして、主に南下するルートを進むことにする。別にハマったりはしないので、ご心配なく。

まずは、バール教団支部から。銀座地下街やイシュタル教団とは、目と鼻の先にある。またバール兵に襲われる……なんてことはないので安心していい。ただ、警備兵として、バエル信者クラレとマシン・T-93βが出現する。

とくにイベントはない。バール兵に無視されたり睨まれたりするが、母なる金星の保護を受けた葛城には手が出せないらしい。それにしても、バール教団とイシュタル教団は不思議な関係である。一方はLIGHT寄り、もう一方はDARK寄りだが、どちらもいわば悪魔崇拝である点では共通しており、お互いに争うこともない。本質は同じだということなのだろうか?

コラム:T-93

鈴木大司教いわく、一連のロボット兵器は、大破壊前、自衛隊の五島司令の特秘命令によって設計・開発されていたものだという。二足歩行タイプのT-93に対し、安定性と防御力を重視した四足歩行タイプとして開発されたのが、T-95だった。一万台が生産され、大破壊後もゴーレムの名で知られた(『真・女神転生II』)。各用途向けにカスタマイズも行われ、たとえばT-95C/Pは警察に配備されたタイプである(『真・女神転生I』)。

偽典ではなぜか、T-92シリーズが二足歩行タイプで、T-93シリーズが四足歩行タイプになっている。同じように鈴木大司教が悪魔の設定を担当しているはずなのに、食い違っているわけだ。おそらく、T-93のプロトタイプがT-92αとT-92β、T-95のプロトタイプがT-93αとT-93βということなのだろう。プロトタイプなら、制式版と型が違ってもおかしくない。

T-93シリーズは、現在、バール教団がコントロールしているようだ。教団施設の護衛のほか、東京中を動き回って情報収集も行っているらしい。不思議なことに、葛城がIDコードを入力すると戦闘を回避できる。コードがすでに登録されているわけで、葛城とは戦うな、という指令がどこからか出ていることを窺わせる(第7章4節参照)。

バール教団支部の北西、大手町にはミレニアム総本山がある。秋葉原の酒場で聞ける噂によると、メシアを名乗るマイトレーヤという男がいて、ヒーリングを行っているという。その効果たるや、歩けなかった者が歩けるようになるなど、奇跡的なものであるらしい。

ミレニアム総本山2Fの一室で、それは実際に行われていた。一目でそれとわかる若い男性がいて、周囲には側近の信者が控えている。マイトレーヤが葛城たちに手をかざし、小声で呪文らしきものを唱えると、淡い光が男の手より溢れ、葛城たちの体に吸い込まれていく。無償ながら、これでHPは完全回復。この力で、死者をも甦らせることができるらしい。なお、1Fには病院もあり、MPやコンディションの回復が可能である。また3Fでは、マジカルハーブ×6と、エクトプラズムを入手できる。

信者たちから話を聞く。ミレニアムは、来るべき千年王国建設に向け、その雛形として作られた場所なのだそうだ。信者たちは働かなくても衣食住すべてが保障されており、争いごともなく、魂を高めるために絵を描いたり、詩を作ったりして暮らしている。渋谷のように信者を制限することもないのだという。まさに理想の楽園である。

司祭がいて、もう少し詳しい話を教えてくれる。ミレニアムに戒律は存在しない。精神のランクを表す一応の階級が定められてはいるが、ミレニアムで暮らして一定期間が過ぎると、自然に上がり始めるという。最終的に上位者となると、マイトレーヤのいる4F以上の階に入ることが許されるらしい。そのわりにはこの司祭、ずいぶん長く教団内で暮らしているようなのに、上位者ではない。何か理由でもあるのか。

信者たちの目標は、上位者になってマイトレーヤの側近く仕えて暮らすことにある。その側近中の側近が大司祭だ。一般の信者が会えるただひとりの上位者であり、マイトレーヤの出現を予言したという人物である。マイトレーヤの身の回りの世話をすべて取り仕切っているというから、彼が実質的に教団を束ねているのだろう。優しく、聡明な人物として、一般の信者からは敬われている。

また、ミレニアムには、信者のほかにガーディアンたちがいる。その名の通りミレニアム内を警護しているのだが、もっとも階級が低いため、信者たちからは、教養に乏しく、魂すら貧しい、腕っ節だけが取り柄の輩だと思われている。いわば、番犬というわけ。しかし、その役割ゆえに、上位者の住むエリアにも出入りが許されているのだ。

階段で4Fまで上ってみると、中央付近の扉を境にエリアが大きく2つに分かれている。扉の先は、上位者が住むというエリアだ。進もうとすると、謎の声に呼び止められ、現れたガーディアンに追い返されてしまう。声から察するに、これが大司祭なのだろう。信者以外の者も断固として追い返そうとするのは、なぜなのか。おまけに、ANSを見ると向こうのエリアになぜか悪魔の反応が……。何かが隠されていることだけは、間違いない。

コラム:マイトレーヤ

マイトレーヤとは、サンスクリット語で弥勒菩薩のこと。弥勒菩薩は、現在は欲界の兜率天とそつてんで説法をしているが、釈迦入滅後56億7千万年後に仏となってこの世に現れ、衆生を救うとされる存在だ。そのルーツは、インドの古き神ミトラにあるという。

大乗仏教では、密教をのぞいて即身成仏を否定するのが一般的で、悟りを開くまでには何度も転生を繰り返して、気の遠くなるような長い時間がかかるとされる。そして、釈迦如来の次に仏になるのは弥勒菩薩と決まっているのだという。すると、修行しても悟りを開けないのなら、弥勒菩薩の慈悲にすがったほうがよいということになる。これがいわゆる弥勒信仰であり、日本にも古くから伝わり、『日本霊異記』にもその信仰を見て取ることができる。

と、ここまではわりと一般的な話。だが、偽典の奥深さを甘く見てはいけない。話はこれで終わらないのだ。というのは、ミレニアム教団のマイトレーヤの元ネタが弥勒菩薩だとすると、彼が救世主を名乗って教祖になっていることの説明がやや弱い。弥勒菩薩としてのマイトレーヤと、ミレニアム教団のマイトレーヤとを繋ぐ、ミッシングリンクが存在するはずだ。

謎を解く鍵は、19世紀を代表するオカルティストの一人、ブラヴァツキー夫人が著した、『シークレット・ドクトリン』という書物の中にある。そこには、アトランティス・レムリアなどの「根源人種」の物語や、アストラル体・エーテル体といった霊的存在の理論と並んで、世界教師マイトレーヤ到来の予言が書かれているのだ。

そして、実際にそのマイトレーヤは「発見」された。ブラヴァツキー夫人が創始した神智学協会は、彼女の死後、インドのアディアル近くの海岸で見つけたジッドゥ・クリシュナムルティ少年をマイトレーヤと認定。さらにクリシュナムルティをメシアとして崇拝する、「東方の星」教団を設立した。この教団こそ、ミレニアム教団の直接のモデルになっていると思われる。

さて、ミレニアム総本山からさらに北上すると大手町駅がある。B2Fには妖精タム・リンと堕天使ベリスが出現するが、ここではタム・リンを斃すなり、仲魔にするなりして雷迅剣を手に入れておきたい。攻撃力の高さもさることながら、「感電」の追加効果は強力だ。

ただ、あまり深入りしないほうがいい。B3Fのあるエリアには鬼女ゴルゴンと龍王ナーガ・ラジャがいて、これもなかなか強敵だが、B4Fの、鬼女ランダと邪龍ラドンが大量に徘徊するエリアはもっと危険だ。ここに迷い込むと、下手をすると生きて帰れないおそれがある。なにしろランダは剣や銃の攻撃をすべて跳ね返し、マリンカリンとマシバーハで動きを封じてくる凶悪さだし、ラドンも邪龍最強で体力がやたら高い。いまの段階では、ここで腕を磨くのはリスクが大きすぎる。

銀座地下街から東よりに北上し、隘路をぐるっと回り込むようにして西に進むと、八重洲地下街がある――はずなのだが、ただ瓦礫が積み上がっているばかりだ。そんな場所でも孤児たちが住んでいるらしく、リーダーらしき少年が現れ、立ち入りを拒絶されてしまう。その少年、どこかで見たような顔だが……。

銀座から南下すると、新橋駅がある。この駅は、銀座線と臨海新交通が走っている。そのため、銀座地下街から銀座線ルートで来るほうが早いだろう。そして、銀座線ルートだと、新橋駅のさらに先に、旧新橋駅が見つかるはず。暗闇の中、人影の無いホームが静かに横たわっている。大破壊前のものであろう、ずいぶんと古びたプレートが斜めに壁に掛かっていて、よく見ると「新橋」と読める。

ふと見ると、ホームの一端に何かが転がっている。慎重に近づいてみると、悪魔ではない。金属の塊のようだ。ピクリとも動かない。さらに接近する。どこか見覚えのある形だ――葛城の脳裏に違和感が広がっていく。

それは、ニュートンの変わり果てた姿だった。それまでの進み方によって異なるが、初台シェルター以来、もしくは新宿都庁襲撃以来の再会である。ニュートンは、かなりのダメージを受け、もはや残骸と化していた。だが、たとえこのような姿になったとしても、渡すべき人がいるはずだ。葛城は、ニュートンの残骸を拾い上げた。

市ヶ谷シェルターでは、英美がいつもと変わらず日下の助手として、懸命に働いていた。部屋に入ってきたのが葛城たちだと知ると、にこやかに話しかけてくる。だが、葛城が差し出したものを見ると、英美の表情が変わる。驚き、喜び、そして悲しみの入り交じった、複雑な表情だ。

残骸に駆け寄る英美。奥から機材を取り出してきて、丁寧にニュートンの修理を始めた。心配してたんだよ、と語りかけながら。シェルターの整った設備と英美の腕前があれば、なんとかなるだろう。彼女が作業をしている間、葛城たちは向かいの部屋で日下と話をして時間をつぶす。

しばらくして戻ってみると、そこには元気になったニュートンの姿が。人工知能部分が、奇跡的にほとんど破壊されていなかったのだという。英美や葛城のこともちゃんと覚えているし、経験もそのままだ。しかも、改良で以前よりパワーアップしたらしい。ニュートンは、嬉しそうに尻尾をふりながら吠えている。

ニュートンを連れて行ってほしい、と英美が頼んでくる。基本が戦闘用だから、葛城といっしょにいたほうが役に立つ、と。ニュートン自身もそれを望んでいるようだ。ありがたく申し出を受けることにする。ニュートンは、ふたたびパーティーに参加することになった。「よかったね。しっかり葛城くんを助けるんだぞ!」。英美の声が弾んだ。

パワーアップしたとはいえ、いまのパーティーの水準から見れば、ニュートンは力不足だ。そこで、まずは装備を更新しよう。防具である10ミリ複合装甲は外して、各部位ごとに装備を調えること。案外装備できるものが少ないが、鋼鉄の鱗、ガーゴイルヘッド、テイルハリケーンなどを買っておく。武器は、とりあえずトライホーンあたりでいいが、余裕があればサイバーブレードにする。

ちなみに、パワーアップ後も、ニュートンのグラフィックは変わっていない。が、変える予定はあったようなのだ。変更後のグラフィックが、没データとして残されている。

以上が自然な展開だろうが、実は日下に修復してもらうこともできる。日下にニュートンの残骸を渡して入手の経緯を説明し、直してくれるよう頼む。すると彼は、大破壊前の情報を蓄積したシェルターメイドのマシンの出来に感心するものの、己の労働に対してはそれに見合う報酬を要求するのがポリシーだ、といって、修理費用1万マッカの前払いを求めてくる。

交渉成立の場合、日下が修復している間、葛城たちは英美と話をすることになる。日下先生は高いお金を取るが、腕前は超一流だからなんの心配もない、と英美はいう。戻ってみると、ニュートンはすっかり元通りに。予想以上に修理が簡単だったので、超過した修理費用分でパワーアップもしてくれた。しかも、そこは日下だけあって、英美に修復してもらった場合より10レベル分も能力が向上している。即戦力を期待するなら日下に任せたほうがいいだろう。元気になったニュートンを英美に見せると、やはり葛城に連れて行ってくれるよう頼んでくる。

なお、ニュートンは格闘と魔道の技能を最初から修得しているので、能力値の上昇は、力、敏捷性、魔力、精神力に偏っているようだ。

市ヶ谷シェルターをあとにしたら、一度護国寺に寄っておこう。そこには奇妙な西洋鳥居が建てられているが(第5章3節参照)、相馬はそれを見て驚く。「あのときはこんなもの、影も形もなかったのに……」

相馬が語りはじめる。それは、西野と相馬が護国寺にたどり着いてまもなくのことだった。アスタルテ率いる悪魔の軍勢が、奇襲をかけてきたのだ。由宇香の心臓を喰らったかの悪魔が、なぜここに。よほど都合の悪いものでもあったのだろうか。

とにかく、ふたりは僧侶たちとともに応戦したが、強大な地獄の炎を操るアスタルテの前には無力だった。悪魔たちは護国寺を破壊し、焼き尽くしたのだ。相馬が死を覚悟したそのとき、西野は相馬に魔法をかけた。気がつくと、相馬はひとり鬼子母神の境内にいた。あわてて護国寺に戻ったときには、すべては終わっていた。辺り一面の焼け野原。

だが、諦めきれない相馬が瓦礫を掘っていくと、西野の遺体は案外早く見つかった。不思議なことに、ほかの僧侶たちは骨まで灰にされてしまったのに、西野の遺体は眠っているように美しかったという。相馬は、西野を埋葬してそこを立ち去った。

このエピソード、そして西洋鳥居が意味するものは、いったいなんだろう。それに、埋葬されたはずの西野だが、それらしき跡は見つからなかった。西野の遺体は、どこに消えてしまったのだろうか。

新橋駅近くから高速道路に乗り、南下する。分岐点を西に折れ、進んでいくと、東京タワーが見えてくる。高速を降り、東京タワーに行ってみよう。入口から少し奥のところにターミナルがあるが、扉がロックされており、いまは利用できない。エレベータ付近の端末からは、DCSマブダチくんがダウンロードできる。

地下には、邪教の館と水族館がある。水族館の主人は、水槽で悪魔を育てるのが趣味という変わったオヤジだ。イヒカとアズミが増えすぎたので、好きなだけ持っていってくれという。たしかに、だだっ広いホールに水妖イヒカと水妖アズミがうじゃうじゃいる。でも、好きなだけといわれてもねぇ。

ところでこのオヤジ、いったい何者なのだろう。これだけ多くの水棲悪魔を飼い慣らしているのだから、なかなか強力な悪魔使いのはずなのだが。それに、餌である大量のマグネタイトを、どうやって調達しているのかも謎だ。東京タワーに集まってくる霊気を取り込んでいるとか。それとも、邪教の館と提携しているのかもしれない。

エレベータからは展望台へ行ける。大破壊前、第1展望台と呼ばれていたところだ。ここはなぜか、妖精エルフと地霊ドワーフが大量に出現する。犬猿の仲のはずなのに。展望台から上にのぼるには、階段を使うしかない。途中、けっこう強力な悪魔が出現する。妖鬼プルシキ、闘鬼ヤクシニー、降天使エリゴール、地霊ジャイアントなど。最上階は8F。かつて特別展望台と呼ばれていた場所だ。なにもイベントは起きない。扉の外も、ただ空が広がるばかり。ここには、あとでもう一度来ることになる。

東京タワーからさらに西へ。終点で高速を降りて南西に向かうと、そこには恵比寿ガーデンがある。いくつかの建物が並んでいて入口が4つあり、1つはかなり離れたところにある。離れたほうの入口から入ると、うんざりするほど長い通路が延びている。大破壊前には動く歩道があり、何回も乗り換えて進むようになっていた。実は、この動く歩道、大破壊後も稼働している。通路の右端を進むと、移動がずいぶん楽になるはずだ。

恵比寿ガーデンは、天使が護る聖地、渋谷に入ることを望む人々で溢れかえっていた。大破壊前は人々が享楽の限りを尽くした混沌の街が、いまや聖地。皮肉なことである。建物の中は、かなり広い。まずはB1FのターミナルからAMSデータをダウンロードし、セーブしておこう。このフロアにある端末からは、セーバーIVをインストール可能。また、銘酒魔界降臨も拾える。2Fから階段を下りた先(1F)には、黄金の宝箱があり、満月ならルビーが入っている。3Fではマグネタイトを入手。4Fにはエンゼルヘアー×4。なお、1Fにある第3のエレベータから39Fにのぼると、地霊レーシーと天使カシエルが出現するエリアに出る。奥には邪教の館が。

施設も整っており、マッカさえ十分にあれば、銀座よりも1ランク上の装備に買い換えることができる。まずは1Fの防具屋。葛城にはフォースジャケット、ハロウテンプル、サイバネレッグス、ニュートンにはドラゴンマスクあたりがお勧めだ。ただ、ベビーフェイスには注意。装備すると呪われてしまう。

B1F。武器屋で絶対入手しておくべきなのが、虹色の杖。トラポートを無制限に使える優れものだ。ほとんど必須アイテムとさえいえる。装備すると呪われてしまうが、たぶん装備することなどないだろう。ニュートンのために、ハイパーフォトンを買ってやれればいいのだが、いかんせん10,0000マッカという超高級品なので、おいそれとは手が出せない。あと、剛弓と殺生矢(追加効果は「瀕死」)の組み合わせを試してみるのもおもしろいかも。

住民の話を聞くと、多くが渋谷に対する繰り言である。結界を張って一部の人間だけをかくまうという天使たちのやりかたは、かなり評判が悪い。嫉妬と羨望がありありと見て取れる。それでも、悪魔が比較的少ないとされるこの場所を離れようとする者は、あまりいない。

廃ビルになった、品川の大きなホテルについての情報が聞ける。最近、そのホテル跡から、小さな女の子の笑い声みたいなものが聞こえてくることがあるという。中は、おとぎ話の世界のようになっているらしいのだが、悪夢みたいな場所だ、という話も。いったい誰が作ったのか。

また、古びたほこらにあるという、不動明王の木像の情報も重要だ。何者かによって両目をえぐり取られたのだとか。ほこらが光っているのを見たという人もいる。恵比寿ガーデンの近くには目黒不動があるが、たしかに不動像には瞳がない。この不動像は東京各地に散らばっており、これらの繋がりも一度調べる必要がありそうだ。

それから、浅草の噂も記憶しておこう。御花屋敷という遊園地の跡地に妖怪たちが巣くっているという。実際、そばを通りがかった者が、何者かに転ばされるとか、首筋にひんやりした物が触れるという事件も起きている。周囲を見回しても人影がなく、仕掛けも見あたらない。そこで妖怪の仕業だ、と。

まあ、今回もこのあたりがキリのいいところだろう。次回へ続く。


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